十二月二日 白昼:Endless wars, increasing casualties
銃を取って階段を下っていると、すぐに大規模な銃撃戦の音が聞こえてきた。
こちらの銃は恐らくGm-86 mod.1だろう。独特の銃声と長射程の銃で、市街戦では活躍した銃のうちの一つだ。だが、防衛戦にはめっぽう不利だ。病院は侵入されないようにと、この銃を使っているが、今回のように侵入されてしまってはどうしようもない。
対して敵はAm-12 XM.4だろう。戦争末期の試作銃だが、性能はよく、近距離戦に向いた大量の弾丸をばらまくような撃ち方から一発一発丁寧に撃つことが出来る撃ち方まで、連携さえ取れれば全く手出しできない銃だ。
一階の階段横の配電盤を開けて、中の青いボタンを押すを出すと同時に、要塞病院の仕掛けが発動した。スプリンクラーからの催涙ガス噴射だ。普段は水を噴射するが、一階だけは別機構が付いていて催涙ガスを噴射できる。他の階層からならより強力なガスを噴射できる。ベルはもう避難していたようで、私達の陣営にはあの男の差し向けた兵士しか見えなかった。
スタッフ含め死人はいないものの怪我人も何人かいるようなので、とりあえず持っていたスモークグレネードを投擲し、敵の射線を遮った。それと同時にやっとのことで館内に緊急警報が流れてフロントなど、細かい道の前には隔離防壁が展開された。私も一応戦闘には参加したが、如何せん空軍の人間なので小銃の扱いは兵士たちのほうが上手い。
熟れている拳銃だけを一丁を携え、私は敵の銃弾を所々掠めながら前進していった。一階フロントには防犯カメラの下に自動機銃が付いていて、それは設計上防衛側が有利になるような配置になっている。AIが勝手にサーモカメラとか、色々使って人を撃ちまくるらしい。しかし銃弾は五百発しか入らす、発射レートも文句なしに良いため、撃っているとすぐに弾が尽きる。
柱の裏に隠れながら、自動機銃の弾切れのタイミングを図っていた。そして、それと同時に私は拳銃を柱の裏から出して、何発か敵に打ち込んだ。殺れたのは一人だけだったが、もう十分だろう。兵士たちの目的は恐らく敵の殲滅ではないはずだ。
「ジル少将!こちらへ!」
やっぱりだった。私は兵士の後ろについて、そのまま小さく開かれた隔壁の裏に回り込んだ。
その瞬間、地を割くような轟音とともに、病院の一階にロケット砲が撃ち込まれた。病院は国内でも随一の堅牢さを誇っているので、この程度では構造上びくともしない。ただ、まだガラスはに階まで全部割れたのだが...
恐る恐る門から頭を出して周りを見ると、もう敵は殲滅されていた。増援だろう。病院一階はすでに兵士たちで埋め尽くされていて、生き残ったものの射殺を行っていた。やはり近衛隊はあの男のようだと思いながらこちらに死人がいないかを確認していると、ベルが隔壁を開けて出てきた。
「大丈夫ですか?ものすごい音がしましたけど。今のロケット砲じゃないですか?」
私は問題ないとだけ言って、通常業務に戻ろうとした時、後ろからあまり聞きたくはない声が聞こえた。
「おや、ジル少将。少し怪我をなされて居られますが、大丈夫でしょうか」
近衛隊長官、ハルネス・デリンヴァルガー。私より年下だがこの男は恐らく国内で一番頭がキレる男だろう。この前のIQテストでは脅威の全数値150を叩き出しており、特に人を見下す様子もなく、普通の人間として振る舞っている。ここまでなら普通の良い天才だ。私も彼を嫌うはずがなかった。
しかし、私が彼を苦手とする理由はその思想にある。
彼は天性の人種主義者で、民族系統が同じパリカリス帝国民は喜んで受け入れたが、この前の戦争では先住民族を根絶やしにし、捕虜までも全滅させているほどだ。それに、使える人間は使うが、使えなくなるとすぐに捨てて、新しい人間に乗り換える。それは上司でも部下でも同じようにするのだ。
一度、彼の上官が彼を失脚させようとしたが、彼はいち早くその情報を彼の部隊から入手し、先手を打ってその上官のありとあらゆる不正をでっち上げ結局自殺にまで追い込んでいる。
表面上の評価では素晴らしく、皇帝からも気に入られており、先程から出てきている近衛隊は軍からは独立した武装組織となっている。軍部もその肥大化する組織を警戒しているが、現状は度重なる戦争で疲弊した軍部に近衛隊を制御する力が残っておらず、結構好き勝手されている。
僕は銃弾を掠めた所に包帯を巻きながら彼に言った。
「どうして貴方が此処に?なにか私にしてほしいことでもあるんですか?」
