ヨモツヒラサカch【#9廃校舎に響く足音】
【#9廃校舎に響く足音】201✕年2月20日配信
埼玉県某所
※以下、動画の一部書き起こし。
画面にはカズヤとタクミの二人が映っている。
「ヨモツヒラサカchのカズヤと」
「タクミです」
「ええ、今回はですね、この後ろに見えている廃校舎を調査してみたいと思います」
「うわあ……凄い、いやこれ凄い雰囲気あるよね」
画面が切り替わり廃校舎の全景が映された後、再び二人のショットに切り替わる。
「こちらの廃校舎には噂がありまして、1階の保健室に女性の霊が出ると」
「ベタだけど怖いね」
「これSNSで調べると物凄い量の目撃情報が出てくるんですよ。なのでね、今回はかなり期待できるんじゃないかと」
「カメラに収めたいね」
「それではヨモツヒラサカch、さっそく行ってみたいと思います──」
ヨモツヒラサカchのオープニング動画が流れる。
画面が切り替わり校舎内、エントランスに立つ二人の様子。
「これ、今回の目的地は1階にあるので、上の階から探索したいと思います」
「3階建て?」
「3階建てですね。なのでまずは僕が一人で3階を見てきますので、次はタクミさんが2階をお願いします」
「あ、一人ずつ行く感じなんだ」
「じゃあ僕が先に行ってきますので、タクミさんとキクチさんは建物を出たところで待機していてください」
「何かあったらすぐ呼んでください」
「では、行ってきます──」
画面が切り替わり3階を探索するカズヤの様子。
「うわ……凄いな。ゴミと、落書きが凄い」
カメラはカズヤの足元に散乱するゴミと、壁の落書きを交互に映している。ゴミの多くは雑誌や新聞紙、食べ物の包み紙といった紙ゴミが多く、カズヤが歩くのに合わせてガサガサと大袈裟な音を立てている。手持ちカメラで周囲の様子を伝えつつ、合間合間でカズヤの顔を映しているカメラの画像に切り替わる。表情から緊張感が伝わってくる。
「……ちょっと待って。聞こえる? これ、絶対足音だよね。音入ってるかなあ……」
辺りを見渡すカズヤの顔。それが足音かどうかは不明だが、カズヤの足音や息遣い以外にも何らかの物音が聞こえている。
「風、にしてはおかしいよね。完全に……あ、ほら! また。タタタタって……」
カズヤは緊張した表情で廊下を進んでいく。教室の前に差し掛かるたび、部屋の中をひとつひとつライトで照らしていく。
「机とか椅子とかは完全に撤去されてますね……。何も無い、何も無い……。掲示物とかは一部残って……」
ある教室の壁の掲示物をライトで照らす。残っているのは時間割表などだけで、特に目を引くものは何も無い。
「何かこういう、当時の痕跡を見ると、このね、現状、荒れ果てた今とのギャップを感じますね。ここにも昔は子供達が沢山いて……笑顔に溢れてたのかなって思うと……怖いというより、切ない気持ちになりますね……」
ひとつ、ふたつ、みっつ──と教室を回っていく。どの部屋も学校らしい備品はほぼ何も無く、床に散らばったゴミがかすかな隙間風に震えているのみだ。
カズヤが廊下の突き当りまで来たところで画面は暗転する。
切り替わった画面には1階にいる二人の姿が映っている。
「えー、今、1階に戻ってきました」
「どうだった?」
「えっとですね、ちょっと足音みたいなのが聞こえたかなってのはあったんですけど」
「足音?」
「はい。でもまあ特に何かそれ以上起こるでもなく、って感じでした。それよりね、僕、気になったことがあるんですけど」
「何?」
「今ここ1階ですけど、ゴミとか全然ないじゃないですか」
「そうだね。何かもう、キレイに片付けられてるって感じだよね」
「ですよね? でも、3階はゴミも、落書きも凄くて。いや、ね、僕的には、1階が散らかってて上の階がそうでもないって方が何となくわかるんですよ。誰かが侵入するにしても、上まで上がらない人もいると思いますし」
「ああ、確かにね。そうかも」
「これがね、1階にもゴミとか落書きとかあるならわかるんですけど、1階には全然ないってところがね、ちょっと異様に思えるんですよね」
「でもさ、それって管理会社の人が片付けてたりするんじゃないの? 言い方悪いけど、1階だけ片付けて、上の階は手抜きで……」
「いや、事前に、撮影前に今回ももちろん管理会社に許可もらってるんだけど、管理会社の人はもう全然放ったらかしになってるから気をつけて下さいねー、なんて話してたのよ」
画面には1階の様子と3階の様子が交互に映される。ホラー調のテロップには『誰かが片付けている?』の文字。
「なので、タクミさんにはこれから一人で2階の様子を見てきてもらいますけど、ちょっとね、その辺の様子、ゴミとか落書きとかどうなっているかを見てきてもらいたいと思います」
