サイコ少女と勧誘と神パチモンじゃねーか!

「ワタシ見たの…世界のハメツを…それでもアナタはワタシに勝ちたいの?」


 ゲームではそんな言葉と共に、バトルを始める電波なガードリーダーだった。立ち絵が可愛らしいゴスロリ少女なだけで、結構なファンがついた。


「アナタが来る事知ってたわ…この子が私のサイコネコ……コアの色は秋桜コスモスと聖銀。特別な子なの……」


「あら、信じたの?光の屈折を変えれば色を変えるのは簡単……本当は秋桜で真っ黒……さあ、ひれ伏しなさい。ダークショット!!」


 アニメではサイキックパワーで主人公のヒカル君を翻弄して挫折させ、彼が成長するための壁となった。その動く姿とクールな美声にさらにファンが増えた。


「世界の破滅を防ぐにはこうするしかないの……」


「パパは暑苦しいから一緒に居たくないわ……」


「パチモン強盗とパチモン犯罪?そんなの全然悪くない……綺麗事はもう沢山……苦しみを知らないなら苦しんで」


 漫画では悪堕ちして、悪のガードリーダーとして世界調和を狙うミサイル団の幹部として活躍してた。その人生に諦めきった振る舞いと、怜悧な蔑むような眼差しで多くのファンアートが製作された。


 そんな原作主要キャラ。セントラルシティのガードリーダー【仏乃 エンジュ】が今、俺の目の前に居た。


「ねえ、あなた。なんというか、そう……すごく、すごく気持ち悪いわね…」


「え…?いやいや、初対面でいきなり罵倒しないでくれる?別に普通だろっ!確かにカッコよくもないだろうけど、フツメンだろっ!」


 思わずツッコミを入れてしまう。さっきまで、原作キャラに会えて俺は感動してたんだぞ?なんでこんな事を言われないといけない?


「違うわ…容姿の話じゃなくって、あなたの思念の話よ。私を知っているのに、知らない…?ほんと、幼児嗜好の近所のおじさんみたいに気持ちが悪い思念だわ」


 エンジュが気持ち悪い虫でも見たような顔で俺に言ってくる。


「酷いって!比較対象が酷いって!勝手に読心されて、勝手に気持ち悪がられる俺の気持ちにもなって!コミュニケーションが始まる前から、終わってるのやめてくんないっ?」


「あら、気持ち悪いけど、嫌いではないのよ?愛って執着でしょ?そういう気持ち悪い執着がないと他人に大切にされないもの・・・それに、見たくも知りたくも無いものを、勝手に教えられる私の気持ちにもなってくださらない?」


 さっと邪魔な髪を手で払って、遠い目をするエンジュ。長い髪が一陣の風に靡いて、センチメンタルな雰囲気を醸し出す。


「何だこの少女っ!この歳にして既に恋愛観が完成されているっ!何処で知ったんだ?このおませさんっ!というか、普通にサトリ少女なのかよっ!」


──厄介だけど、普通に可哀想だよな。コントロールできないのか?それだと、俺なら絶対に耐えられない。


「あら、苦しみを分かってもらえるのは少し、嬉しいわ……コントロールは最近できるようになって、生きるのが楽になったわ。それと、恋愛のノウハウは少女コミック【ぷりん】と、近所のサチエさんの思念に教えて貰ったわ…」


 ふっ…と、エンジュは疲れたように寂しそうに笑った。


「こっちにもあるのかよっ。【ぷりん】っ!めっちゃ情操教育に悪そうな少女漫画雑誌!それよりアンタどんな恋愛してるんだよ、サチエさんっ!パチモン界のまっくろくろすけ、ダークなアイもびっくりまなこだよ!」


──あー……昔、クライアイがびっくりしてるファンアート流行ったよなあ。まじで、この状況にピッタリだ。


「──っ!!まさかあなたも知っているの……あのお方達を」


「──えっ?」


「深淵から覗き荒ぶるモノ……天上から睥睨し裁きを下すモノ……詩篇から未来を憂い唄うモノ……」


「えーっと…クライアイ、ホーリトール、カネンドラ?」


「そう…そうなの…そんな名前なのね……」


 そう言って、エンジュは静かに涙を流し始めた。


「え…いや、いきなり泣くなよ」



──こんなん寒暖差で風邪引くわ。



 俺は思わずそんな事を考えた。だが、エンジュは静かに涙を流して、ピクリとも笑わなかった。



─────



「で、落ち着いたかよ?」


「ええ、もう大丈夫よ……」


「あー…やっぱそれって破滅を見たせいなのか?」


「いいえ…嬉しかったのよ。何度もあんなモノを見せられて、あの未来を共有出来る人なんて居なかった。パパだって半信半疑だったのよ?なのにあなたは何故か知っている」


──まあ、有名だったからな善と悪を司る神パチモンと、それを調律させるマッチポンプな神パチモン。登場が第4世代だったせいで詳しくは調べてねーけど、全部お前らのせいじゃねーかってネット民がなんか騒いでた。


「そう…やっぱり私以上にあのお方達を知っているのね。なら話は早いわ」


 そうして彼女は、その白魚しらうおのような手を差し伸べながら、そのあどけない唇で──その天使のような容貌で──こうのたまった。




──私と一緒に万人を苦しめ


──尊厳を犯し、貶め、辱め


──酒池肉林と財貨の海に溺れながら


──最期には正義に抗うだけ抗って、無様に共に天に討たれましょう?


