昔僕をいじめていた女の子と結婚する話

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第1話:前編

僕の名前は山本一樹。小学生の頃、僕は高槻美咲という女子にいじめられていた。美咲はクラスの中心的存在で、その美貌と存在感で誰もが一目置いていた。しかし、僕にとって美咲は恐怖の象徴だった。一言で言えば“小悪魔“という単語が当てはまる。

そして彼女の父親は社長だったことも拍車をかけていた。


高槻美咲は小学四年生の頃からクラスの中心的存在として君臨していた。美咲は教師たちからも信頼され、クラスメートたちからも一目置かれる存在だった。しかし、美咲の内側には、自分の地位を確立するために他人を犠牲にする冷酷さがあった。


僕がそのターゲットにされたのは、小学五年生の時だった。美咲は僕を標的にし、毎日のようにいじめを行った。朝の挨拶で無視されるのは日常茶飯事。時にはわざとぶつかってきたり、僕の持ち物を隠されたりした。


「おい、山本一樹、お前のノート見せろよ!」

美咲が僕の机に寄ってきて、強引にノートを取り上げた。


「返してよ……」

僕は小さな声で抗議するが、美咲は耳を貸さない。


「こんな字、読めるわけないじゃん。バカみたい。」

美咲は大声で笑い、クラスメートたちもそれに続いて笑い声を上げた。


ある日、昼休みに僕の弁当を隠されたことがあった。僕は教室中を探し回り、最終的にゴミ箱の中から見つけた。その光景を見ていた美咲は、遠くから冷ややかな目で笑っていた。


「なんでこんなことするんだよ……」

僕は涙を浮かべながら美咲に抗議した。


「だって、お前みたいなやつがいると面白いんだもん。笑い者にされるのがちょうどいいんだよ。」

美咲は冷たい目で僕を見下した。


家に帰っても、僕は自分の気持ちを誰にも話せなかった。両親は共働きで忙しく、僕のことにかまっている暇はなかった。家では自分の部屋に閉じこもり、ゲームをして現実逃避をしていた。


「お前、最近元気ないな。何かあったのか?」

父がある日、珍しく僕に話しかけてきた。


「別に、何もないよ。」

僕は素っ気なく答えた。話したところで何も変わらないと、すでに諦めていたからだ。


美咲のいじめは中学校に進んでも続いた。美咲は他の生徒たちと結託し、僕を孤立させるための計略を練っていた。放課後の掃除時間に、美咲はわざとゴミを僕の机の周りに散らばらせた。


「これ全部お前がやったんだろ?早く片付けろよ。」

美咲は僕に命令し、他の生徒たちもそれに同調した。


「俺、やってない……」

僕は必死に弁解するが、誰も聞く耳を持たなかった。


そんな毎日が続き、僕は自分に自信を持てなくなり、人と話すことが怖くなっていった。友達も少なくなり、僕はどんどん内向的になっていった。


中学校を卒業すると、僕たちは別々の高校に進学し、それ以来会うことはなかった。美咲のことは忘れたかったが、心の片隅にはいつもその記憶が残っていた。


高校二年生のある日、僕は通学路で偶然にも美咲と再会した。美咲は僕の目の前に立っていたが、かつての美しさは見る影もなかった。髪はぼさぼさで、目の下にはクマができており、どこか疲れ切った様子だった。


