Episode20 - EB2
『紫煙駆動』
口に出すと共に、私は再度一歩踏み出した。
対処が出来たならば、次も出来る。出来るならば……それを繰り返していけば、打倒出来る。
手斧を片手に持って、
『応ォオ!』
『人斬者』が足を動かすのが観えた。
やはり道中の動きは観えないが……それでも、動きの始まりが観えたのだ。
ならば、その後は
刀を振り上げた状態で目の前に出現した『人斬者』に合わせるように、私は紫煙の斧をその首筋へと叩きつけるように操った。
『――ッ』
『反応、シタナッ!』
一瞬。本当に一瞬だ。
『人斬者』は紫煙の斧に対して視線を向け、僅かに避けるように身体を動かした。
その所為か、彼の太刀筋は少しだけブレ……袈裟斬りだったそれが、脳天からの両断へと切り替わる。
集中しすぎているのか、それとも死が近い為か。非常にゆっくりとした時間の中で、私は動く。
頭の上から迫ってくる刀に対して、先程のように手斧を使って防御する事はしない。
観えたからこそ、紫煙の斧を合わせる事が出来た。ならば、観えているのだから避ける事も出来るはず。
出来なかったら私の身体の何処かしらが斬り飛ばされるだけの事。メウラには申し訳ないが。
身体を半身にするように、頭上の刀が身体のすぐ横を通るように身体を動かして……私は瞬間的にその場にしゃがみ込んだ。
一文字を描くように、刀が頭上を通っていくのを吹いた風で感じる。
……次は多分、斬り上げッ!
そのまま私は『人斬者』側へと前転をして、すぐさま振り返る。
刀を振り下ろしたソレに対して、私はいつの間にか浮かべていた笑みを更に深くした。
手斧を無防備な背中へと叩きつける。
一度、二度、三度と叩きつけ、『人斬者』が目の前から消えた。
「俺が居なくても大丈夫じゃねぇか」
『イヤ……オカシイ』
しっかりと狙い、そして相手が防御できない背中へと手斧を叩きつけたはずなのだ。
それなのに、私の手に伝わってきたのは相手の身体を叩く時の、肉を断つ時の感触ではなかった。
水に対してじゃぶじゃぶと遊んでいたかのように。実体の無いものへと棒を叩きつけているかのように。
手に残ったのは、ただの虚無だった。
『フゥー……メウラくん」
「何だ?」
『人斬者』は動かない。
あくまでこちらが踏み込んだり、その場から動いたら反応する装置のようなモノなのだろう。
昇華の煙を、自身の身体から抜いていくように意識して【魔煙操作】を行うと。
少しだけ薄まった昇華の煙が、口の端から漏れていくのを目の端に見つつ……『人斬者』に対して考える。
「このダンジョン名は【二面性の山屋敷】」
「そうだな」
「これまで1層と2層は……まぁ2層はどうかはおいといて。1層は表側、裏側って切り替わりがあったよね」
これまでのダンジョン探索を思い出しながら。
私は自分の感じた感覚を形にするべく、確認するかのように言葉を口にする。
「あったな。……何が言いたい?」
「今、『人斬者』を手斧で攻撃した時……感触が無かったんだよね」
「感触が……1つ確認させてくれ」
「何だい?」
一度ST回復用の煙を二つに分け、片方をガスマスクに、もう一つを離れた位置に人型を作り出し。
軽く歩かせてみる。……瞬間、その人型の煙は六分割されてしまった。
どうやら生物かどうかは関係なく、『人斬者』へと近付くというのが攻撃の目標となるのだろう。
「お前、『人斬者』のHP……観えてるか?」
「……観えてないね」
「はぁー……オーライ。俺に何をしてほしい?」
私はその言葉に笑みを浮かべる。
頭の回転が速い友人は本当に有難い。こちらが考えていた事を先読みして聞いてくれるのだから。
「あの湖。こんな満月なのに、月が浮かんでないんだよ。――行ってみるからさ、頼むよ」
「オーケィ」
瞬間、周囲に紫煙が満ちる。
私が煙草を何本も使っているわけではない。後方から……メウラの方から紫煙が発生し始めているのだ。
それに少しだけ笑いながら、私は白黒の世界で『人斬者』をしっかりと視界の中心へと捉えた。
背後で、何か大きなモノが威圧感をもって出現していくのを感じる。
私の操作範囲内にある、昇華の煙やガスマスクにしているもの以外が、ソレに吸われていくのをスキルによって知覚していた。
「私が動いたら合わせて」
「任せろ。伊達に【地下室】で延々合わせてねぇよ」
「あは、心強いなぁ」
手斧をしっかりと握りしめ……次いで、新たに『具現 - 薬草の煙草』を口に咥え、火を点す。
一息。肺に紫煙が満ちていく。
後方では準備が整ったのか、メウラも同じ様に煙草を取り出し火を点けたのが感覚で分かった。
私も準備を整えるべく、操作範囲内にある昇華の煙を全て足へと集め……人狼へと再び変化させる。
『人斬者』の横を通り抜けるのに必要で私が満たせる条件は、速度のみ。
技も、業も、力も。全てを『人斬者』へと届かせるには足りていない。しかしながら、速度ならば今の私でも通用する筈だ。
……さぁ、行こう。前に、奥に!
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