【41】木の実拾い

 山賊討伐を果たした翌日、普段通りに起床したロザリーと俺は、ギルドのロビーに顔を出す。そこでレイと合流すると、依頼掲示板の前へと足を伸ばす。


 山賊を倒した次の日だろうが関係ない。怪我でも負っていない限り、依頼を受注して探索する。そしてお金と貢献度を稼ぐ。それが冒険者というものだ。


 依頼書を一枚剥がし、受付へと移動する。

 イルリは依頼内容を確認すると、視線をレイに向けた。


「この依頼は……レイの十八番ですね」

「十八番? そうなのか?」

「そうね。だから大船に乗った気分でいるといいね」


 訊ねると、レイは「フフンッ」と鼻息を鳴らして返事をする。


 今回、俺たちが選んだ依頼は魔物の討伐ではない。山に生る木の実集めだった。

 この依頼はレイがやりたいと言ったものだ。


 リンツ街の左半分を囲むホビージャ山脈で採れる木の実は種類が豊富で、良い額で取引することができる。

 しかもそのほとんどが美味しくて保存も利くので、個人的に回収しておくのも有りだ。


 レイはリンツ街の生まれなので、此処を拠点に冒険者として活動を続けてきた。

 時期ごとに生る木の実や場所の把握などもしている。


 魔物を討伐するわけではないので、危険な目に遭うこともない。

 そして何より、ライバルが圧倒的に少ないのが、この依頼の長点と言えるだろう。


 リンツ街でも数少ない冒険者たちは、やはり魔物の討伐依頼を優先したがる。魔石や貢献度が手に入るからだ。


 しかしだからこそ、レイは木の実拾いで悠々と小金を稼ぐことができた。


「二人とも、今日は特別ね。あたしのやり方を教えてあげるね」


 ドヤ顔のレイの背中について、ブレイブ・リンツの面々は山の中へと入る。魔物を見つけるには奥まで歩を進める必要があるが、木の実の場合はその必要がない。


 山に入ってすぐ、早速お目当てのものを見つけたらしい。


「ほら、あそこを見るといいね」

「アレが木の実? 小さくて見つけ辛そう」

「葉っぱの形で判断するね。そしたら楽に見つけることができるね」

「なるほど、葉っぱの形か……」


 確かに、言われてからよく見て見ると、他の木とは葉の形が異なる。

 ……が、それこそじっくりと見てみなければ分からない。


「全く分からないな」

「同感よ」

「ハアー、二人ともまだまだ未熟。これからあたしがビシバシ鍛えてやるからそのつもりでいるね」


 両手を腰に置き、やれやれと言いたげな様子でため息を吐く。

 木の実を集めるのは楽な仕事だとレイに言われたが、それはレイ自身の長年の経験があってこそなのだろう。


「葉っぱが分からないなら、とにかく上を見て歩くね。そしたら見えるから。……ほら、アレとか! あっちも生ってるね!」


 目がいいな。

 しかし二人揃って見学に徹し、レイだけに任せるわけにはいかない。

 俺たちはソロじゃなくてパーティーなのだからな。


「じゃあ、見本を見せるから、少し離れとくといいね」

「離れる……?」


 レイの台詞に眉を潜めるが、すぐに意味が分かった。


「フー、……ハイイッ!!」


 木の実が生る木の前に立つと、レイは思い切りパンチをかました。

 いや、加減はしているのだろう。本気のグーパンだと木が倒れてもおかしくない。

 そしてそのおかげか、パンチの振動でポロポロと木の実が落ちてきた。


「こうするといいね!」


 何度目かのドヤ顔を披露し、レイが地面に落ちた木の実を拾ってみせる。


「いやいや、虫もたくさん落ちてきたんだが」

「そのやり方は貴女だけがしなさい。私は絶対にしないから」

「二人とも結構我がままね?」


 納得いかない表情のレイだが、パンチ一つで木の実を集めるやり方は真似できそうにない。木の実以外のものもたくさん落ちてくるから、別の方法を模索しよう。


「じゃあ競争ね」

「競争? 何のだ」

「木の実拾いに決まってるね! 制限時間は一時間、一番少なかった人は罰ゲームね!」

「どう考えてもレイが有利だろ」

「聞こえないね。負けた人は勝った人の言うことを一つ叶えるね」

「おい、聞こえてるだろ」

「ふうん、面白そうじゃない」


 抗議する横から、ロザリーが口を挟む。どうやら乗り気のようだ。


「……仕方ないな」

「決まりね!」

「但し、魔物には気を付けるように。いいな?」

「当然よ」

「任せるね!」


 渋々了承する。

 今日の依頼はただの木の実拾いだが、ブレイブ・リンツの仲間同士で競争することになった。


 やるからには勝ちに行く。

 罰ゲームは御免だからな。

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