アリスへの手紙

まめ童子

序章

一通目

 親愛なるアリスへ


 今日から君に、手紙を書こうと思う。

 手紙と言っても、長い眠りについた君がこれを読むのはずっとずっと先のことだ。

 だからこれは、手紙というよりは日記になるかな。

 君に宛てた手紙であり、君が目覚めるまでの長い時間に起こることを残しておくための日記。

 今日は記念すべき一日目。

 きっと永遠に忘れることはできない、始まりの日だ。


 君は今日、長きに渡り世界中の人々の命を脅かしてきた魔王を、千年の眠りに閉じ込めた。


 そして、千年後目覚める彼を今度こそを討つために、彼と同じ時間、君も眠りにつくことになった。


 まずは君が必死に戦ってきたこの十年を労いたい。

 本当にお疲れさま。

 どんな言葉で表せばいいかわからないくらい、この十年はお互いに辛くて苦しくて、だけど満ち足りた時間だった。最も、君がどう思っているかはわからないから、これは僕の感想に過ぎないのだけれど。

 少なくとも僕は、君と過ごせて本当によかったと思っている。

 旅の供に、僕を選んでくれてありがとう。


 そして、君にこんな辛い役目を担わせてしまったことについて、謝らせてほしい。

申し訳ない。

 せめてこの眠りが、君にとって一瞬に感じられるものであることを願っている。


 ごめん、言いたいことはたくさんあるはずなのに、何故だかうまく言葉が出てこないんだ。


 せめてこれだけは伝えておきたい。

 千年後、君が目覚めるとき、きっと僕は君のそばにいると約束しよう。

 どんな形になるかはわからない。だけど、どうにかして君の隣に立てるように今から準備しておくよ。

 大丈夫。僕はこの世界を救った勇者が選んだ賢者なのだから。


 それじゃあ、次の手紙で会おう。

 おやすみ、アリス。

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