【52】ホビージャ国

「此処は相変わらず賑わっているな」


 何年振りかの王都に到着し、俺は感慨に耽る。

 此処まで乗った馬車を専用の置き場に預けて、俺たちは王都の街並みを散策する。


「俺が居た頃とはすっかり変わってしまったな」


 まだ若い頃、モルサル街でパーティーを結成し、期待のルーキーと持て囃された時期がある。モルサル街では敵無しになったパーティーは拠点を王都へと移すことにした。

 だが、順調だったのはそこまでだ。


 王都を拠点にしてからの三年間、何も成すことができなかった。

 毎日必死に弱い魔物を倒して小銭を稼ぎ、その日暮らしを続けていた。


 一歩すら前に進むことができない。

 ただただ停滞していた。

 鉄級三つ星から昇級することができずに足踏みしていた。


 実力不足を悟ったあと、結局はモルサル街から出直すことにした。


「リジン、懐かしい?」


 横からロザリーが声を掛けてくる。

 俺の何とも言えない表情を見て気になったのだろう。


「ああ……とは言っても、良い思い出は全くないけどな」


 この場所には嫌な思い出が多すぎる。

 ロザリーとの出会いが無ければ足を運ぶことも拒絶していたかもしれない。


「此処はさ、昔の俺が何も成すことができなかった場所なんだ」


 ふと、思い出してしまう。

 昔、パーティーを組んでいた元仲間たちの顔を……。


 これまでに合計八度もパーティーを組んだことがあるが、その中でもやはり一度目のメンバーには思い入れがある。


 あれから五年が過ぎた。

 今も冒険者を続けているのだろうか。


 ひょっとしたら、王都を拠点に活動しているかもしれない。

 だとすれば、探せばすぐに見つかるだろう。


 だがもちろん、そんなことをするつもりは毛頭ない。

 パーティーをクビになった時点で、俺にとっては過去の存在でしかない。


 それに今の俺には信頼できる仲間たちがいる。

 ロザリー、レイ、そしてパーティーの仲間ではないが、ノアも。


 過去を振り返る暇があるのなら、今の仲間たちと共に前へ進むべきだ。


「時間が惜しい。目的地に行くぞ」


 気が重いが、仕方あるまい。

 今回の依頼を達成するためには、避けては通れない道がある。


「上手くいくといいわね」

「大丈夫さ」


 俺たちの行く先は、ギルドでも王城でもない。

 俺の元実家――エイジェーチ家の屋敷だ。

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