転生剣鬼の魔法無双 〜前世では剣を極めたので今世では魔法を極めて遠近最強になりたいと思います。〜

柊 凛 / Rin Hiiragi

プロローグ 剣神に至るまで


「はぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」


「ぐっ……!流石だな!よもやここまで登り詰める人間がいるとは!!」


「ただひたすらに"それ"を目指して来たからなぁっ!!!」



 裂帛れっぱくの気合いと共に声を上げ、その男は目の前の"奴"に斬り掛かる。

 凄まじく、暴風域や嵐とも呼べる剣戟の応酬は、とてつもない破壊を周囲にもたらしていた。

 常人が見れば、何をしているのか全く分からないほどの速度で行われる剣戟。彼らが戦う様は最早、武の極地に至った格闘家や剣豪であろうとも一瞬にして細切れにされるほどだった。



「……っ!そこぉっ!!!」


「なっ……!ぐはっ……!!」



 三日三晩にも渡って行われたその死闘は、ようやく決着が着こうとしていた。


 神々しい見た目をした一人の男。その手には同じく神々しい剣が握られ、普通のものであれば目の前に立っただけで気絶するほどの覇気オーラを纏っていた。


 その男に挑むは、恐らくは人間であろう男。

 その男が手に握っているのは、息を吐く程美しい輝きをした銀色の刀身を持つ、一つの刀であった。

 身体中にいくつもの裂傷を受けながらも、その"目"には未だ燃え盛る闘志が宿っていた。

 

 そして、今。死闘に幕が下りる。



「これでしまいだぁっ!!!」


「ぬぐおぉっ……!!」



 人間の男が、神々しいオーラを纏った男を斬り裂き、その者はそのまま地面へと倒れ伏す。

 長きに渡って続いた死闘は、人間の男の勝利という形で幕を下ろしたのだった。


 だが、勝利と言うにはその男の体はいささか無理があった。

 その男の体には幾つもの裂傷や穴が空いた部分もあった。

 倒れた男の方も、同様の傷を負っていた。


 辛勝。その言葉がぴったりだろう。


 人間の男もその場に倒れ、彼らはそのまま死んでしまうかに思われたが、彼らの戦いを見ていた者達の中から一人の女性が歩み出てきた。



「アルマさん?まさか貴方を負かすほどの者が現れるとは。これには少々、私も含めて皆が驚愕していますよ?」


「はっはっはっ!面目ない!まさかこの男が、ここまでの力を持っているとは思わなかったのだ!無論、俺も全力で戦ったぞ?その上で負けたのだ!俺が断言しよう。この男は、文字通り世界最強の剣士だ!」



 先に倒れた神々しい男の方は、体が死にかけているにも関わらず笑っていた。


 剣神アルマ。それが男の名。幾千もの修羅場を乗り越えてきたその神は、文字通りの剣神にまで上り詰めた。

 そんな剣神に話しかけたのは、癒しの女神ハイレン。神や人々を癒し、勇気付け、優しく見守るような神であった。


 そんな二人の会話に、人間の男であるアインが加わってきた。



「はっ!俺はただひたすらに"ここ"を目指して強くなったんだ!そりゃあ、勝たないと駄目だろ?だが、何も無傷って訳じゃねぇ。お前強すぎだろ!身体中が悲鳴あげてんぞこちとら」


「当たり前だろう!俺にもプライドがある。無傷で勝たれてしまっては困るからな!」


「お二人共!話すのはそこまでにして下さい!貴方達はどちらも死にかけているんですから、じっとしてて下さい!」


「はっはっはっ!いやなに、少々興奮していたのかもしれん!すまないなハイレン!」


「そうだな、すまんな女神様」



 女神ハイレンは、そうして黙った二人の体に静かに手をかざす。すると、その手は淡く光り輝き次第に二人の体を覆っていく。

 そして光が収まれば、そこには先程までの傷が嘘のように怪我も汚れも全て綺麗になった二人が居た。



「はい、これでもう大丈夫です!今後はあまり無茶はしないでくださいよ!わかりました?」


「うむ、善処しよう!にしても、相変わらずハイレンのその力は凄いな!あれほどの重症も一瞬にして治してしまう!実際に使われると改めてその凄さを実感するぞ!」


「おお……すげぇ。一瞬で傷が……」



 アルマとアインは2人揃って、女神ハイレンの力に驚いていた。

 アルマは同じ神であるためその力を知っていたのか、そこまで驚いてはいなかった。

 一方でアインは、今まで生きてきた中でここまでの効力を持った治癒魔法は見た事がなかったのか驚愕している。



「では、改めて言わせてもらおう!己を鍛え、文字通りの"高み"まで登り詰めたアインよ!お前には、【剣神】の称号を譲渡する!

