第3話
我ら1の4の教室内は、
縦に6、横に6、36席。わたしは3列目の後ろから3番目に座った。閑散とした教室に1人という環境は、人を
両親、かつての友人達、通りすがりに自分に親切にしてくれた人達より与えられた愛の蝋燭に火がついて、なんだか感傷的な気持ちになってきた。そこでジョークをひとつまみ。「わたしが産まれた時には熱湯と冷たい流水を頭からかけられて、東西南北へそれぞれ7歩歩いてそれから、天と地とを同時に指さしながら、天上天下唯我独尊って言ったんだっけ」 フフっと笑った時、誰かが教室に入ってきた。その子は前の扉に1番近い、1番右の1番前に座った。彼はどうやら鞄の持ち主で出席番号が1番のようだ。彼への興味よりも、今の笑い声を聞かれていないかの不安が上回って、わたしは彼を注意深く睨みつけた。
その子を皮切りに新しいクラスメートがぞろぞろと入室してきた。人が増えてもほとんど会話のないこの空間がなんだか気まずくなって、目を閉じてやり過ごすことにした。時刻は8時くらい、30分後に教室を出て体育館に行って、そこで始業式。このままやり過ごしてしまおう、わたしは目を閉じたままさっきと同じように思い出の空想に耽った。
「まことちゃん。起きなさーい」
誰かがわたしに呼びかけた。懐かしい。思い出の中にあるはずの声。誰だかはわからないけれど、心地いい声、大事な人の。
「起きないと遅刻よー。早く来た意味なくなっちゃうよー」
「わかってるよー、起きるよぉ」寝ぼけて間抜けた返事をしている場合ではなかった。その声は夢の少女の声だ。その関連性は脳内の靄が晴れさせた。わたしはハッと目覚めた。
そしてその時、気がついたことが3つあった。
1つ。始業式がもう始まっていて、校舎が異様な静けさにあること。2つ。この教室にはカバの鳴き声のようないびきがなり巡っていること。3つ。そしてそのカバが真後ろにいること。わたしはこの状況を完全に理解できていない、しかもそんな状態のまま後ろを見てしまった。そこにいたのは人の姿をしてカバのようないびきを発する、キメラだった。
よく見るとそのカバ、進藤佐一は他のイスを持ち寄せて並べ、寝にくそうなベッドを作ってそこに横になっていた。わたしの頭にはクエスチョンマーク。「なにしてんだこいつ」可動範囲の狭いイスの上で寝返りを打ち、時折鹿のようにピーといびきをたてる進藤、眠りから覚めたため体温が下がって、馬のようにのんきに身震いするわたし、2人そろって馬鹿だった。
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