閃き

 ベランダで空を眺めながらぼんやりとしていると、珈琲の香りが漂ってきた。

振り返るとキッチンで夫が珈琲を入れているのが見えた。お気に入りの豆を買ってきて先ほどまでミルを廻して豆を砕いていたから、鼻歌交じりに気分よさそうにしている。


 その鼻歌が気になった。新進気鋭の若い歌手さんの歌なのはまだ良い。


 音程を外し過ぎている。

 素晴らしいほどに外している。音痴ではないはずだが外している。


 珈琲を入れる満足顔の初老男性が音程を外した鼻歌を奏でいる。

 なんとなくしっくりこない。


 音程を外した鼻歌を奏でる初老男性が満足顔で珈琲を入れている。

 なんとなくしっくりこない。


 スレたおじさんがズレた音で珈琲を入れている。

 

 これだ!


 思いついた途端、雲が晴れて日が差してきた。


 太陽も噴き出したに違いない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る