海竜の舞禰宜~たまたま海竜の子に懐かれた俺の異世界人生~

一色珊瑚

少年期

転生した~ククルカ島Ⅰ~

 ピクンと反応があった浮を見て、糸に通してあった魔力を拡張。球体の水流を形成。それをそのまま空中へ持ち上げる。


「よし、これ食べていいよ」

 俺は水の籠に捕らえられた魚を、ソファ代わりにもたれていた海竜の子、フォルの頭上に持っていき、水球を解除した。


 放り出された魚を器用に受けとりしゃぶりつくフォルは満足したように鳴いた。


 俺が転生して7年目。両親の仕事の手伝いの合間にこうしてのんびりするのが好きなんだ。


「ランディーー!!」

 幼馴染のソーニャが歩み寄りながら声を掛けてくる。


「また釣りしてるの?お、フォルもおはよう」

「キュー」


 ソーニャの声に、フォルが挨拶を返す。


「うん、今日は大量だよ。ほら」


「お、今日は蛸が獲れたんだね。それにしてもまだ不思議だよ。ほかの海竜は普通こんなに人に懐かないのに、ランディだけ異様に懐かれてるよね」


「たまたまね。無害な奴だって思われたんじゃない?」


「無害って、それじゃあ舐められちゃうよ?」


「それもそうだな」


 本当にたまたまなんだ。たまたま昔を懐かしく思うことがあって、たまたま距離を近づける出来事が起きただけなんだ。


 そんなことを考えながら、俺はフォルを撫でた。









「うあをいえfふえw」


 何だ?何語だ?


 俺は真っ暗な闇の中聞こえてきた声に反応して瞼を開け…おっも⁉瞼重くね?


 まっぶ!!


 瞼の筋肉に意識を持っていき、目を開けるとその眩しさに思わず目を閉じた。


「sdふぃおう?」


 だから何!なんて言ってるか分からないの!


 意を決して徐に慣れるよううっすら目を開けるとそこには、茶髪の小麦色に焼けた肌の男と、金髪の…でっk…女性に囲まれていた。


 木でできた柵。俺を覗き込むように佇む男女。そして…動かしづらい小さな手。


 ツモ。転生してますやん。

 驚くことにも体力を使うのだろうか。不意に襲ってきた眠気にあらがえず、そのまま意識を沈めた。おやすみ。


 それから何度か目を覚ましては寝てを繰り返し、赤ちゃん生活を満喫していくなかで吉報がございました。


「~♪」

 母が俺をあやしているときに、何を言っているかは分からないが突如真剣な口調でしゃべり始めたと思ったら、空中に水が出てきた。


 その後、その水玉をふよふよと移動させて俺をあやすママン


 そ、それは!?

 魔法ですよね!やっぱりあったんだ!

 よかった。魔法がないタイプの転生なんじゃないかと疑ってたんだ。せっかく転生したんだから使いたいよね、魔法。


 それから俺は魔法を使う練習に熱中した。


 前世の様々な小説の中では、赤ん坊のころに魔力を使うと暴走して死ぬみたいな小説も存在したが、いったん無視しよう。


 皆も転生してみてほしい。魔法が存在するのに「待て」と言われても無理だ。ワクワクが止まらない。それに俺は楽観的なんだ。どうにかなるだろう。


 前世でもその楽観的な性格で何とかなってきたからね。死んじゃったけど。ウケる。


 …もし輪廻転生から外れているのだとしたら、もう家族や大好きな人たちには会えないかもしれないけど、遠くから幸せを祈っています。


 さて今は魔法です。


 鉄板レッスンその1。

 まずは魔力を感じるところから始めましょう。

 丹田あたりに集中して、そこにある異物感を掴みましょう。


 ・・

 ・・・・

 ・・・・・・無いです、異物感。



 まさかの一歩目で躓くとは思ってなかったな。

 最初なんてそんなもんと思いながら少し悲しい。


 が地道にやっていくしかないだろう。




 数か月後


 ててて、ててて、ててて、てん、てれれれ、ててっ、てれれ、てれれ、てれれ、てれれ、さっぱり分からん。


 もしかして才能ないタイプか?

 せめて簡単な、火をつけるだけでもいいから魔法が使いたい!


 てか魔力ってなんだ。…考えすぎて何が何だかわかんなくなってきたな。せめて一回でも感覚が分かれば。


 と、考えながらハイハイで移動していると、今日も窓の外から声が聞こえてきた。


「隊れーつ、組め!」

「一から七、前進!」

「コーナリングダッシュ、始め!」


 今日も野太い男どもの声が響いてますな。


 俺の生まれた村は島だった。漁業と海竜調教が盛んな小さな島だ。名をククルカ島。

 一年のほとんどが穏やかな気候で、雨季の時だけ嵐のごとく海が猛威を振るう。そのため飴と鞭で海竜は良質に育つらしい。らしいとは父による言だ。


 父は海竜調教師の一人で、今日も朝から仕事に出かけている。まだ喋れはしないが、一度窓から見せてもらった海竜に近づきたいと、態度で示すもまだ危ないからと許してもらえなかった。

