憑き物
遺品整理の仕事をしている高野さんは副業で中古の家具を販売をしている。その中古の家具の出どころはというと、遺品整理の仕事の際に引き受けたもの、つまり遺品なのだ。
「もちろんご遺族さんの許可をもらってるし、大体天涯孤独な人が多いからさ。捨てるよりいいじゃん?」
中古家具の取引相手はインドネシアやフィリピンなどの東南アジアのバイヤーだ。以前は状態のいいものは国内のリサイクルショップに持ち込んでいたのだが、最近は断られることが多い。そこで高野さんは海外のバイヤーに売ることにした。彼いわく、家具の”出どころ”はきちんと説明をした上で取引をしているのだそうだ。
そんな高野さんの経営理念は「空間は売り物にならない!」である。どういうことかというと、例えば箪笥。抽斗の中を空にして売るのと、中に服やら小物やらを詰めて売るのでは微々たるものではあるが価格に差が出る。海外まではコンテナに入れて船で運ぶので、高野さんとしては一度にできるだけたくさんの物を送りたい。
「だから着古した服もきったないぬいぐるみも無駄にはしないよ」
とのことだが、洗濯はしないらしい。それでも買い取りたい人がいるというのが不思議だ。
ある日、高野さんはいつものように無駄な空間を潰す作業をしていた。木製の箪笥には雑誌を詰めたのだが、まだカラーボックスが残っている。他に入れられそうなものはないか、と倉庫内を見回すと黒いポリ袋が目に入った。
袋を開けると、触っただけで外側の素材がぽろぽろと崩れ落ちるほど古いサンダルやスニーカーが入っていた。最近遺品整理に行った部屋から持ってきたものだ。
部屋の主は40代とまだ若く、遺していた持ち物も比較的状態がいいものが多かったため全てを倉庫に持ち帰った。しかし靴だけは何故かボロボロで、さすがの高野さんも『これは売れないな』と判断し、いずれ捨てるつもりでゴミ袋に入れていたのだった。
「仕方ない、これでも入れとくか」
できるだけ崩れないように丁寧に1足ずつビニール袋に入れてからカラーボックスに詰めていく。さらにカラーボックスの中で転がらないように上からシーツを切ったものを緩衝材代わりに乗せる。そして一杯になったボックスのフチを丁寧にガムテープで貼って開かないようにした。
それから、コンテナに詰める業者に引き渡した。
無事に高野さんの副業業務は終わったのだが、次にコンテナ業者に会った時こんなことを言われた。
「この前の荷物の靴がね、外に出てたんです。だからきちんと入れ直して、カラーボックス全体にぐるぐるテープ貼って送ったんですよ。そしたら現地の人から『靴が外に出てましたよ』って連絡来たんだけど。何かそういう、曰く付きだったりとか……?」
ちなみに、高野さん的には曰く付きというわけではないらしい。
持ち主の男性は足が悪く長い間車椅子で生活していたそうだ。後になって男性が借りていた部屋の管理人にそう聞いた。高野さんは、だから遺品の中で靴だけがあれほど古かったのかと納得した。そして、何故靴が遠く離れた場所で見つからなかったのかという理由も。
高野さんがこれまで遭遇してきた曰く付きの品に纏わるエピソードとしては梱包したはずの人形が持ち主の部屋に戻っていただとか、家具そのものに憑いた霊が何故か彼の枕元に立っていただとか、そういう派手なものが多い。控えめな靴の持ち主が起こした怪奇現象など高野さんにとっては取るに足りない怪異未満なのだそうだ。
ちなみに、このような商売をしている人は他にもたくさんいて、中にはかなり悪どいことをしている人もいるという。高野さんは衣類やぬいぐるみなどの小物はほぼそのままの状態で送るが、大きな家具はきちんと元の持ち主の痕跡を消して売り渡している。落書きなどはきちんと消すし、体液が付着していれば洗い落として丁寧に除菌までしているそうだ。
「人形には魂が宿るとかいう人いるけど、俺に言わせりゃ大きい家具に憑いてるモノの方がやばいんだから。なぁんもしないのは本当にだめだよ。血痕を油性ペンで上塗りしたヤツなんかはまだましで、バラバラ殺人があった部屋の家具そのまま売っぱらったのがいてさ。結構大きな騒ぎになったって聞いたなぁ」
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