15『珈琲の人気と税金』
首都にて営業しているコーヒーハウスの一つ『フランツ・メランジュ』のバックヤードにある一室にて、店主である女性シーク・パウリスタ…そして、主なスタッフとしてのキシル、ブルボン、ファイネストの四人がテーブルの席に座り、今日の無認可の珈琲豆焙煎の一件について共有している。
「なるほど…今日の取り締まった件は、少人数の規模だったのね。」
キシルから報告を受けたシークがうんうんっと頷く。
「それにしても…首都でのコーヒーの人気が高まるのに合わせて、増えすぎじゃないですかね…無認可の珈琲豆焙煎。」
キシルがやれやれといった表情を見せる。
「仕方ないわよ…この国の政府が、コーヒー豆自体と、それを焙煎する為にも税金を掛けた上に、焙煎するには免許が必要になったのだから…」
ブルボンも予期せぬ政府の対応に対して、へき易とした表情を浮かべる。
「それに…このコーヒーには、魔術師として実力を後押しする効果があると認められてからは…嗜好品というよりは、薬品の一種として取り扱うと政府が定義付けた訳だし…」
ファイネストが捕捉説明する。
「そう…珈琲豆の精製、乾燥…そして焙煎出来る人間を、私みたいな調香師としての資格を持つ魔術師にだけ許可したのもどうかと思うわねぇ…でもね…」
シークも思わず疑念を口に出しながらも続ける。
「このウリ・バルデンの国内で焙煎された珈琲豆を、国外へ売って外貨を稼いでいる人間もいるらしいから取締りは必要よね。」
シークの真正面に座るキシルと視線がふと合う。
「(確かに…それもあるとは思うけど…それ以上に政府が恐れているのは、珈琲を飲むことで魔術師としての実力が上がった人間達が結託することで、現体制を揺るがす可能性を少しでも下げたいからこそ…焙煎された珈琲豆の出所をしっかりと把握しておきたいんだと思う…)」
珈琲を飲みながらキシルが、考えを纏める。
「…いつの時代も、どこの国も同じみたい…」
コーヒーカップをテーブルに置くと同時に、
そのキシルの様子を、他の面子が怪訝そうに見つめる。
「あっ…いや、国民に人気な物に対して税金を掛けるのは、政府と呼ばれる組織の悪癖だよねって思っただけ…ほら、酒税だって、どこかの国の大昔の皇帝が『酒は百薬の長』とか言う触れ込みで始めたっていうし…」
キシルは本の虫として得た知識で、周囲からの疑念の視線を回避しようとする。
「…うん、確かにそうかも…」
何かを察した
「ふぅ~ん…キシルさんってやっぱり所々、古臭い所があるわよね。」
ブルボンが嫌味を交えながらも納得する。
「もうそろそろ…お店を閉める時間ね…閉店の準備を手伝わないと…」
壁に掛けられた時計に視線を向けたシークが切り出す。
「今日の当番は私かぁ…」
ファイネストが、ため息混じりに思い出す。
「それじゃあ…私は先に、キシルさんとシナモンさんとで下宿先に帰るわ。」
ブルボンは嫌味気にお疲れ様っと言わんばかりの笑みを浮かべながら、手を微かに振る。
「ファイネストさん、頑張って…シークさんもお疲れ様です。」
キシルに続くようにしてブルボンも挨拶をして…まだ店に立つシナモンの元へと行く。
ーーー
コーヒーハウス『フランツ・メランジュ』を後にした…キシル、シナモン、ブルボンは首都『バレアタット』の夜の街を、下宿先までの道を談笑しながら帰る。
「うっふふ…また扉を粉砕して突入したのですか?まったく、ブルボンさんは思い切りの良い人ですね。」
キシルから、今日の出来事を聞いたシナモンが微笑む。
「思い切りが良い?猪みたいな性格の間違いじゃない?」
キシルが訂正を申し出る。
「猪ですって!?…キシルさん、貴方も大概、失礼な人ね…ほら、あれよ!突入先の相手を怯ませて隙を生じさせる作戦なのよ!」
ブルボンは冷静さを取り繕い弁解する。
「作戦にしては、随分と脳筋な作戦だよね…?」
下宿先への道を曲がり、人気の少ない路地へと入ったキシルが、眼前の違和感に気付く。
それに釣られて視線をやったブルボンとシナモンの思考も、僅かにフリーズする…
その3人の視線の先には、黒いコートに付いたフードを深々と被る存在が立ち塞がっている…
その存在は、コートによって素顔は見えないものの…背格好から中肉中背の男であることだけは想像出来る。
「どなたでしょうか?」
シナモンの言葉自体は丁寧だが、その語気と瞳は警戒している。
「……」
そのコートの男からの返事はない。
「警告としてもう一度だけ聞きます…貴方は誰ですか?」
そう警戒心を露にしたキシルは…スカート下の右足側のレッグホルスターに収まる、シングル・アクションオンリーの
「貴方の『命』を重んじて、聞いて上げているのだけれど?…!?」
そう諭したブルボンは、背後からの存在に気付く。
「(不味い…背後を取られた…)」
ブルボンに釣られて振り返ったキシルも、もう1人のフード付きのコートを身に纏った存在を視認する。
「ど…どど、どうしてだよ!?」
まるで自問自答するかのような声を上げた正面の男が、キシル達へ迫るのを確認した後方のもう1人のコートの存在も、距離を一気に詰めてくる。
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