──そう…まるで一瞬の閃光のように…



「私とあなたならきっと出来るわ…!!」


──ドヤァッ!!


「いやいやいやいや!!どーしてそうなった!!俺8才っ!君何才っ!?実にびっくり!パチモンオリジンのバイオレンス少女じゃありゃせんかっ!?」



Tips

──【PatittoMonsterーOriginー】は、原作【大地ノリヒデ】 作画【本山トウマ】で描かれた、オリジナルパチモンストーリーである。アニメやゲームと違い、パチモンマスター自身を狙った致死性の技が飛び交うアクションバトルや、本来なら街を守る要であるガードリーダー達の悪堕ちなど、様々な要素を挑戦的に盛り込んだハードなストーリー展開が話題となった作品である。


──略してパチオリ、オリパチと呼ばれており、章ごとに主人公が変わるオムニバス形式の構成である。第1章の主人公はゲーム原作通りマクロタウン出身の【火吹 カエン】【芽吹 ウエル】【水吹 マリン】である。ただし、【火吹 カエン】中心のストーリー展開であり、ミサイル団による【水吹 マリン】のパートナーパチモンの強奪から始まるミサイル団との抗争、3匹の伝説の虫パチモン達の熾烈な争奪戦、幻の融合パチモンと、その研究成果を巡る暗闘など、ゲーム原作とは大幅に異なるストーリー展開となっている。




────




 かつてパチモン世界の人間社会はもっと悪意に満ちていた。特に力を持ったパチモンマスターの中には、傍若無人に振る舞い、多くの命を奪った悪党も多く存在した。


 けれど、アーティファクトやアイテムと呼ばれるパチモン由来の摩訶不思議な物品と文明の発達。そして、パチモンと人の協力により、活発するパチモン研究が全てを変えた。


 人間に衣食住が整えられ、飢えと渇きは過去のものとなり、情報が少しの間で世界に伝達されるようになった。


 人は礼節を知った。人は道徳を知った。人は恐れを知った。


 特に人を恐れさせたのは黒、クリア、聖銀虹色のコアを持つパチモンである。


 第4世代の舞台である北に位置するノースランドは島全土が寒冷地帯であり、今は無き巨大な大陸の犯罪者の流刑地として使われた過去がある。故にこの地方は治安が安定せず、時として多くの命を戯れで奪うような悪党やパチモンが誕生した。そして、あまりに命を奪いすぎた悪党達は、天より落ちる裁きにより、すべからく命を奪われた。そして、裁きが落ちた場所は一時的に聖銀のコアを持つ、ジャスティスパチモン達の住処となった。コレがノースランドに伝わる伝承であり【天上より睥睨し裁くモノ】の話である。


 ひるがえって、今は無き巨大なマオー大陸である。この大陸はノースランドほど環境が悪くなく、罪を犯した者達を流刑に処していたことから治安が比較的保たれていた。


 だが、だからこそ強大な虹色と黒のコアを持つパチモンの発生を見逃した。ある時1人の男がノースランドで朽ち果てた。その男は類まれなるオーラ使いの男だった。男は善良だった。男は誠実だった。野生のジャスティスパチモン達が好んでその男の元に訪れるほどに。けれど男は人に裏切られ、嵌められ、冤罪の末にノースランドに流刑された。


 それでも男は善良だった。誠実だった。そして、男と相棒達は強かった。野生の黒のカラーのパチモン達が男の周囲では全く悪事を働けないほどに。


 けれど当時のノースランドはまさにこの世の地獄だった。悲劇と喪失の物語の果てに、男とその相棒達は世界を呪い憎しみながら死んでいった。


 そしてノースランドの全ての悪意を纏めたかのような、その常軌を逸した死者と悪意のオーラが、男と相棒達の遺骸から漏れだし【深淵より覗き荒ぶるモノ】が歓喜して具象化した。ノースランドに積み重なった恨みと憎しみに導かれるように【深淵より覗き荒ぶるモノ】は一夜にしてマオー大陸を闇に沈め、その残りカスであるイーストランド、サウスランド、ウェストランド、ノースランドと各諸島群が残った。


 そして、一夜にして数多の命を奪った【深淵より覗き荒ぶるモノ】のもとに【天上より睥睨し裁くモノ】が具象化した。2柱のパチモンは七日七晩に渡って争い合い、世界に満ちるパチモンパワーを湯水の如く使った。


 それはまるで酸素が一気に薄くなるようなモノだった、多くのパチモン達はより小さく、より硬く自らを守らなければならなかった。


 そして、多くのパチモンと生き残った人々は願った。この荒ぶる神達が鎮まることを。


 その願いにより、遂にパチモン達の神であり母である【無垢から居出て母なるモノ】が具象化し、その神の力により争いは一旦収まった。そして、母はまた2匹の争いが起こらないように【詩篇から未来を憂い唄うモノ】を生み出し次元の海へと還っていった。


 それでも、きっと、2匹はお互いの滅びと破滅を未だに望んでいる。お互いがお互い共に、世界に芽生える漆黒と聖銀のエネルギーで少しづつ傷を癒しながら、虎視眈々と静かに母に気づかれないように──故に世界の調和が乱れる時【詩篇から未来を憂い唄うモノ】は力ある者にソレを知らせるのだ。



 まるで憂うように。まるで唄うように。まるで助けを求めるように。


──ゴーン……ゴーン……ゴーン……


 ほら、今日もまた誰かの下で警鐘が鳴り響く……荘厳な鐘の音は誰にも止められない。何かが世界を壊すまで……



────

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