Episode12 - B2
近くまで来た事で分かった事がある。
人間の背骨のように見えていた相手の得物。確かに基部自体は背骨の様だが、所々に鉄のようなもので補強がされており、しっかりと刃が付いている片刃剣のような代物だ。
加えて、背骨の凹凸を使う事でソードブレイカー的運用も出来るのだろう。彼女は凹凸に嵌った『想真刀』を折ろうとしているのか、軽く背骨を捩じるように力を加えてきている。
「残念、コレそういうのじゃ折れないんだよ。私もどうやったら折れるのかってのは知りたくてね?」
言って、思いっきり右足でその白い身体を蹴りつける。
防がれる事は無く命中したものの、まだ完全に集中しきっていない為にステータス強化は乗っていないただの蹴りだ。
お互いの得物の距離を少し離す為だけのもの。だが、それだけではない。
周囲の紫煙を操る事で大量の腕を作り出し、
「さ、やってみたかったんだよこういうの。試させて?」
薄く、それらを紫煙の糸で私の身体へと繋げつつ、私は呼び戻された手斧を手首のスナップだけでグレートヒェンへと投げる。
当然、力も何もない一投だ。簡単に避けられてしまう。だがそれでいい。
これだけなのか、と言わんばかりの表情を浮かべつつ、こちらへと再度再び突っ込んでくるグレートヒェンに私は笑みを返す。
私の目の前で軽く跳び、背骨を上段から大きく振り下ろそうとした所で……その身体が大きく仰け反った。
『――ッ?!』
「ふふッ!」
何が起きたか理解出来てないのだろう、空中で体勢を崩しつつも動きを止めずに背骨を振るう彼女に対し、私はしっかりと観てそれを避け、がら空きとなっている側面へと向かって刃を振るう。
硬い。肉体ではなく骨の身体だからなのか、刃が当たったもののすんなりとは通らず弾かれる。
しかしながらHPにダメージ自体は通っているようで、彼女の頭上に浮かんだHPバーは少しだけ削れてくれた。
少ないダメージだ。しかしながら徹らないよりは絶対にマシであり……尚且つダメージを与えられたという事は、
「君の力、使わせてもらうよ」
『想真刀』の効果、能力吸収が発動する。
体勢を立て直しつつ背骨を振るうグレートヒェンに対し、刀をしっかりと合わせる事で応戦し、その動きを観て覚えていく。
その間にも、時折グレートヒェンは横や後ろから強い衝撃を受けダメージを喰らっている事があった。
何事かと背後に振り返って確認しているようだが……そこには誰もいない。彼女に挑んでいるのは私1人だけなのだから。
……上手くいってるようで何よりだよ、本当に。
当然、私の仕業であり、私の攻撃……新しい戦術の1つだ。
「見切れると良いねぇ、出来ればしないで欲しいけどッ!」
背後を確認する、というのは余裕がある時だけにしてほしい。
そういう思いを込め、再度強い衝撃が彼女を襲ったタイミングで一歩前へと踏み出しながら、刀を構える。
酒気の鞘に覆われた『想真刀』が空を走り、その白い陶器のような首へと迫っていく。
避けられないと判断したのか、彼女は自身の身体と刃の間に背骨を盾のように構えたものの、
「はい、ダメー」
今度は背骨に黒い何かが命中し弾かれ、私の刃が首へと届いた。
浅いものの、しっかりと傷が付きHPが削れていく。
ここまで来て、やっと至近距離に居続けるのはまずいと判断したのか、グレートヒェンは一度大きく後方へと跳び退こうと足に力を入れ……両肩を下へと向かって瞬間的に抑えつけられた為に、失敗し仰向けになって倒れてしまう。
慌てて身体を起こそうとするものの、周囲から集まってきた紫煙、そして酒気によってその身体を地面へと縫い付けられ拘束された。
『?!』
「混乱しちゃうよね。私でもそうなると思うよ」
ここで遠くから私の手元へと黒い物……手斧が飛んできて、すっと収まった。
私が行った新しい戦い方。それは『想真刀』を活かしつつ、紫煙外装も使う戦い方だ。
今までの戦いでは、どちらかを使う時はどちらかを軽く放りだす事で一極化、専門的に戦っていたわけだが……それでは結局の所、私のスペックを最大限活かす事が出来ていなかった。
だからこそ、私は今回の外界侵攻中に確認していたのだ。【投げ斧使い】がどこまでの範囲に適用してくれるのかを。
そうして出来上がったのは、私ではなく紫煙や酒気で出来た腕を使う事で手斧を投げるスタイル。
『想真刀』で近接戦闘を行いつつ、手斧を投げつける事でダメージをより稼ぐ事が出来るようになった、私の新しい戦い方だ。
敵に避けられれば紫煙の腕がキャッチし、再び投擲。それが弾かれればまた別の腕が回収して投擲。
命中しても同じように回収され、再度投擲。これを延々繰り返す事で、相手は目の前にいる私だけでなく、周囲にまで気を配らねばならなくなる。
今は私1人分の紫煙と、身体から発せられている酒気しかないために手斧のみでコレを行っているものの……これが大人数での戦闘になったら大きく化けるだろう。
なんせ、プレイヤーが増えれば増えるだけ、私が腕や投げる用の斧として使える紫煙が増えていくのだから。
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