「あ、一樹……?」

美咲の声はかすれていた。


「美咲……? 久しぶりだね。」

僕は驚きと同時に、かつての憎しみが胸の奥から蘇ってきた。


「久しぶり……本当に。」

美咲は苦笑いを浮かべた。


「どうしたの?何かあったの?」

僕は冷たい口調で聞いた。


「その……色々と大変で……」

美咲は目を伏せた。


「大変?ふん、僕には関係ないね。君が僕にしてきたことを忘れたわけじゃないから。」

僕は冷酷に言い放った。


美咲は驚いた表情で僕を見つめた。

「一樹、本当にごめん。あの頃はどうかしてたんだ。許してくれないかな?」


「許す?君が僕にどれだけの傷を残したか、君には分からないだろう。僕は君を許すつもりはない。」

僕は振り返らずにその場を去った。




その日以来、美咲は何度も僕に会いに来るようになった。通学路で、学校の帰り道で、図書館で、僕がどこに行っても美咲は現れた。


「一樹、少しだけ話を聞いてくれない?」

ある日、美咲が再び僕の前に立ちはだかった。


「話すことなんて何もないよ。もういい加減にしてくれ。」

僕は苛立ちを隠せなかった。


「お願い、一樹。せめて話を聞くだけでも。」

美咲の目には涙が浮かんでいた。


「昔、君が僕に言った言葉を覚えてる?『お前なんかいなくても誰も困らない』って。あの言葉がどれだけ僕を傷つけたか、君には想像もつかないだろう。」

僕は怒りを込めて言い放った。


美咲は涙をこらえきれず、泣き崩れた。

「本当にごめんなさい。一樹、あの頃は自分が何をしているのか分かっていなかった。後悔してるんだ。どうか、許してほしい。」


「もうやめてくれ。君の謝罪なんて聞きたくない。」

僕はその場を離れようとしたが、美咲が僕の腕を掴んだ。


「お願い、一樹。どうか、話を聞いて。私は変わりたいんだ。」美咲は必死に訴えた。


「変わりたい?そんなの僕には関係ない。君の過去は消えないんだよ。」

僕は美咲の手を振り払った。




それでも美咲は諦めなかった。毎日のように僕の前に現れ、謝罪を繰り返した。ある日、帰宅している最中に美咲が再びやって来た。


「一樹、どうしても話をしたい。もう一度だけ、お願いだから。」

美咲は真剣な表情で僕を見つめた。


「何度言っても同じだよ。僕は君を許さない。」

僕は冷たく答えた。


「それでもいい。何度でも謝るから。私は本当に後悔してるんだ。」

美咲の目には強い決意があった。


「どうしてそこまでこだわるんだ?僕なんかどうでもいいだろう?」

僕は困惑しながら尋ねた。


「どうでもよくないよ。一樹、君が私にとってどれだけ大切な存在だったか、今になって分かったんだ。だから、どうしても君に許してもらいたい。」

美咲の言葉に、僕は心が揺れ動いた。


「僕が大切?そんなの信じられない。」

僕は美咲を試すように言った。


「信じて。一樹、君がいなかったら、私は今頃どうなっていたか分からない。君に助けてもらったこともあったのに、私はそれを忘れていたんだ。」

美咲の目には涙があふれていた。


僕はしばらくの間、黙っていた。美咲の真剣な表情と涙に心が動かされ、何かが変わり始めているのを感じた。しかし、過去の傷は深く、すぐに許すことはできなかった。


「分かった。もう一度だけ、話を聞くよ。でも、それで僕の気持ちが変わるとは限らない。」

僕はそう言って、美咲に話す機会を与えた。




「ありがとう、一樹。本当にありがとう。」

美咲は感謝の気持ちを込めて言った。


「昔、私はいつも自分のことばかり考えていた。他人を傷つけることがどれだけひどいことか、全然分かってなかったんだ。でも、君に出会って、君にひどいことをした後、私は自分がどれだけ間違っていたか気づいたんだ。」

美咲は静かに話し始めた。


「高校校に入ってからも、私は他人を傷つけることをやめられなかった。自分が強いと思っていたから。でも・・・私自身が孤立し始めたんだ。友達もいなくなって、毎日が辛くなった。その時、君のことを思い出した。君がどれだけ辛かったか、初めて理解できたんだ。」


美咲の声は震えていた。ざまぁ見ろと思った。


「だから、一樹君に謝りたかった。君に許してもらうことで、自分も変わりたいと思ってるんだ。」

美咲は涙を拭いながら続けた。


僕は美咲の話を聞きながら、少しずつ理解し始めた。美咲もまた、自分自身と戦っているのだと。過去の傷は消えないが、美咲が本当に変わりたいと思っているなら、僕もそれに応えたいと思った。


「美咲、分かったよ。君が本当に変わりたいなら、僕も君の努力を見守るよ。でも、完全に許すには時間がかかると思う。」

僕は正直に答えた。


「ありがとう、一樹。本当にありがとう。」

美咲は涙を流しながら感謝の言葉を述べた。


その日から、僕たちは少しずつ心を開き合い、新しい関係を築いていくことになった。過去の傷は簡単には癒えないが、お互いに理解し合うことで、少しずつ前に進むことができると信じていた。


