2. 歪み
~前回のあらすじ~
5年にわたる戦争の末、ネード国を破ったヴェルスト帝国。英雄フェイの捕縛に成功し、バルバロス帝と皇子は彼の元に向かった。皇子は英雄を気に入ったものの、皇帝の答えは「処刑」。やむなく処刑を執り行うこととなった。
「・・・完了いたしました、父上。」
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私は、今日、大切なものを失ったようだった。彼には私と共に数十年、数百年、いや、数千年の歴史に名を残すに必要な資質が備わっていた。一目見ただけで彼の勇猛さと忠誠心に惚ほれていたのだ。
父はそれを一瞬にしてこの世から消し去ってしまった。
「ああ・・・。父上、なんて、なんて・・・」
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星領暦 1342年 熱期 26日
ヴェルスト帝国の初代皇帝・バルバロス帝とその息子・ブルート皇子がネード国へと赴く。
とり残されたネード国の民衆達は死の恐怖におののいたが、帝国によって行われたのはまさかの食料配給であった。
戦時中において十分な食事もままならなかった民衆達は、あまりにも寛大な処置に対して懐疑的に思うものの、本能には抗えず次々と食料を手に取る。
民衆達は皆往々にして号泣し、次には皇帝・皇子への尊敬と服従を隠さずにいた。
しかし、この数刻後悲劇が起こる。
愛すべきバルバロス帝がネード王族の生き残りの手によって・・・。
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今日もまたわしの野望に一歩近づいた。
ネード国の人口は現在532374人、間に合わず死にゆく者が122534人ほど。これは致し方ない。必要経費だ。
「・・・」
我が息子は今宵も何も話さない。まあそれでもよい。わしには関係がない。
----ガタッ----
突如馬車が止まったらしい。間に合わない者が248人ほど増えた。
「お、おい。クソ皇帝やろう!早く降りてこい!」
何なのだ、この者は。どうやら鉄剣を持っているようだが、明らかに筋力が足りていない。彼の者はおそらくネード王族の生き残りであろう。邪魔な一族だ、排除せねばならん。
「わしが目当てか。」
「ひっ・・・」
声を発しただけで彼の者は逃げてしまった。あまりにも情けない。
「・・・御者のみ残り、やつを引っ捕らえよ。」
すぐに我が息子は命令を下した。彼奴には上に立つ才がある。私の見立てでは53243248人ほどを生かすことができるであろう。昔の私にも引けは取らない。わしの後には皇帝にしてやろう。
「・・・」
「・・・」
「・・・どうした、早く動かさぬか。」
わしは動かない馬車に一抹の不安を感じる。
「・・・御者。やれ。」
目の前に座っている冷たい目をした男は独り言のようにささやく。それからすぐに私の首から生暖かい血が垂れてきた。
「・・・父上、私はあなたのことがずっと嫌いでした。」
「・・・しかし、私はあなたのその地位、その名声、そしてその態度がなによりも好きなのです。私だって我慢はしましたよ?でも、もう耐えられない。昨日のあの非情な選択は最っ高でした!もう、今すぐにでも、あなたになりたいのです。」
頭がもうろうとしてきた。すでにあらゆる感覚はない。助けが来る気配もない。彼奴のことだ、すでに根回しは済んでいるのだろう。
なかなかやるようだな。任せることはできる。
しかし、ここでわしが潰えるか
・・・ああ、・・こ・・・・・い・・・・。
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星領暦 1342年 熱期 26日
バルバロス帝はネード王族の生き残りによって暗殺された。馬車を降りる際に気道を狙われ、即死は免れたものの皇子や従者の懸命な処置も実らず逝去。今際いまわの際、ブルート皇子に「任せる」と言い残した。犯人はすでに捕らえられ処刑済み。
30日に盛大な国葬を開き、2代皇帝・ブルート帝の戴冠式を執り行う。
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