貴族令嬢のポテンシャル


 夜のお出かけがなければ、夕方には家に帰る。朝は自分ちの馬車で出勤(?)してくるが、帰りはカーソン侯爵家の馬車が家まで送ってくれるのだ。

 わたしも家に帰れば伯爵令嬢である。


 この世界に転生してよかったと思うことがふたつある。


 ひとつ目はこれ。

 テーブルにつくと温かい料理が自動的に出てくるシステム。いや、料理人と使用人がやってくれているのだが。

 きょうは牛肉を焼いたヤツ。ほんのりガーリック風味のソースがかかっている。

 めっちゃおいしい。


 すごい。

 なんてすてきな上げ膳据え膳。

 もちろん、食後の食器を厨房にもっていくなんてしなくてよくて。


 はっ。もしかして、わたしはもう一生献立を考えなくていいのでは?

 だって貴族だもの。

 この事実に気がついたとき、思わず厨房へ駆けて行って料理長に抱きつきたくなった。


 だってちゃんと毎日ちがう料理が出てくるのだ。ビーフにポークにチキン。焼いたり揚げたり煮込んだり。

 味もいろいろ。塩味、トマト味、スパイス風味。さすがにしょう油と味噌はなかった。

 それだけは残念。


 たまーに、ツナマヨおにぎりやラーメンが食べたいなと思うけれど、そんな贅沢は言わない。

 すわれば出てくる。それがごちそう。

 上げ膳据え膳、ブラボー!


 そしてなにより魚がない。

 沿岸地域なら食べるのかもしれないが、ここでは肉しか食べない。


 とってもラッキー。なぜならわたしは魚介類がきらいだから。(ツナだけはだいじょうぶ)

 くわえて生ものも食べられない。お肉でもステーキの赤いやつはちょっと無理。わたしのヤツはしっかり焼いてもらっている。

 肉汁がしたたるっていうけど、それ血だよね。無理。

 だから寿司はアウト。


 回転寿司で食べるのは、サラダ軍艦、ウズラ納豆、焼き肉だった。

 夫も子どもたちも、寿司も好き、魚も好き。新婚のころ、サバの味噌煮が食べたいと言われた。がんばって作った。レシピ本を見て、

 生臭さをこらえながら。できあがったものが、おいしいのかおいしくないのかすらわからなかった。


 たぶん、おいしくなかったんだろう。まずい、とは言わなかったけれど、夫はそれっきり食べたいと言わなくなった。

 わたしもそれっきり作っていない。居酒屋で食べたほうがよほどうまいだろう。


 転生してよかったことのふたつ目。

 若返った!

 なんたって、十八だもの。元の世界で言えば女子高生。無敵のJK。


 シワがない。肝斑もない。すべすべでぴちぴちのお肌。

 コラーゲンもLシステインも不要のお肌。

 最強。

 そのうえ、外を走りまわったりなんて絶対にしないから日焼けの心配は皆無。


 おっぱいはこんもり。おしりもぱあんっ!たるみの「た」の字もない。

 すばらしい。おふろ上りにほれぼれと見とれてしまう。

 わたしも十八のころ、こんな体だったはず。なぜ無駄に過ごしてしまったのだ。もっと攻めたおしゃれをすればよかった。

 だから! いろいろとやり直しだ!

 せっかく若返ったんだもの、謳歌しなくちゃ!


 ……欲を言えば、ちょっとぽよんとしている。そりゃそうだ。令嬢たるもの運動なんか一切しない。

 これは将来やばいぞ。ぜったいにたるんでくる。

 せっかく手に入れたこのボディ。なんとかキープしないと!

 そんなわけで寝しなのひと時、こっそりとスクワットとプランクをしている。音も振動もなく機材もなくできるからね。


 最初十回もできなかったスクワットは一か月で百回できるようになった。プランクも三十秒を五セット。


 いいんじゃない?

 これで、お嬢さまを不逞の輩からお守りできる。

 いっそ、空手とか習おうかなとか思う。空手がこの世界にあるのならば。

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