【31】御恩

「う、美味い……水が、こんなに美味しいとは……っ」

「くっ、ぷはぁ! なんて美味いんだ! 天からの助けとはこのことでしょ!」

「落ち着け、お前たちの喉を潤すだけの量はある」

「はい、はい! ありがとうございます!」


 三者三葉、思う存分に水を飲みまくる。

 牢をこじ開け、洞穴の外に連れ出したときは、言葉を喋ることもままならなかったというのに、ご覧の通り元気を取り戻したようだ。

 鉄級一つ星の新米冒険者パーティーだが、案外逆境に強いかもしれないな。


「――さて、そろそろ話を聞かせてほしいんだが」


 現在、俺たちブレイブ・リンツとユスランたちは、山賊の洞穴から来た道を十分ほど戻った場所にいる。

 山賊はもちろんのこと、魔物に襲われるとも限らないので、周囲を警戒しつつ話を聞く。


「実は、交易馬車に乗っていたところを山賊に襲われまして……」


 彼らがどうして捕まっていたのか訊ねると、どうやら交易馬車でリンツ街に向かう道中、山賊に襲われたらしい。


「あのままだと、奴隷商に引き渡されるところでした」

「奴隷商……そんな奴も絡んでいるのか」


 結構面倒なことになってきたな。

 山賊を倒すだけでは全貌を解明することはできないかもしれない。


 いや、それよりもまず、聞いておきたいことがあった。


「……お前たち、リンツ街に来るつもりだったのか?」

「え? あー、……はい、まあ、その、そうですね……ははは」


 何やら申し訳なさそうな表情でユスランが答える。その横に座るフージョは素知らぬ顔で水を飲んでいるし、カヤッタはあからさまに視線を逸らした。


 こいつら、俺たちを追いかけてきたな……まあ別にいいけど。

 ロザリーは、これでもかと言うほど嫌そうな顔を作っている。気持ちは分かるけど、手は出さないでくれ。一応、手負いってことで救出したわけだからな。


「一旦、町に戻ろう」


 ユスランたちを連れたまま、守りながらでは満足に戦闘することもできないだろう。

 時間が勿体なくもあるが、このまま放置するわけにはいかない。


「……そうするしかないわよね」

「じゃあ帰るね、歩けないならおんぶするけど大丈夫ね?」


 はあ、とため息を吐くが、ロザリーは了承してくれた。

 レイも問題ないらしい。だが、おんぶは止めておけ。このあとの探索に響くぞ。


「あ、あの!」


 リンツ街へと引き揚げるため、来た道を戻ることにしたそのとき、ユスランが声を上げる。振り向くと、ユスランは真面目な表情で俺たちを見ていた。カヤッタとフージョも同じだ。


「なんだ?」

「ありがとうございます。この恩は一生忘れません」


 ユスランたちは深くお辞儀をする。

 それはとても短く、けれども心の籠った台詞だった。


 過去には一悶着あった彼らではあるが、同じ志を持った冒険者だ。

 冒険者証だけがギルドに戻るなんてことは悲しすぎるからな。命があって何よりだ。


「無事でよかったよ」


 それから俺たちは、来た道を慎重に進んだ。

 往路に二時間掛けた道を、復路は三時間ほど掛けて戻ることになったが、山賊に遭遇することなく、無事に引き返すことができた。

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