画面は切り替わり2階を探索するタクミの様子。3階同様、床にはゴミが多く散乱しており、壁の落書きも目立つ。3階と比べると、壊れた家具の様な大きめのゴミも散見される。
「ああ……ゴミ、けっこうゴミがね、ありますね。落書きも……あるな……1階とは全然違うね、雰囲気が……」
大きめのゴミを避けながら、ガサガサと音を立てて廊下を進んでいく。廊下の右手には窓が並んでおり、教室は左手に位置する。造りは3階と変わらず、同じく備品の一つも残っていない。タクミがひとつひとつ部屋を覗いていくが、特に変わったところは何も無いようだ。
(中略)
再び画面は1階にいる二人の姿に戻る。
「えー、今3階、2階とね、まあざっとではありますけど、二人で手分けして、ちょっと見て来たわけですけど」
「2階もさ、やっぱりけっこうゴミとか落書きとかあったよ。全然、1階みたくキレイじゃなかった」
画面には1階エントランス、2階、3階の様子が順番に映し出される。
「やっぱりね、1階には何かあるんじゃないかと、そんな感じがしますね」
「そうだね」
「えー、この廃学校、廃校舎のね噂について再確認しておきますと、ここ、1階の保健室に、女性の霊が出ると」
「その霊はさ、自◯なのかな。それとも◯人……?」
「それはね、ちょっと、学校名で調べてみたんだけど、自◯があったとか◯人があったとか、そういうニュースはちょっと見つからなかったんですよね」
「ああ……じゃああくまでも噂、と」
「ただそれにしては幽霊を見たって話がね、情報が、多すぎるんですよね。まあ、ほら、ここが廃墟になってかなり経つようなので、それ以降に何か事件があった場合は、学校名で検索しても出て来ないのかな、ってのはあります」
「そっか、そうだね」
「今回の調査の中で、その辺の、噂の裏付けが出来るようなね、何かが見つけられたらと思います。それではタクミさん、そろそろ、問題の保健室に行きたいと思います」
「行きますか……」
画面が切り替わり、1階を探索する二人の姿が映っている。
「やっぱり、全然ゴミとか落書きとかないね」
「落書きが無いところはマジでヤバいとか聞きますよね。あ、でも何か、ここ、落書きが消されたような跡もあるな……」
「うーん、管理会社が……?」
「いや、でも電話した時は管理会社の人、ここには全く来てないって話だったんですよね」
「じゃあ、誰が……?」
消された落書きやゴミのない廊下の映像をバックに『誰かが片付けている?』のテロップ。
「でもさ、ほんと、これ誰かが片付けてるとしか思えないですよね。1階と上の階とで様子が違いすぎる」
カズヤが左手に並ぶ部屋の中を懐中電灯で照らす。多少のブロック片や木屑の様なものは見えるが、上階と比べて明らかに片付いている。廊下にもゴミはほとんど無い。
「だとしても……誰が、一体何の目的で、ってのが、うーん、想像つかないですよね」
テロップで『誰が? 何の為に?』の文字が映される。
「そうだよね……。いる? 管理会社でもないのに、わざわざ廃墟に来て、しかも1階だけ掃除してく人」
「いやいやいや、怖いよ、全然、幽霊とかより全然怖い」
「目的がさ、全然、わかんないよね」
「僕達もけっこう廃墟出入りしてますけど、こう、人の手の入った気配というか、僕達みたいな人達がね、来た形跡みたいのは感じることありますけど、ここまであからさまにっていうのは、ちょっと無いですよね」
「そうだね。何度か行ってるところだと、前回と違って椅子が動いてるとか、落書きが増えてるとかはあるけどね」
テロップで『異様な状況にいつもより饒舌になる』の文字が映される。
画面が切り替わり、保健室と思われる部屋の前に並ぶ二人の姿が映っている。部屋の扉は外されて、脇の壁に立て掛けられている。
「えー、ここが、問題の保健室と思われます」
「はい」
カズヤが懐中電灯で『保健室』と書かれた室名札を照らす。
「ここに女性の霊が出ると、えー、噂がありますので、まずは二人で入ってみたいと思います」
保健室の内部の様子が映される。室内にはベッドや机は無いが、薬棚の様なものがひとつだけ残されている。
「ここもきれいだね」
「落書きもゴミも、うん、やっぱりほとんどないですね」
懐中電灯の灯りが床や壁を照らす。タクミは薬棚を調べている。
「棚は空っぽだね」
「ちょっとね、見てわかると思いますけど、何かを調べられるほど物が無いっていうね。なので、さっそく一人検証したいと思います」
「どっちがやる?」
「じゃあ今回は僕がやりますので、タクミさんは外で待機お願いします」
「わかりました──」
(以下略)
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