第10話 冷静になれ

 実戦場で瞳の弓の実力が分かった黒龍は、次に刀の使い方を教えると言いながら近くにあった木刀を瞳に渡した。


 「その、本気で振りかざしていいの?怪我とかしたら・・・。」


 瞳は木刀を持ちながらタジタジしていた。誰であれ凶器を持ったら怖気づく。しかしそんな感情を持つ事はこの世界が許さないと黒龍は言った。


 「・・・分かった。では、行きます!」


 瞳は黒龍に詰め寄り、上から木刀を振り下ろす。しかし黒龍には当たらず、そのまま体勢が崩れ黒龍の目の前で転んだ。


 「痛てて・・・。」


 「大丈夫か!!」


 流石に弓道着だと感覚が掴みづらい。袴の裾を踏み、転倒してしまった。しかし諦めずすぐに立ち上がり、黒龍の間合いへと詰め寄る瞳。


 『動きにくい服装でここまで動けるとは!!』


 黒龍は瞳の身体能力に驚いていた。しかし、初めて木刀を持つ瞳は隙だらけだった。脇腹ががら空き。それに加え、走る時木刀を体よりも後ろにしている。それに気づいた黒龍は「一旦止めよう。」と言った。


・・・


 「わ、私は・・・。」


 瞳は木刀を振るのがこんなに難しいのかと絶望していた。それを見た黒龍はなにか申し訳ないなと思いとある提案をする。


 「武器庫に走りやすいシューズがあったはずだ。足袋だと流石に痛いだろう。弓道の正装でなくなるのはなにか不満だと思うが戦いにおいては服装も気にしなきゃならないからな。」


 「うぅ・・・。悔しいけれどそうするわ。丁度いいのがあったからそれ履いてくる!」

 

 「あ、ちょっと待て!」


 瞳は広場の方へ走る。その瞬間瞳の目の前に化け物が出現した。


 「え・・・?」


 瞳の胴体を斬り裂こうとした化け物。しかし次の瞬間黒龍が一瞬にして化け物の間合いに入り一刀両断した。


 「馬鹿野郎!!気をつけろ!この場所だって安全ではない!」


 「・・・ごめん。」


 「あ、俺もでかい声出してすまなかった・・・。ただ危険と隣り合わせな空間だから離れすぎないようにお互い気をつけよう。」


 瞳は間近に迫りつつあった二度目の死に恐怖を覚え、膝から崩れ落ちる。そしてある一言を黒龍に対し放った。それは「こんな私でも化け物を斬る事が出来るのかな?」というもの。一度恐怖に襲われた者は立ち直るのが厳しい。しかし、黒龍はそんな瞳に対して怒らなかった。自身も最初の内は恐怖に支配されていたから。その為黒龍はうずくまっている瞳に対し、声を掛ける。


 「支え合うって言っただろう?瞳が危険に晒されたら俺が守りぬくって。だが、俺が間違っていたのかもしれない。まずは冷静になるコツを磨こう。その後刀の使い方を教える。」


 「・・・。」


 瞳は暗い顔をし、無言のまま立ち上がる。黒龍は怖がっているだろうと思い声を掛けようとしたが、次の瞬間瞳が深呼吸をした。


 「・・・。もう大丈夫。改めてありがとう黒龍。」


 「えっ、もう立ち直ったのか?」


 黒龍は驚いていた。瞳の立ち直りが早すぎたからだ。弓道をやっていたとはいえここまでのものだったのかと、内心思っていた。


 「うん。今でも怖いけれど、よく見たら黒龍より動きが遅いし鎌の軌道も一瞬で見抜いた。だからこれからは攻撃を避けて隙が生まれたら、斬りかかればいいんだね。」


 「あ、あぁ。その通りだ。恐怖に支配された状態で化け物の攻撃パターンを読んでしまうとは。凄いな、瞳。」


 「観察する能力だけは得意なの。確かに今のレベルだと化け物を倒すどころか、対峙するのも無理かもしれない。でも、黒龍のように強くなって人を助けたい!だから刀の使い方を教えてください。」


 瞳の観察眼は凄まじかった。黒龍がその事について聞くと、瞳は観察対象の心情まで読めるという。しかし、その場での観察眼に長けているだけで、その人の過去までは知らない。瞳はこのゑ村襲撃事件の事は知らなかった為、黒龍の過去がどんなものだったのか分からなかった。


 「なるほど・・・。一回俺の攻撃を近くで見てみないか?もしかしたら刀の軌道の参考になるかもしれない。もちろん最終的には俺と同じくらいの実力をつけてもらうのが目標だが、今は観察で動きを見てくれ。」


