第3話 ファイ子

チリを横に優しく手で退かして

俺は一歩前に進み出て、スラッとした人影を見つめる。

170cm弱で八頭身の小さめの頭に完璧に似合っている姫カットは、虹色に淡く輝きながら、田舎の通学路を吹く朝の風に美しくなびいている。白い肌の太ももが見えるほどスカートを短く切った高校の女子用の制服姿は、軽く舌打ちするほどに見慣れても未だに魅力的だ。鼻筋の通った顔立ちの潤んだ唇、そして宝石のように好奇心で満ちて輝く、緑の眼球を持つ大きな両目……ああ、こいつがファイガラスファルエヌバ……通称ファイ子じゃなきゃなあ……。エリンガ人じゃなくて、人間の女ならなあ……と残念な気持ちになった俺は、聞こえるようにわざとらしく大きくため息をつくと、チリの背中に手を回し、二人同時に回れ右をして、通学路を再び進みだした。


「ふふっ……私を置いていくのですかあ?」

ファイ子は動じずに素早くチリの逆隣に並んで歩いてきた。そして鼻をつまみながら、俺の体をジロジロ見つめてくる。

「ファファファ……ファイ子っ……通報するよっ」

チリが少し怖気づきつつ俺の身体越しにファイ子を見上げながら言う。

「何もしていませんがあ?」

ファイ子は歩きながら両手を広げて首を傾げる。チリは悔しげに

「あっあんたが、男子トイレと男子更衣室盗撮してるの知ってるんだから!」

とつい口を滑らした。ファイ子はきれいな顔で爽やかにニヤーっと笑い

「エリンガ人特別保護法違反ですよお?チリさんはやってもいない罪で人を裁くのですかあ?」

「人じゃないっ!エイリア……むぐぐ」

俺が失言を重ねるチリの口を塞ぎつつ

「ファイ子、もうやめてやれ」

しかたなくそう言うと

ファイ子は少し嬉しそうにはにかみ

「男性ホルモンもう少し何とかなりませんかあ?」

またのたまいつつ、わざとらしく鼻をつまんできた。

「慣れろ。筋トレはやめねえからな」

「いや筋トレよりオナ……いや、やめておきましょうかあ」

ファイ子はチリに本気で睨まれて口を閉じつつ微笑んだ。俺たち3人は校門をくぐる。






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