第41話

空高く昇る入道雲は、夏を象徴する景色の一つとして挙げられる。天界まで続きそうな、そんな高さにまで達する姿は圧倒的だ。


この前は夜空を彩った花火。昼と夜を替えて、今度は白色一つの入道雲。人は夏に空と芸術を混ぜ合わせる。


玲が偶然読んだ絵本のストーリーは、夏の季節を土台とするもので入道雲に関するイラストが描かれていた。


「あの雲を抜けた先に、僕たちも知らない世界がある」


現実に入道雲へ向かって航路を変える事は安全性を考えれば当然あり得るはずもなく、あくまでもフィクションだから作り出せる世界観、ストーリーがある。そしてそんなフィクションに老若男女は魅了される。


人は、胸の奥深くに非現実な世界への密かな願望や羨望のような思いがあるのだろうか。


「知らない世界…どんな世界なんだろう」


絵本を読む玲はそんな事を思っていた。


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夏が生み出した蜃気楼は地平線の彼方へ溶けていった。


「玲くん、上着を忘れないでね」

「カバンに入れたから大丈夫だよ」


日中も半袖で過ごすには些か肌寒いほどに季節は進んでいった。


真希の四十九日まで終わり、その間も海外と日本を往復する日々が続いていた類の生活リズムも一段落が付いた。


四十九日が過ぎると、法事と言えばあとは一周忌、三回忌…と年単位に行われるものしかない。それは、その家系の主役が移っていくようにも感じられる。


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悲しみが癒えることは決して無いものの、類も亜希も玲も大切な人を亡くした過去を受け入れながら生きていた。


「人って、どうしていなくなるんだろう?神さまって、本当にいるのかな?」


何気なく玲が、そのような哲学的な疑問を思うのは、間違いなく過去に起因する。死を受け入れているとはいえ、そうした疑問は頭に浮かんでくる。


「生まれた瞬間から、人は死に向かって生きている。不思議な生き物だ。行き着く先は相反する概念」


どこかで産声が上がり、どこかで鼓動が消える。


絶えない波のうねり、人の人生に不変の瞬間はない。

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