忘れられてた報告~ククルカ島②Ⅱ~

 笛の音が海竜たちに響き渡った結果は、幼竜と同じで、皆興味を持つもすぐに薄れてしまった。


 ちなみに今回は俺がやっても同じだ。


「野生と人の手で育てられた海竜で、明確な違いがあるのかもしれないな。それが分かるといいのじゃがな」

「だが、村長。野生の生態を調べるのはほぼ無理なんだろう? じゃあ推測でしか考えることが出来なくないか?」


 まぁ、そうだよな。

 俺は海竜たちの方を見る。ボス海竜である海龍は、やはり他の海竜とは違って纏う雰囲気に格の様なものがあるが、それでも野生の魔物を相手にしたときの様なものを感じない。


 言うなれば、オーラの中からおじいちゃんの様な優しさを感じる。より具体的には、むやみやたらに攻撃はしないだろうという安心感がある。


 いったいこの違いは何なのだろう。いつかフォルの背に乗って海を泳いで、野生の海竜たちに会ってみたい。俺はそんな夢を抱き始めた。



 とは言っても、実際にそんなことしたら死ぬだけだろうから、この世に未練がなくなったときにでも、最期の楽しみに取っておくか。あ、ジジイになるまでにしないと体が付いていかなくなるな。


「ふむ、今日はもう出来ることもなし。皆の者、今日はランディと、ランディを助けてくれたジェフ達のための席だ。羽目を外しすぎるなよ」


 村長の言葉で男たちはぞろぞろと解散していったが、彼らの顔を見るに、羽目を外すことは確定していそうだ。

 頼む、五歳児が言うことではないが、問題を起こさないでくれ。





「ランディとフォルの生存と、助けてもらったジェフ達ハバールダ領漁業組合に感謝を込めて、乾杯!!」


「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「乾杯」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 毎度のことながら酒の席となると、こんなに島民っていたんだなと思わされるぐらい、どこからともなくぞろぞろと集まってくるよな。


 などと呑気に祭り上げられていると、隣にソーニャが座って来た。


「? どうしたの?」

「‥‥‥何でもない」


 何でもないことは無いだろうに。俺の服の裾を掴んでチラチラ見ていながら、それは無理がありますぜ?


 周りに助けを求めるとソーニャの母親であるリーリアが楽しそうに訳を話してくれた。


「うふふ、ソーニャはね、5歳という人生の中で初めて、身近な人を失うという体験をしたのよ。ランディくんがいなくなったのがよっぽど寂しかったのか。ものすごい落ち込みようで、手が付けられないくらい泣いちゃったんだから」

「‥‥‥ママ!! なんで言うの!!」


 ほーう。かわいい子じゃないの。頬っぺた膨らませちゃって。


「大丈夫だよ。俺は生きてる。ここにいる。安心してくれ」


 俺はソーニャの頭を軽く撫でてやる。フォルにしてやるように、優しく落ち着かせるように。



 宴もいよいよ佳境に入っており、もう建前とかはなくなり、ジェフ達も島民もごちゃ混ぜになって盛り上がっており、既に半分が上裸だ。

 ジェフ達じゃなかったら大問題になっていたのではないだろうか。この島に人を呼んで宴をするのは金輪際止めた方がよいのではないだろうか。


 いいなぁ。こんな日が続いて欲しいと心の中でつぶやいた。


 だがそうは問屋が卸さない。俺のささやかな願いは、酔っぱらったジェフの一言で総崩れになった。


「いやぁ、ここは良い島だな。ランディの小僧はあと数年したらここを離れないといけないなんて、可哀そうだな。ガハハハ」


「「「「ん?」」」」」


 ジェフ以外の組合員、及びその場にいた島民が首を九十度に傾げた。


「すまん、ジェフと言ったか。俺はランディの父親でザンキと言う者だ。数年後にランディが島から離れるとはいったいどいうことだ? ランディ、お前は知っていたのか?」


「‥‥‥!!」

“ブンブンブンブン”


 ちょうど頬いっぱいに食べ物を詰め込んでいたので、声は出せなかったが首が千切れるくらいに否定しておいた。


「あれ、言ってなかったか? あ、まだ渡してなかったか。村長、これ、ハバールダ辺境伯ハバールダ・リオネッツァ・ドイルオからの手紙だ。悪い悪い」


((((((それは早く渡してくれ))))))

 宴会場の皆の心の声が一致した瞬間だった。


「おい、村長! なんて書いてあるんだ!? うちのランディはどうなっちまうんだ!?」

「ちょっと待てぃ、今読んでおるから」


 手紙の封を無造作に破り捨てた村長の横に、覗き込むように体を寄せる父さん。それよりもずっと無言で無表情の母さんが怖いよ。



「ええとなになに‥‥‥なんと、これは、そうか。いや、まぁだがしかし‥‥‥」

「おい村長! 何もわかんねぇよ! 具体的に何なんだ!」

「あぁ、すまない。要約するとだな、二年後、ランディが7歳になったとき、ハバールダ辺境伯にある海竜育成学校に通ってもらう。だそうだ」


 海竜育成学校? てことは、他にも海竜を育ててるのってうちだけじゃないのかな。


「ちょっと待ってくれよ、ランディは俺の仕事を手伝うことになってるんだ。それにその才能もある! 俺が教えれば済む話じゃないか!」


 たしかに、学校とか面倒くさそうだしな。


「それもそうなんだが、やはり、海竜の新しい育成方法の可能性は国を動かしうるものだ。ランディとフォルの存在が知られた以上隠すことは出来まいて」

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 読んでいただきありがとうございます。

 そういえば、★★★やいいねをしてくれた方々にありがとうを言ってなかったのでいっときます。

 ★★★、レビュー、フォロー、感想、良いねをありがとうございます。

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