【剣神】は、たった一つしか存在しない称号だ!お前が剣で他の誰かにでも負けない限り、あんたは【剣神】であり続ける!

本当に良くぞここまで登り詰めたな!俺はあんたに敬意を表しよう!」



 剣神アルマ、いや、"元"剣神アルマは、そう言ってアインに祝福の言葉をかける。その表情は、幼い子供のようにキラキラと輝いていて、本当にアインのことを想っていることが伝わるような表情だった。

 アインも、アルマとの死闘を経てこの男は嘘をつけるようなタイプでは無いことを分かっているため、彼の賞賛を素直に受け取った。


 先程までの2人の戦いを遠巻きに眺めていた他の神々達も口々にアインを褒め称える。

 あまり褒められ慣れていないアインは、恥ずかしそうに後頭部を掻きながらも神々達とコミュニケーションを取っている。


 そんな折、一人の老人がアインに近づいてきた。



「アイン君。ワシは、創造神レーヴェルンと申す者。

神々の決まりとして、公式的な決闘で神に打ち勝った者には褒美を与えることになっているんじゃ。

いきなりで悪いんじゃが、君はどんな褒美を望むのか聞いておきたいんじゃ。」


「……そんな決まりがあるのか?」


「そうじゃ。して、君は何を望む?」


「そうだな……」



 創造神レーヴェルンにそう聞かれ、俺は過去を思い出していた。


 異世界レイノルフ。それがこの俺、アインが生きる世界の名前だった。

 俺は現在二十五歳。この異世界に転生してからそれだけの時が過ぎたことになる。


 前世の記憶によると、俺の名前は瀬葉せば れい。ちょうど二十歳のサラリーマンだった。そしてオタクだった。


 そんな俺であるが、ある日会社までの道のりを歩いていたら上から鉄骨が落ちてきて命を落とした。

 そして目覚めれば、目の前にはラノベや漫画でありがちなとんでもない美人さんが立っていた……のだが。何やらすごく慌てていた。

 話を聞いてみるに、目の前の美人さんは女神様で、どうやら俺は本来あそこで死ぬべきではなかったらしい。

 そして、お詫びと言ってはなんだが俺の望みを叶えてくれるという。


 ……そんなの聞いたらオタクとしてはやはり異世界転生が望みだろう。


 そんな訳で、俺は異世界レイノルフに平民のアインとして生まれた。


 ……さて。何故こんなにも長々と自分の生い立ちを語ったのかと言えば……………別に特に理由は無い。


 というのも、異世界に転生して三年後。つまり俺が三歳の時。日本で生きていた頃の記憶を思い出した。そこで俺は思ったのだ。


 ……異世界ならば、日本の漫画にある剣技などを再現できるんじゃないかと。最強と謳われた剣豪達の技を扱えるようになるのでは無いかと。


 俺もやはり日本男児。心の内に眠るサムライダマシイを抑えることは出来なかった。子供の頃から。アニメや漫画にハマっていた時から。自分が日本刀を持って無双する妄想を何回もした。皆も1度はあるだろうと思う。


 ……だってかっこいいじゃん。俺だって、「獅子○歌!」とか、「○の呼吸……」みたいな技を使ってみたい。


 そう思った俺は、ただそれだけのために剣を取り修行した。どういう風に修行すればいいかなんて全く分からないので、偉大なる先達漫画の剣豪達教え空想のっとり修行した。鍛えまくった。