一樹と美咲は、穏やかな日常を共有しながら、少しずつ心を通わせていた。時には、街の喧騒を忘れるために、一緒にアイスを食べに出かけたり、図書館で静かに本を読んだりして、心を落ち着かせる時間を過ごしていた。


ある日、二人は街の小さなアイスクリーム屋に立ち寄った。甘い香りが漂う店内で、一樹は美咲に微笑みかけた。

「どんな味がいいかな?」


美咲は少し恥ずかしそうに笑いながら、メニューを眺めた。

「私、いつもバニラが好きなの。」


一樹は微笑みながら注文し、美咲にアイスを手渡した。

「じゃあ、これ。」


美咲は喜んで受け取りながら、一樹に感謝の笑顔を向けた。

「ありがとう、一樹。」


僕達はアイスを楽しみながら、笑顔でお互いの話を聞いたり、将来の夢について語り合ったりした。そのひと時は、僕らにとって特別な時間となった。


アイスを食べ終えた後、二人は近くの図書館に向かった。図書館の入り口には静寂の雰囲気が漂い、本の匂いが漂っていた。一樹と美咲は、その穏やかな雰囲気に包まれながら、本棚を見て回った。


美咲は興味津々の本を手に取り、一樹に見せながら言った。

「一樹、これ、面白そうでしょう?」


一樹は笑顔で頷きながら、美咲の選んだ本を受け取った。

「確かに、面白そうだね。一緒に読もうか?」


僕らは本を開き、隣り合わせに座って静かに読書に没頭した。図書館の中では、時折、ページをめくる音や彼らのささやき声が聞こえるだけで、その穏やかな空気がさらに深まっていった。


その日、一樹と美咲はアイスと本を通じて、より深い絆を築いた。


「美咲、こんな時間を共有できて本当に楽しいよ。」

一樹は優しく美咲に微笑みかけた。正直僕は驚いていた、小中いじめていた女の子とここまで親しくなるなんて。

美咲の努力を、変わろうとしている事が伝わってくるから許す事が出来たのかもしらない。


「うん、私も同じだよ。ありがとう、一樹。」

美咲は感謝の気持ちを込めて言った。


一樹と美咲は街を歩いていた。楽しそうに会話をしながら、デートを楽しんでいた。しかし、突然、通りかかった角で、美咲をいじめている集団に遭遇した。


主犯格のギャルは美咲を見るなり、嫌な笑みを浮かべて声を上げた。

「あれ?ブスじゃん!」


美咲は、その言葉に耐えるように微笑みながら、何も言わずに立ち止まった。ギャルは攻撃を続け、

「こんなブスが一緒にデートしてるの?笑っちゃう!」

と美咲を侮辱する言葉を投げかけた。


「な、何よ、あんたら!私に何か用?」

美咲は声を震わせながらも反論するが、ギャルは不敵な笑みを深べる。


「用?あんたに用があるわけないじゃん。ただ、ここでブスを見かけたから、ちょっと笑っちゃったよ。」


「・・・私に何か言いたいの?」


「言いたいこと?もちろんあるよ。例えば、この間のこととかさ、あの時のあれとか。」


「何を言ってるの?私にはわからないわ。」


「あー、本当にブスってバカなの?もう一回思い出してみたら?あの日のこと、この間のこと、全部覚えてないの?」


「あの日のこと……それは……」


「思い出せないの?あはは、それならもう一回教えてあげようかしら?あんたの前で大事なアクセサリーを壊した時とかさ、スカートを下ろした時とか、本当に私達って仲良いよね〜」