 「分かったわ。見て覚えろって事ね。」


 その言葉にうなずいた黒龍は淡々と技を繰り出した。その間瞳は正座しながら、ひたすら見、一切動く事なく集中していた。


・・・


 一通り技を繰り出した黒龍は刀を下に降ろし、瞳の方を見る。すると瞳は小刀を持ち、見様見真似で技の練習を始めた。その姿は黒龍の技を完璧に熟知していた。


 『凄い、たった一回見ただけで技を完璧にコピーしている・・・!瞳が味方で良かった。』


 黒龍は瞳の才能に驚き、ただ茫然と見ていた。すると瞳が声をかけてきた。


 「こんな感じかな?」


 「あ、あぁ。まさか一回でフォームを理解してしまうなんて。驚いたぞ。技はその調子だ。あとは強靭な精神力と実戦で技を磨いていこう。」


 「分かったわ!一回試してみてもいい?」


 「いいが、その、大丈夫なのか?」


 「ええ。早く身につけないと人を助ける事が出来ないし、今此処で頑張る!」


 「その気持ち受け取った。では・・・。かかってこい!」


 木刀を持った二人の間に緊張が走る。そして先手を取ったのは黒龍からだった。わざと化け物の動きを真似て瞳の間合いに入り込む。しかし瞳はそれを簡単に躱し、黒龍の腹に突きを繰り出した。


 『は、はやい!』


 黒龍は驚きつつも木刀を持ち換え、瞳の攻撃を防ぎ、下から上に向かって木刀を振り上げる。しかしその瞬間突然瞳が目の前から消えたのだ。


 「え・・・?」


 黒龍は混乱する。なんと瞳は黒龍の真上にいたのだ。その出来事に瞳自身も驚いていた。そして黒龍の前に落ちた。


 「大丈夫か!それより今のは・・・?」


 「痛てて・・・。よく分からない。ただ精神統一の為に無心になっていたのだけれど、その時突然意識が飛んで・・・。」


 瞳も混乱していた。この時黒龍は居合の事を思い出し過去を振り返っていた。そしてある事に気がついた。それはなにか特別な条件と引き換えにその人自身にしか成せない技が生まれるのではないかという事に。


 「ちょっと待て。もう一回無心の状態になれるか?」


 「ええ。やってみるわ。」


 瞳は戸惑いつつも再度無心の世界に入る。すると人を動かす事の出来ないほどの弱い風が瞳を押し、瞳は押された事に気づいたのかすぐに意識を取り戻した。


 「ま、まじか・・・。こんな事があり得るとは・・・。瞳、今無心状態になった時完全に魂のない人形のようになっていた。そして微弱の風が瞳を押した瞬間に意識が戻った。もしかしたらその状態になっている内は無敵なんじゃないか?」


 「人形って・・・。まぁいいわ。もしかしたらそうなのかも?今やった時真っ暗闇の中にいた気がするのだけれど・・・。黒龍、一回本気で木刀を振りかざしてくれない?」


 瞳の謎の能力を確かめる為に、身をもって攻撃を受けると言った瞳。黒龍は少し引いたがそれを承諾し、再び無心状態になった瞳の脇腹を狙い本気で振った。すると木刀の風圧によって瞳は無意識のまま後ろに下がり、再び意識を取り戻した。


 「本当に無効化している・・・!もしかしたら本当に無敵なのかも・・・!」


 瞳に聞いたところ攻撃を受ける予定だった場所も的確に当てていた。黒龍の攻撃が分かっていたのだ。


 「もしかしたら私、普通の人間じゃないのかも。黒龍の言う通りこの世界は魔法や特別な能力を授かるといった事はない。でもこんな事が出来るのは神から与えられたものなのかもしれない。不思議だ。」


 瞳は頭を悩ませ、自身の体を見る。すると黒龍が口を開いた。


 「いや瞳は普通の人間だ。その無心になると攻撃を受けなくなる能力も生前の無意識行動が関係していると俺は考える。だから怖がらなくていい。その力を磨けば、大量の化け物を成敗出来る。だから今からそれを鍛えよう。」


 その言葉にうなずいた瞳は自信を持ち、小刀を構えた。


 「よろしくお願いします!」


 それから瞳は毎日遠くで聞こえる人の悲鳴を聞きながら、特訓に励んだ。その悲鳴は何度も心が折れそうになる幻聴のように纏わりつき、瞳を襲う。しかし、瞳はそれでも特訓を続けた。


・・・

 

 それから1年が経過した。黒龍に剣術を教え込まれたお陰で瞳の刀の実力は黒龍の技術力と肩を並べるほど成長しており、覚悟が決まっていた。そしてその様子を見た黒龍が口を開く。


 「戦地に行くぞ。」と。


 瞳はその言葉を真剣な顔をしながら頷き、血の飛び交う世界へと足を踏み込んだ。

 

 

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