廃墟に書いてあった落書きについて
塔
序
モノローグ 1
──何度行っても廃墟には慣れない。あの独特な、酷く乾いた感じがすると同時に、まるで怪物の体内に入り込んでしまったかのように湿った、生々しい恐怖。その相反するふたつの恐ろしさが全身を包み込むようなあの感覚。元来どちらかといえば怖がりな私には、おそらく慣れることはないであろう感覚だ。
では何故そんな怖い思いをしてまで廃墟に行くのかと聞かれたら、それは『責任感から』であるとしか言いようがない。最初は思い付き──軽い気持ちから始めたことであった。『〇〇の廃病院には──』とか『〇〇の廃校舎には──』とか、幽霊が出るらしいという噂を聞いているうちに、行って、逢いたいと思ったからだ。怖がりなのに『幽霊』に会いたい。口に出して言えばおかしな話に聞こえるが、私自身の心の内では『幽霊が怖い』という思いと『逢いたい』という思いは(当たり前だが)全く別のものなのだ。
初めて行った時は、正直、近くまで行ったものの怖くて引き返してしまった。情けないことに、建物の中に入れるようになるまで、何回か足を運んでようやく、という体たらくであった。何度行っても怖いものは怖いのだが、それでも少しずつ探索範囲を広げていけたのは、やはり『逢いたい』という強い思いがあったからこそだ。
もう何年も廃墟に通って、四箇所、五箇所と訪ねる先を増やしていったが、残念ながら、未だに逢うことは出来ていない。段々と、本当に『逢いたい』から通っているのか、それともどこか意地になっているだけなのかわからなくなってきてしまったが、それでもやっぱり続けることが自分の『責任』である気がして、廃墟通いを辞めることが出来ずにいる。
私は、いつまでこんなことを続けるのだろうか。
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