ねこ!

 我が家には猫が1匹で生きている。

 名前はついているのだけど、私も夫も「ねこ」と呼んでいる。愛着が無いわけではない、敬意を込めて「ねこ」と呼ぶのだ。


 彼はブリーダーで繁殖のために飼われたらしいオスであり、つい最近、動物病院からやってきた。大人しくて優しい性格である。


 餌を与えればこちらを見つめて礼を言い。

 トイレを掃除すれば見つめて礼を言い。

 撫でればこちらを見つめて礼を言う。


 常に感謝を忘れぬ「ねこ」である。

 

 高く大きなゲージでは優雅に寛いで、部屋を散歩しても身の回りを大切する。オモチャすらも暴れて壊すことも、派手な演出もなく、そっとそっと遊ぶのだ。


紳士である。英国紳士である。


だからだろう。午前様や深夜に帰り電気をつけると、「何時だと思っているんだ」と迷惑そうな顔をして、横になったまま動かずにいる。酔っ払いからは距離を置き、さっと寝床で寝たりもする。


 翌朝は語らぬ説教を視線で訴えかけ、猛省を促してもくる。


 やはり紳士である。名を呼んでも、ねこと呼んでも振り向かないし、だから?みたいな表情を浮かべる。


 きっと真名がある猫に違いない。

 

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