 ……いつの間にか世間からは【剣聖】なんて呼ばれるようになっていた。

 まぁそれはどうでもいいんだが。


 剣豪達の技を再現するために修行をしている内、俺は"剣自体"が好きになっていた。

 日々の積み重ね。技術の掛け合わせによって生み出される剣技。

 自分の思うとおりに剣技を繰り出せた時なんて、言葉に出来ない程嬉しかった。


 そのせいか、"俺は漫画の剣豪達の技を再現する"という目的以外にも、"ただ純粋に剣の高みへ行ってみたい"という目的が出来た。


 それもあって、俺は再現を目指しつつ【剣聖】の更に上、【剣神】を目指した。

 それで今に至るという訳だ。


 こうして、改めて自分の事を振り返ってみれば、俺が何を望むべきか。それが何となくわかったような気がした。

 ……やはり、俺はどこまでもオタクのようだ。



「よし。レーヴェルンさん、だったか?俺望みは決まったよ」


「む?もう決まったのかの?もう少しゆっくり考えてもいいんじゃぞ?」


「いや。既に心に決めた。変えるつもりは無いよ」



レーヴェルンは、もう少しゆっくり考えてもいい、と言ってくれるがもう既に決めた事だ。変えるつもりは微塵もない。



「あい分かった。では、この老いぼれに君のような輝かしい若人わこうどの望みを聞かせておくれ!」


「ああ。俺は……、転生を望む。」


「……転生とな?して、それはなぜじゃ?」


「俺は、今まではただひたすらに剣の腕を鍛えてきた。だから、『魔法』というものを使った事がない。次の人生では思う存分、魔法を使って生きてみたいんだ。

だから頼む。俺を、記憶を持ったまま転生させてくれ。」


「……ふむ。主の願い、この創造神レーヴェルンが聞き届けた!主の記憶、経験その他全てを維持した状態で数百年後の世界に転生させよう!」



 創造神レーヴェルンがそう宣言したのを聞いて俺はほっとしていた。

 流石に記憶や今の剣の技術を無くすと自殺するレベルで落ち込む自信がある。記憶がある状態で転生させてくれるのはありがたい。


 それにしても数百年後か。

 俺が今生きているこの世界は、魔法工学や魔法理論はもちろんだが、体術や武器を使った戦闘技術もかなり発展している。

 数百年も経てばさらに進化しているかもしれない。今から楽しみだ。


 俺がワクワクしていると、レーヴェルンが「一旦主を地上に戻すぞ。しっかりお別れの挨拶をしてくるべきじゃ。」と言って転移魔法を発動してくれる。

 確かに、何も言わずに今までお世話になった人達の前から姿を消すのは失礼だ。ちゃんと別れを告げるべきだろう。


 そうして俺は、お世話になった魔法師団の団長や騎士団の団長、そして何よりもこの世界での家族に別れを告げるべく一旦地上へと戻るのだった。



────────────


─────────


──────



 1週間後。

 剣神としての身体能力を十全に活かし挨拶回りを済ませた俺は、再び神様達が住まう神界へと戻って来た。



「……む?アイン君ではないか。一体どうしたんじゃ?まだ一週間ほどしか経っていないぞ?」


「安心してくれ、レーヴェルンじい。ちゃんと挨拶回りは終わらせきた。」


「……たった一週間でか?失礼じゃがお主、本当に人間なのかえ?」


「いやほんとに失礼だな。ちゃんとした人間だよ俺は。」



 失礼な。確かに俺は、分速1000km位で空を飛べるし、空間そのものを斬ってワープみたいなことも出来るがちゃんとした人間だ。決して化け物なんかじゃない。


 それよりも、こちらも準備が整ったためレーヴェルン爺に転生させてもらうとしよう。



「じゃあレーヴェルン爺。頼んだぜ?」


「……再度確認するが、本当にやり残したことは無いんじゃな?」


「ああ、平気だ。やることは全部終わらせてきた。」


「お主がそういうのならワシは何も言わんよ」



 そう言ってレーヴェルン爺は、なんかすごい魔法陣を組み始める。俺には全く分からないが、恐らく転生させる為の魔法かなんかなんだろう。

 その魔法陣をよく見てみれば、人間離れした俺の視力でも分からないくらい緻密に描かれた幾何学模様が浮かんでいた。めっちゃ綺麗。


 そして次第に俺の足元にも魔法陣が描かれていき、もうそろそろ転生が始まるだろうことが伺えた。


 俺がそのまま暫く待っていると、幾つもの足音がちこちらに近づいてくるのを俺の耳が捉えた。そしてそちらを振り返ってみれば、



「おいアイン!そろそろ行くんだな?俺が言える事は何もねぇが、転生した後も頑張れよ!」


「アインさん。貴方が見せてくれた剣技、とても綺麗でした。私には戦いの事は分かりませんが、貴方が転生後も健やかに過ごすことを願っています。」



 俺と戦った剣神アルマや、怪我を治してくれた女神ハイレン。他にも多くの神様達が俺の事を見送りに来ていた。

 俺の事を見送りに来てくれた優しい神様達に手を振りながら待っていたら、ついにその時が来た。



「アイン君!今から転生が始まる!ワシも、君があちらでも幸せに生きる事を願っている!気をつけるんじゃぞ!」


「……ああ。ありがとう!」



 レーヴェルン爺にもそう言われ、感謝の気持ちでいっぱいの俺は神様達にお礼を言いながら眩い光に飲み込まれた。

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