Episode2 - S1
--マイスペース
『――で、ご主人様は一体何を?』
「ん?見ればわかるでしょ?煙草の補充だよ」
私が床に座り込み作業を開始すると、ルプスが見かねたのか話しかけてきた。
もしかしたら補充くらいならば自分がやるべきだと思っているのだろうか。
「こういうのは自分でやっとかないとね。熟練度の事もあるし」
『いえ、私が言いたいのはそうではなく……』
珍しく歯切れの悪いルプスを不思議に思い、そちらを見てみると。
彼女は私ではなく、
今もすり鉢に入った素材をすりこぎ棒によって細かく粉砕しているのが目に見える。
『どうして自らの手ではなく、紫煙を使っているのか、と聞いているのです』
「あー、成程ねぇ」
マイスペース内に漂う、大量の紫煙。
私がST回復用に吸ったのが主ではあるが、それ以外にも、適当に効果を確かめるために火を点け一口だけ吸った煙草から出たものも多い。
そしてそれらが今どうなっているかといえば……複数の手の形をして、『煙草用クラフト設備(初級)』にて煙草の製作を行っているのだ。
無論、普通の紫煙であれば物に干渉する事は出来ない。
しかしながら、その問題はスキルを使う事で解消出来たのだ。
「ちょっと気になってさ。スキルを新しく修得したんだよ。【状態変化】ってやつ」
『……成程』
――――――――――
【状態変化】
種別:汎用
熟練度:37/100
効果:触れた物の状態を変化させる
――――――――――
効果説明はそれだけだが、実際使ってみると中々に便利だ。
紫煙を【魔煙操作】によって手の形に変化させ、それに触れる事で【状態変化】によって固体にする。
固体であっても【魔煙操作】の効果適用範囲内だった為に、自分の思うように動かせる。
言葉にすればそれだけだが、私の頭の中では複数の手を操るという処理を現在進行形で行なっている為に……中々余裕はない。
今も何個かの手が混線して、素材を粉砕する筈がローラーを使おうとしたり、逆にローラーを使おうとしてすり鉢へと素材を入れてしまったり。ローラーを素材として粉砕しようとしている手まである始末だ。
『ですが……役に立つのですか?見る限り、実用には遠く及ばないように見えますが』
「実際役には立つと思うよ。これは手の形だけど、私だったら斧の形にすれば……それだけで何個かのスキル乗せられるしね」
それこそ、紫煙駆動時に出現する紫煙の斧を大量に作る事が出来る、と言えばいいだろうか。
と言っても、個々のスペック自体は低い為に見掛け倒しにはなるだろうが……それでも威圧自体は出来るだろう。
……ま、見掛け倒しだけでも十分なんだけどね。こっちの紫煙駆動の内容を誤魔化せるってだけで儲けもんでしょ。
実際、他にも考えている事はある。
紫煙の狼を大量に作り出して襲わせる、紫煙の盾を作り出し相手の攻撃を延々防ぐ、液体にして津波のようにする等……騙す方法は幾らだって存在するのだから。
今はその机上の空論状態の考えが実際に出来るのかどうかを確かめる段階、とでも言えばいいだろうか。
私はこのスキルを得てから日が浅い。それこそ、『人斬者』と初めて戦った後に修得したレベルの日の浅さだ。
「ま、だから勉強中ってワケ。固体はそうだし……液体にした時の挙動とかもね」
『成程……失礼しました』
「良いって」
こちらに頭を下げてくるルプスにフィルター加工の作業を任せつつ、私は考える。
正直な話、【状態変化】は使えるスキルではあるだろう。
しかしながら、まだ一手ほど足りていない……というか。これが出来るならばこれも欲しい、という考えが浮いては消えていく。
それに固体状態の紫煙の強度なども確かめられてはいない。
リベンジ時の『人斬者』に対しては最後の詰めとして使ってはいたが……相手が相手の為に強度を確かめるのには向かないだろう。
……一回、どっかのダンジョンに潜るか……【二面性】で鴉天狗呼ぶかな……。
現状、それが一番楽に検証を行える方法だろう。
歯車も手に入るし、何なら考えている戦術なんかも試せる。思ったよりも強力ならば『人斬者』との戦闘でデスルーラをするついでに試す事も出来る。
「よっし。何はともあれ、もう1個……気になってたスキルを修得してから行きますかねー」
私はスキル修得用のメニュー表を出現させる。
一応、過ぎた事ではあるが『四重者』を討伐した事によって3つのスキルがアンロックされたのは確認している……ものの。
今まで触れてこなかったのは、正直私のプレイスタイルからは離れてしまっているスキル群だったからだ。
修得したプレイヤーが出していた情報をまとめるとすれば。
・薬品用の生産スキル【薬品精製】
・サーカスのような曲芸じみた動きに補正が入る【曲芸】
・プレイヤーが愉悦を感じるとそれに応じたバフデバフが入る【愉悦の心得】
という感じに、確かにあのピエロが持っていそうなスキル群ではあった。
この中でも、唯一【曲芸】は使う可能性もあるが……それでも、優先度は低い。
何ならラーニング出来るかもしれない為に、素材を使ってまで修得する旨味が薄いのだ。
「ま、次回に期待っと。……えーっと、検索してっと……おっ見っけた」
兎にも角にも、今は別のスキルだ。
メニュ-表を検索し、出てきたスキル名を掲示板の情報と照らし合わせつつ。
お目当てのスキルを見つけ、三度くらい確認した後に修得した。
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