第55話 悩んだ果ての答え
ゲーム中での主人公「宮野楓」についての俺の印象は可もなく不可もなく。といった印象しかなかった。
確かに1周目の1つしかない選択肢はどれもこれも「そうはならんやろ」といったものが多かった。だけど所詮はゲーム。元の主人公が完璧だったらプレイヤーが頑張る意味がない。そもそもが周回前提のゲームだし、ヒロイン達の不幸な結末を見せるためだと思ってた。2周目…つまりプレイヤーが操作できるようになってから出てくる選択肢は比較的普通なものもあった。
だからこそルートに入ってさえしまえば何も問題はないのだと勘違いしてたのかもしれない。
でもここはゲームの世界であってゲームの世界じゃない。ルートなんて存在しないし、楓にもちゃんと語られなかった過去、ここまでの人生がある。実は何かしらの深い事情があって今があったのかもしれない。俺が楓と話してもっと知ろうとしていればそれも分かったはずだ。
なんで楓が桜との血の繋がりがないことを知ったのか。本来なら特定の選択肢を選ばないといけないはずだった。だけどそれもゲームの話。楓達の両親が何らかの決意をするきっかけがあって話したんだろう。全てがゲーム通りに動いてくれるわけがない。
…………俺がもっと上手く立ち回っていれば良かったんじゃないか。
もっと最初から楓をフォローする形で動けば。俺が解決しようとせず、楓に情報を流す形で動けば。楓は暴走することなく、乃愛や桜が心に傷を負うことはなかったんじゃないか。
完全に調子にのってた。全てが俺の知っている通りに動いてくれると。でもそんなわけがなかったんだ。転生してかれこれ3ヶ月。燈達以外にも色んな出会いがあった。そこにいる皆が生きてて、それぞれの人生や想いがあったはずなんだ。
そのくらい少し考えれば分かったはずなのに、俺は全てを知って、全てが解決できる選ばれた人間だと思い込んでた。
もっと俺が楓と話をしていれば。そうじゃなくてもせめて楓と乃愛のフォローをもっとしてやれば。そうすればこんな事件はきっと起こらなかったはずなんだ。
俺が壊したんだ。
楓も……乃愛も、桜も…………
「――――零央!」
「っ………はい!?」
突然大声で名前を呼ばれ、背筋がピンと伸びる。気づけば俺は校門前にいて、声をかけてきたのは栞だった。
「…………おはよう」
「あ……おはよう…ございます」
挨拶を交わすと、栞は俺の隣を指差した。そこには七海が居て、とても不安そうな顔をしていた。
「全く……七海に謝ったら生徒会室に来い。話がある」
「……分かった」
栞はそう伝えると校舎に向かっていった。俺は七海に頭を下げ、不安にさせてしまったことを謝った。そうして七海から少し怒られた後、俺は急いで生徒会室へと向かった。
「きちんと怒られてきたか?」
「………そりゃもう」
「気をつけろよ。あれでいて七海が一番欲深いのだから」
軽く話をし、栞は真剣な顔つきで本題に入った。
「話すことは2つある…………まずは1つずついこう。宮野楓に関してだ。結論から言えば…今のところかなり厳しい。理由としてはいくつかあるが、第一に目立つ証拠がない。幸いにも桜ちゃんは危害を加えられる前に水上乃愛によって助けられた。つまりは未遂なんだ」
「でも実際に桜は被害に………」
「……それ自体が水上乃愛の捏造という可能性もあるんだ。第三者の証言だけでどうにかなるほど簡単なものじゃない。それに水上乃愛は彼を殴ったのだろう。実際に目に見える被害が出てるのは…言いたくはないが宮野楓だけなんだ」
「なっ…………」
「…………もちろん被害者本人の証言があればもう少し話は楽だ。だがな、それが2つ目。桜ちゃんの精神状態だ」
桜の話になった途端、栞は頭を抱えて怒りで声を震わせながら説明してくれた。
「っ……どれほどの傷を負ったのか…私達では分からない…昨日の夜は私と一緒に居たんだが……ずっと何かに謝っていた。会話がままならないんだ。母が遠回しに話を聞こうとしたが、何気ない会話だったはずなのに桜ちゃんは泣いてしまった。だから……証言なんて頼める状態じゃない。今も母が仕事を休んで付きっきりで見てくれているが…回復するのはいつになるか……」
「そんな……じゃあ…………」
「……とりあえず明日、両親が宮野楓の家を訪れるそうだ。事情を全て話し、今後の桜ちゃんの待遇をどうするか決める。だがこれもすぐに解決する問題じゃない。話を聞けば何かしらあったことは分かるだろうが…そんなこと信じられるわけがない。兄が妹を襲ったなどと…………あり得ていい話じゃないんだ」
栞の話を聞いた俺は言葉を失った。自分自身に憤り、絶望した。きっと全て俺が招いた結果だ。俺がもっと上手くやれてれば……
防ごうと思えば防げたはずなのに……俺がもっと頑張っていれば………俺が――
「零央」
「っ…ちょ……ふぁい」
俺がここまでの行いを悔いていると、栞が急に俺の頬を両手で潰してきた。
「なんふか……」
「……いや?」
「ちょ…やめっ………ひっぱ……いたた!」
そのままグニグニとしてきたかと思えば今度は急に引っ張られ、散々もてあそばれた。だがそんなバカみたいな事をしている最中でも栞は真剣な表情のままで、俺の目を見ながら話を再開した。
「零央が宮野楓と因縁があるのは分かる。避けていたのもね。でもだからといって何故君が彼のことまで背負う必要がある。ましてや彼は越えてはならない一線を越えたんだ。それは君に関係あるのか?」
「いや…………そういうわけじゃ……」
「………あのな零央。完璧な人間なんていない。いたとしてもそれは完璧だと思い込んでいる人間だ。成功の裏には失敗がある。誰しも失敗から学び、次こそはと努力するんだ。君だってそうだろ?自分の間違いに気づき、今はしっかりとした道を歩いている」
「…………でも……それは…」
「勘違いするなよ。私は君のくだらない過去を肯定するつもりは一切ない。もし今後何かしでかしたら問答無用で牢屋に叩き込む。そのために両親に君を紹介したんだから」
栞は俺の頬をいじめていた手を止めると、今度は頭を撫でてきた。
「彼だって今回の件でようやく自分自身と向き合えるかもしれない。きっとそうだ。自分の過ちに気づき、水上乃愛や桜ちゃんに謝罪してくれるだろう。その程度で済む話ではないが…そうなれば桜ちゃんが回復せずとも色々と話が前に進むだろう。だから…………」
栞はそのまま俺の頭を自身の胸に抱き寄せ、優しく語りかけてきた。
「気取るなよ。君はヒーローなんかじゃない。君は私の彼氏だ。あまり他を見ていられては嫉妬してしまうぞ」
「…………っ……」
「…………なんだ。意外と泣き虫だな。かわいいとこもあるじゃないか」
「うるせ…………マジで……」
俺は………結局救えなかった……
でも………これはゲームの世界じゃない。
まだだ。乃愛も、桜にも、まだこれから人生がある。ここでエンディングじゃない。
まだやれることは沢山あるはずなんだ。悔やむんだったらそれを今から全力でやればいい。
まずは…あのバカ野郎からだ。
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