カガイヤの提案

「それだけじゃないぞ!? えぇ~とだな、そうじゃな~、何がいいじゃろうか」


 慌てふためくスベオロザウンは、なんとか俺に依頼を受けさせたいようだが、その様子からかえって俺の気持ちは冷めていくのであった。


 だって、あからさまに準備してませんでしたって分かるもの。こんな状況から、ちょうどいい難易度のものなんて、思いつくはずがないよ。


 さてさて、何を提示してくる事やら。


 なんて思っていると、イヴがカガイヤさんに何か耳打ちしている。まぁいいか、イヴは参加できないから関係ないだろうし。


「おい、ジャンダ。お前も何かいい案を出さんか!」

「痛てッ、人使いが荒ぇよ。それに急に言われても出てこねぇって」

「それでも出すのが男じゃろ。鍛冶師の風上にも置けんぞ!」

「それとこれとは関係ないだろ! この糞ジジイ!」

「なんじゃと!」


 スベオロザウンの拳骨により始まったドッグファイトは、次第に大きくなっていき、店内を揺らし始める。


 おいおい、大丈夫か? こんなに武器があるところで暴れたら、万が一で怪我しちゃうよ!


「ちょっと、とまって! とまって!!」


 俺が声をあげても二人は止まらない。どうしよう、と、とりあえず、イヴたちを避難させないと。

 イヴの方へ振り返り、すぐさま駆けだそうとした足が止まる。


 なぜなら、イヴはカガイヤさんの後ろに隠れており、そのカガイヤさんは上品な立ち姿で、両の掌を胸の前で上向きにしており、今にも何かしますよといった雰囲気を醸し出していたからだ。


「少し、耳を塞いでください」


 凛としたカガイヤさんの声は何故かよく聞こえた。咄嗟に耳を塞いだ俺の返事を待たずして、カガイヤさんは柏手を打った。


「【ウィンドクラック】」


“パアアアァァァァァン!!!!!”


 凄まじい破裂音が店内に響く。


 耳を塞いでいたのにも関わらず、眩暈が起こりそうなほどの爆音だ。店の外まで音は漏れているだろうし、直接聞いてしまったスベオロザウンとジャンダの二人は、ぽかんとした表情で、こちらを見ている。


 喧嘩が止まった。効果ありか?


「おいおい、びっくりしたじゃねぇか」

「もっと他にも止め方無かったのか? ただでさえ、近所に騒音騒音言われてるのに」


 効いてない!? どんな体してるんだこのオヤジども。本当に人間か?


「すみません、素手で割って入ろうものなら、粉々になってしまいそうでしたので」


「そんな人間が粉々になるわけないだろう」

「俺たちをなんだと思ってるんだ」


 カガイヤさん、あなたは悪くないですよ。僕にはわかります。理不尽の権化みたいな人間ですよね。この鍛冶師どもは。商工会ギルドの受付の方もきっとそう思ってます。


「で、依頼の件なのですが、こういうのはどうでしょうか」


 苦虫をかみつぶしたような表情も直ぐに元に戻し、話題も元に戻した。なにやら秘策があるようだ。


「その依頼をランデオルス様一人で完遂できれば、タダで差し上げるというのはどうでしょうか?」


 俺一人!? 絶対ダメだよ。ていうか無理無理、絶対行かないよ? せめて海中探索で、フィオナかフォルを連れて行って良いなら、受けるかもだけどさ!


「おぉ、それでいいなら、それでいいぞい」


 このスベオロザ――いや、この糞ジジイ。依頼された側である、おれの意見わい! 拒否権だってあるんだぞ! 人権を守れー! 王国法にだって人権は‥‥‥あれ? 王国民の人権保障って記載されてたっけ?


「本当にちょっと待ってよ。そんな危険な依頼は受けたくないよ」


「もちろんそれだけではありません。さらにこういう条件を付けましょう」


 俺の反対を見越していたかのように、話を続けるカガイヤさん。当然の如くスベオロザウンは何も分かっていないようで、断りを入れられそうになったことに驚いてる。


「あの鉈を使って、依頼を受けてもらい、もし、依頼を達成できなかった場合、一般的な冒険者の依頼の失敗と同額の請求を受けるというのはどうでしょうか?」


「う~ん、それなら? あ、でも待ってください。失敗料っていくらぐらいですか?」


 内容自体はいい気がする。鉈を実際に触らせてもらえるのだから。どちみち、一人で依頼達成なんて、到底無理な話ではあるが、失敗料次第では、ほとんどレンタル代みたいなものだろう。


 であれば、使わせてもらえるなら、使ってみたい。俺だってスベオロザウンの武器を使ってみたいという気持ちはあるんだから。


「そうですね、基本的には依頼料の二割を支払う形になっていますので、今回であれば、依頼料は鉈の値段と同額、つまりは80万円の二割、16万円になりますね」


 16万円か。くぅ、出せない額であらせられるようで。


「16万円も十分大金でしょうから、一括で支払うとなると、大変でしょう。ですので、分割ローンとして支払うというプランはどうでしょう」


 俺の顔が渋くなったのを知ってか、もともと用意していたのか、営業マンの様な顔をして、求めていた言葉をくれた。


 カガイヤさんも転生者じゃないだろうな。


「そう、ですね。俺としては、近々冒険者登録をするつもりでしたので、支払いに関して言えば、期限さえ都合があえば、可能だと思います」


 冒険者でその日ぐらしをしているって話をよく聞くからね。前世の感覚で言うのであれば、日当一万円ぐらいで考えればいいのだろうか。


 これまでこの世界で生きてきた感覚で言うと、金銭感覚はほとんど似ているし、高いところは高いってだけだもんな。


 そういえば、あのパフェも80万円だったな。高すぎだろうあれ。高い買い物だったなぁ。



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読んでいただきありがとうございます。

月曜日だねぇ。おかしいなぁ。休日が少ない気がするのは気のせいでしょうか? 週四日ぐらい休みがってもいいじゃない。

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