 母は主婦としてこの家で俺の面倒や、ご近所付き合いをしている。ん?もしかして産休とかあるのかな?とりあえず家では、魔法を使える母と大半を一緒に過ごしている。


 炊事洗濯何をするにしても、魔法は使われていた。水魔法便利だなって、おっとっとおおおおおおお


 俺は考え事に夢中で柵から身を乗り出して転げ落ちてしまった。


「うわああぁぁぁぁん」

 いったああああああああああああいぃぃぃぃぃ


 なんだこれ痛すぎる。頭は冷静なのに体が泣くことを止められない。


「ランディ!?大丈夫?」


 母がドタドタと走りながらバンっと勢いよくドアを開け部屋に入ってきた。


 ちなみに俺はランデオルスというらしい。愛称はランディ。何ともカッコいい名前じゃないか。ちなみに意味は笑いかける男の子という意味らしい。悪くない。


 母はサッと俺を抱き上げベビーベットに寝かせると詠唱を始めた。


「水の加護を授かりし精霊よ、汝の癒しを彼の者に与えたまえ。水の癒しアクア・キュア

 すると俺の体の中を何かが浸透する様に這いでいって痛みが和らいだ。


「大丈夫よ、もう痛くないからね」

「えぐっ、うっ、っ…あーあ」


 痛みが無くなったことより、気になることが一つあった。この俺の中を巡っていったこの感覚。魔力か⁉


 母が「今私のことママって…天才だわ!うちの子は!うふふ、あれ涙が・・」なんて言っていることは気づかぬふりをしておいてやろう。この感覚を忘れたくない。


 母は一通りおれの無事を確認すると「まだやらくちゃいけないことがあるから」と部屋を後にした。


 よし、今ならいけるかもしれない。先ほどの感覚を思いだしながら、もう一度体に意識を向けた。


 …お?これか?おいおいおい、まじかよ。そら見つからんて。丹田じゃなくて体全身にあるやんけ。


 なんというか、先ほどの魔法の魔力を粘度のあるものだとしたら、うすーく伸ばしてサラサラしているような感じだ。


 さて、魔法使いの第一歩目を踏み出しますか。




 魔法の練習を始めて1か月が経った。


 魔法の発動までの手順は分からないので、現存魔力を動かしてみたり、外に出そうとしてみたり、形を変えたり、工夫を凝らしていた。


 唯一上手くいかないこととすれば、体の外に魔力を出せるが切り離すと霧散してしまった。恐らくこれを維持することによって魔法が放てるようになるのでは考えているが、霧散すると体内の魔力を消費するようで、魔力切れを起こして気絶する様にねむってしまうの、だ…おやすみ。


 魔力切れで魔力が増加するならそれに越したことはない。





 さて2歳になって、ある程度言葉が喋れるようになったころ、念願の外だ。

 ずっと気になってたんですよ。あの海竜とか言う不思議生物。


 俺は父ザンキに抱っこされながら外に出た。

 島の道をしばらく歩くと、不意に視界が開けた。


 白い砂浜、ヤシ?っぽい木、青い海、おのおの好きな時間を過ごす海竜たち。


「ほら見ろこれが海竜だぞ」

「あちぃ」

 あちいぃ


「うんうん、カッコいいだろ。それであの一際大きいのが海竜たちのボス海龍だ」

「そうだね……」

 もういいです。かっこいいけど、暑いので家に帰してください。


 赤ちゃんの体温調整舐めてました。パパンおれは日陰が恋しいよ。


「ふっふっふ。父さんはな、この島で海竜調教が一番うまいんだぞ。だからあの海龍の調教を任されている。ちょっと近くで見ていくか?」


「うん!」

 それは見てみたい。


 生まれてからずっと遠目で見てるだけだったからね。


「一際大きいコイツが俺の調教している群れのボス、海龍のドルンだ。ちょっと待てよ……『――――』」


 ザンキが首にかけていた笛を吹いた。


 ドルンがビクッと硬直したのちに、筋肉の弛緩とともに落ち着きを取り戻した。


 なんだか可哀そうだなと思ったが、近づくにつれて怖さが勝った。

 水族館でサメをみたような、巨大なクジラを目の当たりにしたような、そんな畏怖を覚えた。


 ザンキの顔を見ると、少しだけ悲しそうな眼をしていた。


「おとぅ?」


「ん?あぁ、これは竜笛といって竜たちにしか聞こえない音が出て、行動を制限できるんだ万が一のために使ったが、あまり使いたいものでもないな」


 なんとなく言いたいことは分かったような気がする。

 人の手により抑制された生き物はなんだか物悲しい。


「で、父さんたちはこの海竜たちを育てて軍に卸すんだ。3年に一度だから次は来年だな。盛大に送るから宴になるぞ」


 宴いいなぁ。楽しみだ。


「でな、まず海竜を手に入れるところからなんだがな…」


 パパン、話に熱が入るのはいいんですけど、大丈夫?おれ頭がボーとして来て、熱中症かな?あ、ダメかも。


 そして俺はそのまま意識を手放した。


 起きた時に見た光景は、正座をさせられ怒られている父の背中だった。



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