「さすがジル少将。察しが良い。実は近頃『病院に幽霊が出て人をさらっている』と、私の『小鳥』たちがさえずっているのです。ジル少将は心当たりがお有りですか?」
「いいえ。全く。それでは私は業務に戻ります。ああ、助けてくれたことには感謝します。また良い情報が入ったら『鳩』と仲の良い『アヒル』にでも伝えておきますね。時期にその子供の耳にも入ると思いますよ」
一見意味の分からないやり取りをしたが、実はれっきとした会話なのである。説明せずとも分かる人には分かるのだ。簡単に言えば隠語のようなものだ。
それから、私は通常業務に戻り、まずはレミの部屋に向かいいつも通りにカウンセリングをしようとした。しかし、階段を登り、銃を置くと、なにか小さな違和感に気づいた。
「これは...足跡?」
地の付いた足跡が上に上にと登っている。私は急いでレミの元へと向かい、そして戦闘になるかもしれないので、イヤホンを彼女につけて、大きめの音で音楽をかけた。
彼女は何も言わずに私に従ってくれて、そのまま目を閉じた。
私は急いで病室を飛び出てその足跡を銃をもう一度回収して追って行った。足跡を見る限り、そいつは対空砲のある屋上へと向かっていることが分かった。足を怪我したのか、その血の色が薄くなることはなかった。まず間違いなくハルネスの兵士のものではない。彼らならもっと巧妙な罠を仕掛けるはずだ。この足跡はただ一つの何かを考えて屋上へ向かっていた。
そして、屋上の扉の前に到着すると、もう扉は開かれており、足跡はそこで途切れていた。
そして、警備の人は出てこなかったので、死んだと見てよいだろう。周囲には狙撃に適したビルもないので、恐らくこの足跡の犯人がやったに違いない。
まず、敵が何処に居るのか考えた。正直居場所は分かっているのだが、まだ警戒レベルは低めだろう。それに、敵の武装がわからない今、迂闊に飛び出て蜂の巣にされるよりも、まずは耳を使い、呼吸音を探るべきだろう。
暫くして、敵の小さなため息を捉えた。
真上だ。手榴弾に持ち替え、扉から少し手を出して、上に向かって高めに投げた。
爆発音とともに上から人の死体がドサッという音を立て、落ちてきた。確認のために近寄ろうとした時、不意にファウトの言葉を思い出した。
「敵が死んだと思っても近寄るな。それがダミーかもしれないからな」
私はもう一つ手榴弾を取って空に投げた。今度は、低い場所で爆発するように弱めに投げた。
すると、小さな悲鳴とともに、爆発音が聞こえ、上から敵が落ちてきた。恐らくこれで終わりだろうが、まだ油断はできない。足跡では一人だったが、もしかしたらもう何人か居るかも知れない。疑い深く、銃を構えて一歩ずつ前進した。
音は聞こえない。風はないため、十二月の気温ですら、少し暖かく感じるほどだ。一歩、また一歩と足音を立てないように、耳を澄ませ、しかし素早く周囲を見渡しながら私は屋上に出た。
そして中央まで来た時、私はようやく敵がもういないことを確認し、銃をおろしてため息をついた。
その時だった。ヘリコプターの音が聞こえたのだ。普段、不審な飛行物体は一瞬で撃ち落とすのだが、警備員がすべて死んでいて、私自身も対空砲の使い方はよくわからない。しかもこれは戦後最新式モデルを採用している。余計にわからない。
マズい、このまま病院に侵入される。そう思った時だった。
ヘリコプターに向かって一筋の光が伸び、爆発した。病院の中央の庭に墜落し、爆発炎上した機体に急いで兵士たちが駆け寄った。私は何が置きたのか理解できずに呆然とそこに立っていたが、横から声が聞こえた。何故だ、もう誰もいないと思ってたのに。私はその方向に銃を構えた。
「ジル先生!俺です、ハリッツです。貴方の従順な鳩ですよ」
ハリッツ。彼はまだ十八だが若くして軍に志願し、そして陸軍でファウトの右腕と呼ばれるほどの戦術を提案し、果敢に前線で戦い、その戦績は見事なものだった。ファウトが死んだことで関わりを持ち、親の居ない彼は時々私の家に遊びに来たりする。
「で、どうでした?僕のランチャーの技術?ナースステーションから盗んできた甲斐がありましたよね」
自信満々に窃盗罪を公表したハリッツに弱めにチョップを入れて、一体何処から入ってきたんだと言うと、彼は、さも当たり前であるかのように言った。
「病院が襲われたから来てみたらヘリコプターが飛んでたから、二階から侵入してランチャーを奪って、そのまま二階から発射しました。もしかしたら対空砲が占拠されてたからここまでヘリが侵入できたのかなって思ったんですよ。それで急いで窓枠伝いで屋上まで上がってきたんですよ」
「...ここ、九階だぞ」
「はい!それがどうかしましたか?」
「はぁ...」
