宇宙 エピソード4 おとめ座へと
獅子座の守護者は、僕の左腕を咥えたまま、早口で
「さぁ、術式は組んだ!あとは、発動させるのみ、早く私の背に乗れ!」
僕は、強烈な痛みと精神的な喪失感で、今にも倒れてしまいそうだったが、気力を振り絞って、フラフラしながら、獅子座の守護者の背中へと歩みを進めたが
「何をしてる、この式は、長くはもたん急ぐのだ!」
僕は、涙で霞んだ視界で、獅子座の守護者の背を捉えると、力尽きる様に獅子座の守護者の背に倒れた。
薄れ行く、意識と視界の中、まるで荒野に吹く一陣の風の様に、駆けていくことが感じられた。
運ばれている時は、ただ耳に入ってくるのは、獅子座の守護者の荒い息遣いと高速で駆ける足音、そして、大地を切るかのような風の音のみだった。
僕は、失った左腕を見ながら、きっとこの星海で旅をしている自分もきっと同じ痛みと喪失感を感じているのだろうと、自分に対しても申し訳ない想いがせり上がってきた。
この何もない荒野のなか、独り自分が突然の痛みと喪失感を味わないながら突如として左腕を失う理不尽…自分のこととはいえ、気の毒に思わざるを得なかった。
心の中で自分に対して謝罪の祈りを捧げていると、遠くからまるで雷鳴の様な轟が徐々に聞こえ始めてきてだんだん大きくなってきた。
「見えてきたぞ、前を見よ。流星の滝が見えるぞ。」
僕は、獅子座の守護者に促されるまま、視線を前へと向けると、はるか地平線の彼方に白黒の世界の中に際立って、金色に輝く滝というより壁に近いような存在が徐々に大きく視界に映ってきた。
「あれが、流星の滝ですか?」
「しかり、獅子座とおとめ座の境界線でもある。ただ人では通り抜けることはもちろん、近づくことさえできない。」
僕は、ふとした疑問を何ともなしに
「そんな、難所を自分はどうやって通ったのだろう?」
獅子座の守護者は、走りながら、黙っていたが、言いづらそうに
「おそらくだが、お前は、本当は星海に降りたときは自分と影は一緒だったのだろう…自分の望む場所がどこかは判らないが…おそらく蟹座の守護者に、影であるお前を捧げて、流星の滝を止めて通ったとしか考えられない。自分の影を捧げれば、左腕を捧げるより長い時間流星の滝を止めることが可能だからな…」
僕は、一瞬、獅子座の守護者の言っていることが判らなかった。流星の滝を止める為に僕を捧げた…
「要するに僕は捨てられたという事ですか?」
と、端的に獅子座の守護者に問うと、轟音が大きくなってくる中、獅子座の守護者は
「恐らく…蟹座の守護…わざと、お前を…」
と何か大事な事を言った様な気がしたが、うまく聞こえなかった。ただ、耳に入ってくるのは
― ドドドドド ―
という、星が星海に途切れることなく落ちてくる破裂音のみだった。
そして、流星の滝の前の恐らく10メートルほど前にたどり着くと、獅子座の守護者は歩みを止めた。
流星の滝は、まるで金色の天まで届くような壁で、暗黒の僕の視界の中で異様なくらい金色に輝き、凝視していると目がどうにかなってしまいそうだった。
そして、鼓膜は、全力で叫ばないと相手に伝えられないくらいの響きがあたり一面に覆っていた。
獅子座の守護者は、大きく吠え猛ると
「これよりお前の左腕を喰らい、術式を実行する。私は、あくまで獅子座の守護者、これより先はおとめ座になる。よって、私が案内できるのはここまでだ。あとは、これより先のおとめ座の守護者に頼るのだ。自分が何を望み、何を願うのか、その目で、見て感じて考えるのだ。」
獅子座の守護者は、うずくまり、背に乗っていた僕を地面に立たせると、僕と流星の滝を交互に見た後、言葉では何も言わず、ただ視線で
― 準備はいいか? ―
と伝えてきた。僕はただ黙って首を縦に振ると獅子座の守護者は、咥えていた僕の左腕を噛みちぎり飲み込むと、僕の視界は一瞬、真っ白に染まり何も見えなくなった。
僕は、一体何事が起きたのか判らず、瞬きを数回繰り返すと徐々に視界が開けてきた。
目の前の、天高く遮っていた黄金の壁 ―流星の滝― は消失していた。そして、僕の前方には、今となってはお馴染みとなった、灰色の荒野がただ広がっていた。そして、僕はよくよく流星の滝が降り注いでいた場所を見てみると、数えきれないくらいの大小のクレーターがあたり一面に灰色の荒野に爪痕として残っていた。
ついさっきまで耳がおかしくなるんじゃないかという、轟音から一瞬にして静寂が訪れたせいで、僕は激しい耳鳴りがしていたが、気を持ち直して、獅子座の守護者に深々と頭を下げると
「ありがとうございました。あなたの助力無しでは、到底自分を追うことはできませんでした。本当にありがとうございました。」
「これより、さらに気を付けるのだ。星海は願いが叶う場所のゆえに、犠牲と試練の場所でもある…今後、旅を続けながら自分が願うものを感じて、考えるのだ。それが、一番自分に早く辿り着く方法だ。お前が自分を取り戻して願いが叶うことを祈っている。」
― そして 僕は おとめ座へと 足を踏み入れた ―
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