モノローグ 2

 ──廃墟にいて一番怖いことは、幽霊が出ることじゃない。別の人間に遭することだ。それがソワソワと懐中電灯を振り回しながら歩く肝試しの学生や、ライトやカメラを抱えて実況しながら歩いているYouTuberならまだ良い。怖いのは『明らかに心霊現象以外を目的に侵入してきた人間』だ。それは不法な産廃業者や、反社会的勢力の人間、あるいは社会から爪弾きにされ行く場所を失った人間などだ。彼らに遭遇した場合、無事に帰れるものか、そもそも話が通じるものか疑問である。だから廃墟で自分以外の気配を感じた場合は、すぐに自身の気配を消し、その正体を探らなくてはいけない。もしその正体が幽霊なら、むしろ安心なくらいだろう。やはり、一番恐ろしいのは生きている人なのだ。


 相手に脅かされることは恐ろしいが、その逆で、自分が他者を脅かしてしまうことも危険だ。相手がどれだけ平和主義で暴力とはかけ離れた人間だったとしても、相手は私のことをどう見るだろう。私のことを、自身を脅かす人間であると認識された場合、平和主義者も拳を握るかも知れない。無論、私には他者を脅かすつもりなどまるでない。もしそんな状況になれば──どうするのが正解なのだろうか。正直、全くわからない。


 幸運なことに、今まで実際に誰かと遭遇したことはない。廃墟探索を趣味にする人間や、肝試し、YouTuber、などなど、世の中の廃墟には存外人が侵入しているし、その痕跡を見かけることは多々ある。しかし不思議と、示し合わせたように、同じ時間に同じ廃墟に誰かが侵入するということは極めて珍しいことなのだ。もちろん、アクセスが良くて有名な場所などでは起こり得ることかも知れないが、それでも『よくあること』では無いだろう。少なくとも自分は、そう考えている。


 しかし、YouTubeに限らず、廃墟探索の映像をネットやSNSに載せる人間は多数いる。そういうものを見ていると『あれ?』と思う事が多々ある。『ここはこの間行ったところだ』とか『もしかしたら同じ日に自分もいたかも』とか、事後報告的にニアミスしていたことを知ったりする。


 いつか、自分も廃墟の中で、自分以外の誰かと遭遇することはあるのだろうか。その時、私は一体どんな顔をしたら良いのだろうか。


 廃墟で一人、作業をしながら、そんなことをよく考えるのだが、答えは未だに見つかっていない。

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