私は仕方なく彼の戦績を本部に連絡した。そして、片付けを一通り追え、私はレミの元へと向かった。
病室のレミは音楽を流しながら眠っていたが、私はそこで他のあることに気づいた。彼女の腕に一つの腕輪がつけられている。やはりあの元帥が何もしないわけがなかった。すべて知っていて彼女は実験台に使われたのだ。
私はやるせない気持ちでいっぱいだった。とりあえず彼女のイヤホンを抜いて私は近くの椅子に座り込んだ。いま腕輪を外せばどうなるかはわからない。外したら外したで彼に消されるだろう。
「うわっ、美人ですね〜。この子」
ハリッツが余命一ヶ月の子の前で言った。私が眉をひそめて彼の方を見ると、彼は何も言わずにもう一つ椅子を引っ張りて来て、私の隣りに座った。そこで彼は初めてレミが右腕以外を失っていることに気づき、顔を伏せた。
「戦争って、終わっても犠牲者が増えるんですね」
そう呟いた。そうだ。戦争が終わって、全ての怪我人が居なくなることもなければ、犯行勢力がテロを行わないとも限らない。結局戦争は終わってからも百年以上は続くことになるのだろう。
私は一度席を立って、コーヒーを淹れに行った。ハリッツもついてきて、彼は病院の自販機でココアを買い、私はコーヒーを二つ淹れた。ハッリッツは女の子にそんなの飲ませるんですかと怪訝な顔を見せたが、私は無視をしてとりあえず彼女の居る病室まで向かった。
病室に戻ると、彼女は起きていて、私はとりあえず寝覚めのコーヒーですと行って彼女の近くにそれを置いた。すると、ハリッツは自分の持っていたココアを彼女の近くに置いて言った。
「こっちのほうが良いんじゃないですか?」
そんな訳がないだろうと思っていると、彼女は何も言わずにココアの方を取った。驚きを隠せない私の表情に、二人は顔を見合わせて笑った。
「先生って、意外な一面があるんですね。子供のことを全く分かってませんよ」
私はハリッツにまたもチョップをして、一度資料の整理をするためにナースステーションに戻った。ハリッツにはレミの相手をするように行っておいたので、彼女が寂しがることはないだろう。
ナースステーションに戻ると、まずシュパルト元帥が居た。私はほほ笑みを浮かべながら彼に挨拶をした。
「レミを見ていてくれてありがとうございます」
「私に隠し事をするなど、ジル少将も偉くなったものですね」
シュパルト元帥は私が彼女のことを隠していたのを少し怒っているようだ。この老いぼれか、あの男か、いずれにせよ、このままでは国が滅んでしまうな。
「しかし、あのような子を使うのも少々気が引けますからね。最終段階だけ手伝ってもらうことにしてます。ああ、あの子にはいはないでおいて下さいね」
「...わかってます」
私はシュパルト元帥とすれ違い、そのまま別の患者のもとへ向かい、通常通りに仕事と手術をした。
そして、業務を終えて家に帰ろうと思った時、そういえばここに住み込みになったことを思い出し、私は休憩室で眠ることにした。
まあ、風呂はまた今度でも良いか...
「不潔な男性は良いものではありませんよ、ジル少将」
寝転んだ私の顔を覗き込むようにしてハルネスが言った。私は小さくため息をついて彼に言った。
「でも、この病院のシャワー室は二十四時間混んでいることで有名ですからね。こんな広い病院に二つしか職員用シャワー室がないのもおかしな話ですがね」
そこでハルネスは私にこんな提案をしてきた。まあ正直受けたくはなかったのだが、ベルがもうこの提案に乗ってしまったと聞き、乗らずにはいれなくなったのだ。私は彼に付いて行き、彼の車に乗り込んだ。
「あの頃の記憶は戻りましたか?確かあの時は、ジル中尉でしたっけ」
「今私に言われても何も分かりませんよ。何せ覚えていないんですから。もしかしたらシュパルト元帥なら知っているかもしれませんが」
私がそう言うと、今度調べておきましょうかとハルネスが冗談を飛ばした。私は愛想笑いをし、彼の住んでいる所、つまり近衛隊の中央司令部寮の前まで送ってもらった。
「ここなら、襲撃される心配もありません、この前、ちょうどゴキブリの入っていた空き部屋が出来たので、どうぞそこをお使い下さい。ああ、もうゴキブリは出ないようにしてありますから。掃除はしなくて結構ですよ」
私は彼からその部屋の鍵をもらい、一室に一つシャワーが付いている部屋へと向かった。部屋の前ではベルと兵士が待機していた。遅くなったと謝り、私は鍵を開けて部屋の中へと入った。
その日は特にもう何もせずそのまま眠りについた。
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