ギャルは笑いながら言い放つ、美咲は身体を震わせていて泣きそうだった。


「しかも何が一番ウケるってさ、小学生、中学生共に過ごしてきたツレに裏切られったことだよね」

ギャルは高らかに笑った。美咲が1番の親友に裏切られた事実は僕も知らなかった。


一樹は怒りを感じながらも、冷静さを保ち、ギャルに向かって歩み寄った。


「そこまでだ。君たちの行動は許せない。」

何故だか分からないけど僕は前に出ていた。


ギャルたちは一樹の姿勢に戸惑いながらも、美咲を見下すような目で美咲を睨みつけた。


「あー、カッコつけんなよ。お前らもう一度よく考えたほうがいいんじゃない?こいつ元イジメっ子だよ?」


「だからなんだ?」


「だからなんだって、ブスの相方はバカってこと?」


一樹は冷静に答えた。

「君たちがいじめを続けることで何が得られるのか、本当に理解しているのか?」


ギャルたちは一瞬言葉を失ったが、すぐに攻撃を再開した。


「黙れよ・・・このブスを守るなんてお前も相当頭おかしいんじゃないの?」


一樹は彼らの攻撃に対して耐えながらも、美咲を守るために立ち上がった。


「君たちの言葉が美咲を傷つけることを止めない限り、俺は黙ってはいない。」


「キモっ、またいじめてやるか」

ギャルはそう言い残して集団を連れて去っていった。


美咲が緊張の糸から解き放たれると同時に、美咲の体が力を失い、地面にへたり込んだ。冷たいアスファルトが美咲の身体を受け止め、一樹はその様子に気づいて、急いで美咲のそばに駆け寄った。周囲の通行人たちは彼らの様子を見て、興味深そうに視線を送った。


「美咲、大丈夫?」


一樹の声が美咲の耳に響き、美咲は小さな頷きで返答した。しかし、その時、美咲の肩が震え始め、我慢していた涙が溢れ出してきた。一樹は、美咲の様子に驚きと同時に、美咲の心に何かがあることを感じ取った。


「一回立てる?ここは迷惑になるよ」


「わかった」

美咲は下を俯ていた、何を考えているかはさっぱりと分からなかった。そして美咲は独りでに( 'ω')?語り出す。


「ごめんなさい、私は一樹くんに昔やった事を思い出して・・・ごめんなさい、私・・・」


「泣いていいんだよ。全部吐き出して。」


一樹はそっと美咲の体を抱きしめ、美咲の頭を自分の胸に寄せた。美咲の泣き声が街の喧騒に混じり、彼らの周りは静寂に包まれた。美咲の背中からは悲しみと不安が滲み出し、美咲の心の傷が一層深く浮かび上がった。


美咲は一樹の胸に頭を埋め、思いを抑えきれない涙を流した。美咲の心の中で、過去の傷が再び痛み出し、その痛みが美咲を苦しめた。しかし、一樹の温かい抱擁が美咲の心を包み込み、少しずつ美咲の心を和らげていった。


♢♢♢


それから一年が経ち高三になる。

一樹は美咲が虐められる事を気にかけるが、美咲は「大丈夫」と笑った。


「本当?」


「うん、昔よりは酷くないし、私が一樹君にしたことに比べれば全然耐えられるよ」


未だに虐められているが、ギャルたちは前よりも私に興味がなくなったのか、ほんの1ヶ月あるかないかぐらいらしい。それでも、過去の戒めとして、美咲は教育委員会には報告しなかった。



「そっか無理はしないでね」


「無理はするよ、私は高校卒業して美容大学に行くの」


美咲は幼い頃からの夢を追いかけることを決意した。デート中も、私服は一際目立つほどオシャレだ。

美咲は小悪魔系の美少女の顔立ちをしている。モデルオファーも何度もされたと言われてるぐらいだった。


♢♢♢


僕たちは夕暮れ時の街を歩いていた。街灯が点き始め、柔らかな光が歩道を照らしていた。そんな時、目の前から清潔感漂うイケメン男性が現れた。彼の姿は目を引くほどで、整った顔立ちとスタイリッシュな服装が一目で分かる洗練された雰囲気を纏っていた。


「あれ、高槻?」

美咲の目の前に現れた男性に一樹が声をかける。

男性はイケメンで高身長、スラッとした体型をしていた。


「偶然ですね、神崎さん」

と男性は微笑みながら答えた。神崎と呼ばれた男性はどうやら美

咲と同じ高校の生徒だった。


「そちらの方は彼氏ですか?」

神崎は微笑みながら美咲に尋ねた。その質問に、美咲は少し考え込んでから答えた。


「・・・いえ、違います」

その発言を聞いて何故か分からないけど僕はその発言を聞くと胸が締め付けられたような感覚になった。

それでも気付かないふりをして僕は美咲とイケメン男子の会話の続きを聞くことにした。


「そうですか、こんにちは。僕は神崎と言います」

男性は自己紹介する。


「山本です」

僕も自己紹介を返した。



「それで、神崎君はなんでこちらに?」

美咲の問いに、神崎は答える。


「偶然、高槻さんを見つけてね。ちょうどこれを返したかったんだ」

そう言って神崎はポケットからハート型のハンカチを出した。可愛らしいデザインでハートの形が印象的だった。


「驚いたよ、ハートのハンカチなんて」

神崎が驚きを隠せず言った。僕も同じ気持ちだった。ハートは愛を意味する。好きでもない男にそんなものを送れば勘違いさせる可能性だってあるのに、脈アリサイン…。そう考えると僕は胸が痛くなる。神崎の言葉を聞いた瞬間、僕の心の中に不安と嫉妬が入り混じった感情が広がった。


