第6話 俺の部屋

同人誌やら漫画を読んで飽きたので帰ることにする。ついてくるファイ子とファイ子に絡むチリと一緒だ。


ありがたいことに、ファイ子は俺の帰宅路の途中までしかついてこない。高校を出て田舎道を歩いていき、駅に着き、電車に乗り込む頃には跡形もなく消えている。


電車に揺られて、景色を眺める。

今日は、チリが隣に座っていて

何駅か向こうの街に用でもあるのかなと思っていると

「えーいなりー。久しぶりに家に行っていい?」

と言ってきた。何か用か?と尋ねると

「ちょっと聞きたいことがあって……」

とモゾモゾと呟く。ま、いいかと頷くと

嬉しそうに

「ありがとっ」

と言ってきた。


電車で一駅先に俺の住む村はある。

駅から出て、高校への通学路とさして変わらない、多分日本ならどこにでもあるような、左右に水田や畑が広がる田舎道を歩き、そして建物の並ぶ山間の集落にたどり着く。


歩いている間、ずっとチリはよくわからないアニメの話をしていた。聞き流しつつ、2階建ての自宅にたどり着いたので、鶏が飼われている庭を通って、引き戸を開ける。

「ただいまー」

声をかけたが兼業農家の両親は仕事でいないようだ。爺ちゃんも出ているらしい。


「えいなりの家って広いよねー」

「爺ちゃんが昭和の時代に建てたからなあ」

などと適当に会話しつつ

二階の俺の部屋に入る。うちの家の部屋はほぼ和室だ。

荷物をベッド脇に置いてから

「何か食いもん探してくる」

と一階の冷蔵庫や、棚を漁って

お菓子を集め、部屋に戻るとチリが俺の部屋の漫画を漁っていた。

お菓子を脚の低い丸机に置き、もう一度一階へ行き、ジュースを2人分入れて戻る。

畳に座布団を敷いてチリに座るよう促し

「で、話があるんだよな?」

と丸机越しに尋ねると、チリは正座で座り直し

「えいなり。聞いて」

と真剣な眼差しで言ってきた。


しばらく沈黙が流れたあと

チリが顔を真っ赤にしながら

「こっ、こんなこと言ったら、嫌われるかもしれないけど…」

と前置きしてから

「わっ、私、同人誌描きたいけど……おっ、男の人の身体について、まっ、まだ、よく知らなくて……」

チリはいきなり立ち上がると、俺に抱きついてきて

「私の初めてを貰ってっ」

と言ってきた。

俺は一瞬断ろうかと思ったが、よく考えると俺も童貞だし、変な異星人につきまとわれていて、もてないし、田舎のさえない高校生の俺たちが、初めて付き合って色々経験するのも悪くないか、何より大事な友達の真剣な願いだしと思い直し

「うん。いいよ」

そう答えた瞬間だった。


「まてええええええ!待ってエエエ!」


耳をつんざくような奇声と共に玄関の引き戸が荒々しく開き、猛烈な勢いで何かが階段を上がってきて、そして俺の部屋の扉が勢いよく開いた。

俺とチリが抱き合ったまま入口側を見上げると顔面蒼白のファイ子が裸足で立っていた。真っ白のスクール水着のようなものしか身に着けていなくて、なぜか全身が濡れている。

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