無個性ラバーサキュバスドール化 駆け出しシーフと魔法使いの苦難

MenRyanpeta

第1話 変わらぬ思い

ある遺跡内。

まだ駆け出しの若手冒険者コンビ、シーフのカイトと女魔法使いのメルがギルドからの依頼を受けて遺跡の調査していた。


「ふぅぅ…ここの足場、ぬかるんでるから気を付けろ?」

「はぁ…はぁ…しんどい…待って…カイト…」


遺跡の最奥部に近づくにつれて湿度が高くなり、床がヌルヌルとしていてかなり足場が悪い。

メルの光魔法によって遺跡内は明るく保たれているのだが。

しかし運動能力が低く、無駄に胸が大きくスタイルのいい彼女にとってはここを歩くだけでも苦行であった。

肩で息をするほどヘバっている。


対して細身で身軽なカイトは軽快な身のこなしで遺跡を奥へ奥へと先行して進んでいく。

一見、メルを見放しているようなカイトの身勝手な行動に見えるが実際は異なる。


(よし、ここは大丈夫だな…ん?これはトラップか?)


カイトが後ろにいるメルの方を振り向き、足元の床を指さす。


「ここ、絶対踏むなよ?トラップがあるから」

「わかった…はぁ…はぁ…」


メルは言いつけをしっかり守り、カイトが歩いたところだけを歩くようにしている。

その様子を見てカイトは小さく微笑み、また遺跡を進んでいく。


どんくさいメルが遺跡のトラップに引っかからない様にカイトがしっかりエスコートしているのだ。

実際、突き放しているように見えてカイトはメルの方をチラチラと頻繁に見て気にかけている。


探索時は今のようにカイトがメルをリードする。

しかし戦闘時はこの立場が逆転する。


(ここ…変だな。地質が違う。いったん下がるか…)


カイトが足場の変化に目ざとく気づき、メルの方まで後ずさりしていく。

メルはそんなカイトを見て不思議そうな顔をした。


「どうしたの?なにかあった?」

「たぶんゴーレム。あそこの床、ちょっと色が違うだろ?」

「ん?…あっ!ほんとだ!」


カイトの指さした先の床は確かに少し他とは違い黄色みがかっている。

ゴーレムなどの自然系の魔物が潜んでいる可能性が高い。


「いけるか?」

「ふぅぅ…OK、まかせて」

「わかった。じゃあいくぞ!」


普段ほわほわしているのメルの顔が引き締まる。

メルの様子を見てカイトはその場に転がっている石を拾い上げ、先ほどの色が違う床へと投げた。

コン!…ゴゴゴゴ!


床の一部が盛り上がり、地面からゴーレムが這い出てきた。

カイトの予想通りだった。


「やっぱりな!弱点は…メル!少し待ってくれ!すぐ見つける!」

「うん!無理しないでね!」


メルは大きくカイトから距離を置く。

カイトは前に出てメルに攻撃が向かない様にゴーレムの注意を引き付ける。


カイトはゴーレムの攻撃を躱しつつ、片手で円を作り覗き込んだ。


(スキャン!どこだ弱点は…ここか!)


カイトはマジックバックからピンク色のペイントボールを取り出し、ゴーレムの右胸に投げつけペイントした。

それを見てメルは両手をバッ!っと前に構え、ゴーレムの胸を目掛けて攻撃魔法を放つ。


「ライトニング!」


メルの重ねた両手のひらから出た一直線の光がゴーレムの胸に風穴を開ける。

するとゴーレムは動きを止め、体が砂のように変わりその場に崩れていった。


メルの魔法の威力と精度にカイトは驚きを隠せない。

たいしてメルは先ほどの引き締まった顔が緩み、いつもの優しい笑顔になってカイトに駆け寄ってくる。


「やった!やったね!倒せたよ!」

「あ…あぁ!やったな!」


二人はお互いに笑顔になり、顔を向き合わせてハイタッチをした。


このように探索はカイト、戦闘はメルとお互いの長所短所を補っている実にいいコンビだ。

小さな村で同じ日に生まれともに育ち、学び、遊び…18年間一緒の幼馴染だからこそなせるチームワークだった。


しかし、幼馴染だからこその弊害もある。


カイトはメルに恋心を抱いていた。

年を追うごとにどんどん魅力的な女性になっていくメルをずっと隣で見ていたからだ。

でも中身は幼いころのまま、朗らかで優しくて、たまにドジでちょっと抜けていて…そんな変わらない彼女が好きだった。


(すごいなメルは。魔法がどんどん上達してる。それに比べて俺は…)


カイトは自分の非力さを日々感じていた。

本当はメルのようにモンスターを倒し、体を張って彼女を守りたい。

しかし線が細く、筋肉が付きにくい体質のため剣士などの前衛職を張れず、シーフという軽装職を選んだ経緯がある。


だからといって不貞腐れることなく、村の隠居した元ローグの老人に密かに弟子入りし、非力な自分でも使え、生き残るための技を磨いた。

実は手先がとても器用で機動力が高く、周りの変化にすぐに気付く観察眼を持っているという長所を彼は全く自覚していない。


そんな劣等感のせいでメルに愛の告白ができず、仲のいい友達のような関係を続けてしまっている。

そしてもし告白が失敗したときの、今までの二人の関係性が壊れてしまうことを最も恐れていた。


少しうつむきながら先を行くカイトの背中を見て、メルは不思議そうな顔をしていた。


(どうしたのかな?元気ないの?ゴーレム倒したのに…ん?)


メルは肩でぜぇぜぇ息をしながらもカイトについていく。

そしてカイトにわからない様に少し微笑んだ。


(すごいねカイトは。あんな床の色の違いなんてわかんないもん)


今もメルがトラップにかからない様に危険を冒して先を行ってくれるカイト。

そして後ろのメルにまで頻繁に目を配っている。

メルはカイトの気遣いをちゃんと感じていた。


(それに私のこといっつも気にかけてくれて…ふふふ♪)


実はメルもカイトに恋心を抱いていた。


メルは小さいころから運動が苦手で、周りの友達から後れを取ってしまうことが多かった。

そんなメルを気遣い、手を引っ張ってくれたのはいつもカイトだった。


10歳のころ、ある日突然魔法の才能が開花した。

その時もカイトが一番にメルの魔法に気づき、褒めてくれた。

そして周りの子供たち、大人たちにまでメルの魔法の才能の凄さを広めてくれたのだ。

ただの10歳の少年がだ。

16歳の時に「冒険者になろう!」とメルを誘い、その手を引っ張ってくれたのもカイトだった。

あの時メルは、周りの冒険者志望の子ではなく自分を選んでくれたことが何よりも嬉しかった。


そして今もあの華奢だが大きく見える背中でメルのことを守ってくれている。

顔や口にはあまり出さないが本当は優しく、気遣いができて男気のあるカイトにずっと惚れ込んでいた。

メルにとってカイトは昔からヒーローだったのだ。


(一緒にいたいな。これからも…ずっと)


できればカイトとこの先ずっと、生涯をともにしたいと考えている。

しかしカイトにその気がなければそれは叶わないとも思っていて、告白は切り出せないままでいた。


性格や能力は違うが、二人とも両思いである意味似た者同士。

お互いに淡い恋心をいつまでも打ち明けられず、ズルズルと昔からの仲良し兄妹のような関係を続けてしまっている。

傍から見たら実にもどかしい。



しかしこの関係性がこの後一気に崩れてしまうことになろうとは、今の二人には知る由も無かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る