「そうかな?普通だよ」

美咲は微笑んで答えた。彼女の笑顔はいつも通りだが、僕にはその裏に隠された意図が読めなかった。彼女の無邪気な返答に対して、僕の心はますます混乱した。


「普通?好きでもない奴にハートなんて渡さないだろ?別にいいんだぜ、隠さなくて」

神崎は自信満々に言った。どうやら美咲が自分に惚れていると思っているようで、その顔には自慢が宿っていた。神崎が美咲に触れようとしたが、美咲はその手を振りほどいた。彼の自信に満ちた態度に、僕は内心で苛立ちを感じた。


「私があなたのこと?」

美咲は冷静に問い返した。その言葉に神崎は少し驚いた様子で問い返した。美咲の冷静な態度に、僕は少し安心しながらも、次の展開に緊張した。


「う、うん、ど、どうかな、これから遊びに行くか?」

神崎は思っていた反応と違ったのか、驚きと焦りが見えた。その様子を見て美咲は笑った。美咲の微笑みが、神崎の自信を揺るがすようで、僕はその光景にほっとした。


「嫌だ」

と即座に断る美咲。次の瞬間、美咲の胸が僕の腕に直接当たった。香水のいい匂いが僕の鼻腔をくすぐった。僕は突然の接触に心臓が跳ね上がり、顔が熱くなるのを感じた。


「え?」

神崎が驚きの表情を見せる。彼の驚いた顔を見て、僕は内心で少しだけ勝ったような気分になった。


「私は一樹君と遊ぶの。それに、あなた、彼女いたでしょ?」

美咲が冷静に言った。その言葉を聞いた瞬間、僕は彼女の決意に驚きと感謝を感じた。美咲がはっきりと僕を選んでくれたことが、心の中で響いた。


神崎は何か言いかけたが急ぎばやしで去っていった。


あ、なんでハートのハンカチなんて渡したの?」と僕は少し戸惑いながら尋ねた。胸の奥には疑問と不安が混じり合っていた。


「ん?あれ私のじゃないよ。私のことをいじめてきた人たちのハンカチをぱくったの。私なりの反撃かな?嫌だった?」

美咲は頬を掻きながら発言した。その表情には少しばかり罪悪感が見え隠れしていた。彼女の言葉を聞いて、僕の胸の内にあった重たいものが少し軽くなった。


「べ、別にそんなことないよ、あ、あと当たってるよ」

美咲はわざとらしく首をかしげてこちらを覗き込んできた。


「ん?何が?」


彼女の顔が近づいてくると、心臓の鼓動が急に速くなった。美咲の無邪気な表情が一層僕を緊張させ、恥ずかしさのあまり視線を逸らさずにはいられなかった。


「いや、む、胸…」


その言葉を口にした瞬間、僕は自分がどれほど赤くなっているかを感じた。美咲はその発言を聞いてさらに悪戯っぽい笑みを浮かべ、僕の腕に胸を押し付けてきた。柔らかな感触が伝わってきて、さらに僕を困惑させた。


「聞こえない〜大きな声で言ってよ〜」

美咲はからかうように、まるで僕を試すかのように言った。彼女の小悪魔的な一面に僕は戸惑いながらも、その無邪気さに救われている自分がいた。


彼女の近さと無邪気な挑発に、僕はどう対処していいのか分からず、ただ立ち尽くすしかなかった。


美咲の笑い声が耳に響き、僕たちは自然と笑い始めた。彼女の笑顔はいつもと変わらず、僕にとって何よりも大切なものだった。その日、僕たちは夕暮れの街を笑いながら一緒に帰った。


美咲は変わらず“小悪魔“だった──。


♢♢♢




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