調べもの~ククルカ島②Ⅳ~

 無我夢中に踊っていた、が楽しい時間は終わりを迎える。


 演奏が最高潮に達したとき、海龍の模型は台座に伏した。


 妙な高揚感も鳴りを潜めていく。ふと我に返った俺は急いで皆のもとに戻った。大丈夫かな、絶対ステップの足音でちょけてる奴いるぞとか思われているんじゃなかろうか。


 しかし、それは杞憂に終わった。何故かみんなは何もなかったかのように振舞ってくれた。もしかして「そういう年頃ね~」って思われてるんじゃなかろうか。どうしよう黒歴史、確定!! あ~、恥ずかしい。


 ‥‥‥さて、冗談はここまでにしておくか。明らかに異常だ。そして前回を通して確信に似たものがある。


 あの模型は生きている。いや、模型自体は生きては無いんだけど、精神体があるだろう、あれ。そんで皆あの場の空気に飲み込まれていて、まるで異空間に切り取られていた。俺の昔立てた仮設が本当なのかもしれない。


 演奏と場所と祈り、これは儀式魔法だ。


 海龍の模型を依り代として、精神体を降ろしているのだろう。で、あればだ、真っ先に思いつくのは“海龍”なのだが、俺の知っている海龍とは、姿かたちが違う。


 そう、海龍とは、海竜たちの群れのボスに付けられる称号なのだ。


 もしも、もしも長い時を経て、模型の様な海龍が本当にいて、群れを率いていて、現代に近づくにつれて、海龍が何かしらの理由で現れなくなって、群れのボスの個体を海龍と呼ぶ慣習だけが残ったとするなら。あり得ない話ではなさそうだ。


 そういえば村長の家に、この海竜を育成してきた島の歴史やそれにまつわる本が置いてあると聞いたことがあったな。この後頼んでみよう。

 それに一年後には学校に行くことになっているが、恐らく、図書もあるだろう。そこで学ぶことも多いと思うが、やはり現地に大事に保管されている書物は読まない訳にはいかない。


 ふむ、学校に行くまでに残された時間はあと一年。それまでに海龍とはいったい何なのか。そしてなぜこの儀式魔法が継承されてきたのかを出来る限り調べていきたいと思う。少しでも分かれば万々歳だろう。


 その前に‥‥‥


「その肉をよこせえええ!!」

「ばか! それは俺の肉だろうが!」

「関係ない! 早い者勝ちだ!」


 ご馳走を前に繰り広げられえる仁義なき争奪戦に出兵するのであった。





「そーんちょー!」


 宴の翌日、俺は村長の自宅に来ていた。


「はぁ、なんじゃ朝早くから。あいたたた‥‥‥お、ランディか」


 この爺さん二日酔いか? 歳なんだから無理することは無いだろうに。


「村長の持ってる本を読ませえて欲しくて来ました。海龍についてはもちろん龍卸際についてもっと、僕が学校に行く前に知っておきたいんです」

「ふむ‥‥‥、調教師らからの評判もあるし、本を無下に扱ったりはしないだろう。よし、許可しよう。付いてくるんだ」


 村長は髭に手を当て梳きながら値踏みするような眼で俺を見た後、独り言ち納得すると、俺に歩調を合わせるように、家の裏の倉に向かった。


 倉を開けると、調度品や歴史的価値のありそうな物、防災品までもがたくさん詰め込まれており、その中から村長が指をさした。


「ほら、この辺にあるのがそうだ。分かっていると思うが、壊したり、汚したりするなよ」

「はい、ありがとうございます」


 村長が自宅に戻るのを見届け、改めて倉の中を見渡す。

 なんか秘密基地みたいで少しワクワクしてしまうのは俺だけだろうか。


「よし、えーとあったあった」


“海龍島の歴史”という本を見つけて、目次の中から調べたい項目を見つけた。


「龍卸の儀‥‥‥やっぱりか」


 祭りとは、そもそも何かを祝ったり、奉ったりすることを旨としていて、有名なところで言えば、京都の祇園祭なんかは、その土地の疫神を鎮めるための行事だったりしたらしいし。


 とどのつまり、海龍の神をこの世に降ろし、崇め奉り、その恩恵を受けるための儀式なのではと考えている。それを今から確かめるのだが‥‥‥あった。


「えーっとなになに? 海龍の儀とは、海龍の神であらせられる海神龍ヴァイアン・リトゥーダーをその身に宿し、繋がりをつくることで、新たな海龍へと導くものの選定を行い、その加護を未来につなげるための儀式である。か」


「この儀式には、祈り、依り代、演奏があればできそうだけど、これって一人でもできるんじゃねぇか?」


 今度試してみるか。この資料を見れば、この本が出来てから今まで誰かしらは試してたはずだ。それくらい歴史の長い文化なのだから。誰にも言いふらしていないのか、見つからない程特殊な条件が必要なのか。


 そして、飛ばし読みで海龍の項目を探す。


「海龍とは、海竜のなかで海神龍ヴァイアン・リトゥーダーの加護を持ち、海竜たちを率いる絶対的な個として君臨する“海竜”のこと。また“海竜”と記したが、その姿は海竜のものと違い、ヒレは腕になり、一対の角が生えている。とな」


 まさに、龍卸際の模型の姿。これで合点がいった、あれは本当の海龍の姿で、今の海龍は海龍ではない。そして、本当の海龍を誕生させるには、龍卸際の演奏ではなくて、龍卸の儀を実行しなければならない。


「前言撤回、試行錯誤していかないとダメそうだな。一人で出来るかなぁ?」


「なにが一人で出来るの?」

「うわぁああああ!!」


 急に耳元で声が聞こえたせいで俺は飛び跳ねながら大声を出した。


「びっくりした」

「こっちの方がびっくりしたよ!」


 俺の背後に忍び寄っていたのは幼馴染のソーニャだった。いつの間に蔵の中に入って来たのだろうか。まぁ採光のためにドアを開けていたのは俺なんだけどさ。



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読んでいただきありがとうございます。

古いタイプの電子コンロをつけっぱなしで酒飲んで寝落ちしたら、コンロが中火以上にした瞬間ブレーカーが落ちるようになりました。可哀そうだとおもったら笑ってください。

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