【24】二人部屋

「……どうすればいいんだ」


 今、俺は頭を抱えていた。

 理由は明白、同じ部屋にロザリーが居るからだ。


 受付に行くロザリーの背に声をかけることができず、心の中で二人部屋が満室でありますようにと願ったものの、一室だけ空きがあった。


 鍵を持ったロザリーについて行き、部屋の前まで向かう。

 ロザリーは鍵を開けて中に入ると、満足そうに室内を見渡す。


「いいじゃない。一人部屋よりも広くて寛げそうね」

「……ああ、そうだな」


 今更一人部屋にすることはできないだろう。

 仕方が無いので俺も部屋へと入り、返事をする。


「ベッドはどっちを使う? 私は奥側の方がいいけど」

「じゃあ、俺は手前のを使うよ」

「そう? それじゃあ私がこっちのベッドを使うとして……明日に備えて今日は早めに休みましょう。お風呂に行ってくるわ」


 機嫌が良さそうなロザリーは、お風呂に行くと言って部屋の外へと出て行った。

 リンツ街のギルドにも共同浴場が併設されているので、ギルド内から自由に行き来することができる。俺も昨日はそこで汗を流した。


 もちろん、今日も行く予定だが……足が動かない。

 一度ベッドに腰を下ろすと、思わず頭を抱えてしまったのだ。


「どうしてこうなった……」


 宿泊代が高く付くことになるとしても、部屋は別々でいいじゃないか。何故それをロザリーに伝えなかったのか。


 強く断ることのできない自分を脳内で叱りつつも、過ぎたことに対してクヨクヨしていても時間の無駄でしかない。


「……風呂にでも入るか」


 ロザリーを見習って俺も湯船に浸かることにしよう。

 そう思い、ベッドから立ち上がる。部屋の外に出てロビーに向かうと、真っ直ぐに受付へと立ち寄る。


「共同浴場に行ってくる。ロザリーが先に来たら渡しておいてくれ」

「はい、畏まりました」


 イルリに鍵を預け、伝言を残す。

 そして俺は共同浴場へと足を伸ばした。


     ※


 共同浴場でサッパリしたあと、ロビーに戻って受付でイルリに声をかけてみる。

 ロザリーは長風呂しているのか、俺の方が早かった。


 イルリから鍵を受け取り、二人部屋へと戻っていく。

 室内に用意された椅子に腰掛け、食堂部で購入しておいた飲み物に口を付ける。


 冷えてて美味い。

 とここで、部屋の扉が開いた。ようやくロザリーが帰ってきたようだ。


「……ただいま」

「お、おかえり」


 お風呂上がりのロザリーは、いつも雰囲気が違って目が離せなかった。


「どうかしたの」

「いや、なんでもない。……これ、ロザリーの分だ」

「あら? 気が利くのね。遠慮なくいただくわ」


 もう一脚に座ると、ロザリーは風呂上がりの喉を潤す。


 寝る前に明日の予定を立てることにしたわけだが、内容は今日とほぼ変わらない。

 翌朝一番に依頼掲示板へと足を運び、依頼を受注して魔物を狩りに行く。これで決まりだ。


「そろそろ寝ようかしら」


 話がまとまると、ロザリーが口元を手で押さえながら欠伸をする。


「今日は凄く疲れたわ」

「慣れない土地での狩りだったからな。それもソロじゃなくてパーティーを組んで……」

「ええ。まあその分、久し振りに充実していたけど」


 ロザリーはベッドに移ると、ころんと横になる。

 室内を照らす魔道具の灯りを消すと、俺も自分のベッドへと移動する。


「リジン、おやすみ」

「おやすみ。また明日な。……イビキを掻いたら済まない」

「ふふ」


 目を閉じるが、頭はバッチリ冴えている。おやすみとは言ったが、暫くは眠れそうにないだろう。


 同じ部屋で寝泊まりするということはつまり、これから毎日これが続くのか……。

 寝不足にならないか不安だよ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る