これもある意味、罰ゲームの一環である。
******
「ここよ、ここ」
「え、えーっと、ここって……」
「見て分からない? それとも、ポチの弱々な頭じゃ分からないかしら?」
「い、いえ! 分かります!」
僕はそう言いながらも目の前にある建物に目を向ける。そこは学校から徒歩10分くらいの場所にあるインターネットカフェだった。
利用した事が無いのであまり良く知らないけれども、インターネットを利用する以外にもなんか漫画も読めたり、ソフトクリームマシンやドリンクバーも利用できたり、個室なんかもあったりするらしい。
……それだけ聞くと、僕にとっては夢のような空間に思えるなぁ。お金があれば、いくらでも時間を潰せそうなほどのものだぞ。
まぁ、お小遣い制の僕にそんなお金の余裕なんてあるはずも無く、インターネットも自分の家でできるからいいやの精神で、今まで一度も利用したことないんだけどもね。
でもさ……今こうして一条さんに連れて来られているということは、必然的にここを利用するってことだよね?
僕は慌てて財布の中身を確認する。今の僕の所持金は小銭が少々といった程度だ。どう考えても足りない。
「あ、あの……一条さん」
「……なに?」
僕が声を掛けると彼女は不機嫌そうな表情を浮かべてこちらを見返してくる。
「その……僕、今お金を持っていなくてですね……」
「だから?」
「えっと、つまりですね……お金が足りないから、利用できそうにないと言いますか……」
そう言いながら、僕は一条さんに小銭しか入っていない財布の中身を見せつけた。それを見た彼女は深々と、呆れた様子で溜息を吐いた。
「あんた馬鹿? この有栖ちゃんが、ポチの懐事情を知らないとでも思ってるの?」
「へ?」
「安心しなさい。ポチの分も払ってあげるわよ」
「ほ、本当ですか!?」
「そもそも、これまでだってまともにポチが支払ったことなんて無かったじゃない」
「え、えっと……それは……」
「この間のカラオケは?」
「……一条さんが支払ってくれました」
「ずっと前の水族館は?」
「……それも、一条さんです」
「ポチが身に着けてるアクセサリーは?」
「一条さんからのプレゼントです……」
……こうして色々と振り返ってみると、僕ってとんだヒモ男だよね。男の甲斐性だとか、微塵も感じられないよ。……まぁ、見せたいわけでも無いけど。
今に食事だとか、住まいだとか、衣類だとか、何から何まで一条さんにお世話になってしまうかもしれない。
そうなったら、名実ともに本当にポチになってしまうな。加えて、一条さんといる時間も増えて、色々と大変そうだよなぁ……。
「というわけで、お金のことは気にしなくていいから、早く行くわよ」
「ありがとう、ございます……」
格の違いをわからされてしまった僕は、一条さんに言われるがまま、なすがままだ。意見できる立場にない奴隷でしかない。
おかしいなぁ、本当なら僕の方が彼女をわからせてやりたいってのに、現実はこうだ。厳しいなぁ。
「ちょっと。なにボーッとしてるの?」
「え!? あ……その……」
「まったく、これだからポチは」
一条さんはそう言うと、僕の腕に抱き着いてきた。自分の腕を絡めさせて、僕に密着してくる。そんでもって、匂いだとか、胸だとか、なんというか色々と……。
「へっ!? い、一条さん!?」
「なに?」
「いや……その……」
僕は思わず言葉に詰まってしまう。いや、だってさ、女の子に急に抱き着かれたら、誰だって驚くよね? こういう反応になるよね?
それとも、こんなことをしておいて、僕に無反応でいろって言うの? 無理だよ。できないよ、そんなこと。僕、賢者とかじゃないんだから。
「ポチがぐだぐだしてるから、あたしがリードしてあげるの。感謝しなさい」
「は、はい……」
一条さんにそう言われてしまっては、僕は何も言い返すことができない。だって相手はクラスの女王様だしね。その下僕である僕が何を言えるだろうか。
それから僕たちは店内に入って受付を済ませる。その間、僕は一条さんと腕を組んだままだった。しかも、一条さんは楽しそうに、上機嫌そうに笑みを浮かべながら。
受付の店員さんから奇異な視線を向けられたものの、僕はそれを愛想笑いで誤魔化すしかなかったのである。
そんな僕たちの様子を他の利用客が見て「うわぁ……」といった感じで引いていた気がするけど、それも気にしないことにした。
そう。そうだ。これも罰ゲームの一環なんだ。僕は今、罰ゲームを受けている。僕はそう思うようにして、心を落ち着かせることにした。
「ポチ、なにしてるの?」
一条さんが僕の顔を覗き込みながら聞いてくる。その距離の近さに僕はドキッとしてしてしまうが、それを悟られないように平静を装う。
「あ……いや……別に……」
「ふーん」
一条さんはそう言いながら、じーっと僕を見つめてくる。うぅ……恥ずかしいし、気まずいよ……。それに周囲の視線が痛い気がするし……。
「ま、いいわ」
そう言うと彼女は僕の腕を引っ張って、ずんずんと店内の奥の方へと歩いて行く。
そんな僕たちの様子を周りから見ていた利用客たちは唖然としていたりするのだが、彼女からすればそんなのは知ったこっちゃないって感じだ。
それどころか、むしろ見せつけているかのような振る舞いをしているようにも見えるけども、それは僕の気のせいだろうか?
まぁ、気のせいでしょうね。僕の考え過ぎだ。うん、きっとそうに違いない。
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