十七 共同戦線

 グリーゼ歴、二八一五年、十一月五日。

 オリオン渦状腕深淵部、リブライト星系、散開惑星リブラン。

 惑星ラグランジュポイント、戦艦〈オミネント〉



〈オミネント〉のブリッジで、ディアナの報告を聞き、プロミナスが決断した。

「ヒューマの管理者と共同戦線を張る」

「どんなヒューマが戦線を計画してるんだ?」とカムトン。

 マスタープロミドンの人格は、ディアナの記憶にある映像から想像できる。だが、マスタープロミドンが説明する管理者はディアナの記憶に存在しない。

 管理者がグリーゼ国家連邦共和国政府やグリーゼ国家連邦共和国防衛軍関係者なら、デロス帝国に存在を隠す必要はないはずだ・・・。


「今、必要なのは我々の考えだ。管理者はいずれ判明する」

 プロミナスは説明する。

 カムトンが散開惑星リブランに赴任して二日。皇帝ホイヘウスはロドニュウム鉱石の増産を指示したが、惑星ダイナスへの輸送は指示していない。デロス帝国のロドニュウム鉱石は不足している。いずれ皇帝はロドニュウム鉱石をメテオライト攻撃に使えなくなる。

 皇帝は散開惑星リブランの奇襲に失敗し、リブライト星系のリブラン王国宙域の臨戦態勢を知った。皇帝が攻撃を続けるとは思えない。おそらく皇帝はホイヘンス艦隊をモンターナ星系グリーゼ13へスキップさせるだろう。


「プロミナスの考えるとおりだ」とカムトン。

「ディアナ!〈ホイヘンス〉の位置を確認できるか?」とプロミナス。

「ユピテルの記憶から可能です」

「表示してくれ!」

「了解しました」


 ブリッジの空間に、時空間転移伝播探査による5D座標と、デロス星系惑星ダイナスの4D映像が現れた。

「マスタープロミドンに、

『ホイヘンス艦隊と惑星ダイナスのすべての亜空間転移ターミナルに、電磁パルス魚雷と多弾頭多方向ミサイル・ヘッジホッグを時空間スキップして攻撃する。

 ただし、ホイヘンス艦隊のスキップドライブ(亜空間転移推進装置)と、ダイナスの亜空間転移ターミナルを潰滅できるとは限らない。

 ホイヘンス艦隊が、グリーズ星系主惑星グリーゼか、モンターナ星惑星グリーゼ13へ逃げる可能性がある。臨戦態勢をとってくれ』

 と伝えてくれ!」


「了解しました。みんな!ただちに攻撃だよ!」

 一瞬、ディアナがユピテルのアバターに変って親指を立てた。

「好戦的だな。ディノスの影響か」とプロミナス。

「関係ないね!ホイヘンスとユリアを許せないんだ!」

 やはりユピテルは好戦的だ。


 ユピテルがティアナに変った。

「ディアナ。魚雷とヘッジホッグを配備して、マスタープロミドンが了承したら、ただちに攻撃だ」とカムトン。

「了解。ただいま、マスタープロミドンへ連絡中です・・・。

 マスタープロミドンが現れます・・・」とディアナのアバター。


「共同戦線の同意に感謝します」

 ブリッジに、執事の服装のPD・マスタープロミドンのアバターが現れた。プロミナスとカムトンとアバターのディアナと握手している。

 共同戦線は、リブラン王国とグリーゼ国家連邦共和国の共同戦線ではない。

 PD・マスタープロミドンが『管理者』と呼ぶ、グリーゼ国家連邦共和国主惑星グリーゼのアクチノン艦隊指揮官が、デロス帝国のプロミナス護民官やカムトン行政官と交す共同戦線である。


「新たな情報です。皇帝は、ホイヘンス艦隊の他に、〈オータホル〉を旗艦とするオータホル艦隊を整えています。ロドニュウム鉱石を必要としたのは、メテオライト攻撃に加えて艦艇建造のためです」とPD。

「艦隊が二つか?二つの惑星を同時に攻撃されたら、対応が難しい・・・」とカムトン。


 PDは説明する。

「皇帝の艦隊は時空間スキップできません。ラグランジュポイントへ亜空間スキップするだけです。現在の防衛態勢を維持すれば、問題ありません。

 ディアナは、モーザが現れたらモーザにロドニュウム鉱石を時空間スキップして破壊してください。モーザは時空間スキップして、どこでも出現します。

 プロミナス護民官とカムトン行政官は、リブラン王国の宙域防衛態勢を維持し、皇帝の艦隊と亜空間転移ターミナルを攻撃してください・・・。

 私が『管理者』と呼ぶアクチノン艦隊『指揮官J』は、モーザに擬態したスキップドローンPePeを〈ホイヘンス〉に潜入させ、皇帝を捕獲消滅させる作戦を実行します。

 すでに、グリーズ星系とモンターナ星系の防衛態勢は整えてあります」


 リブラン王国の宙域は、デロス星系から数光年離れたリブライト星系だ。ここには、恒星リブライトの同一公転軌道上に存在する三個の散開惑星、リブラン、リブラン2、リブラン3、そして外惑星の、リブラン小惑星帯とテラフォームを計画中のエザイン1とエザイン2がある。これら、リブラン王国のラプト全てが、プロミナスとカムトンに協力しているとは限らない。

 ホイヘンス艦隊がリブラン小惑星帯の小天体を攻撃に使う可能性もある。ホイヘンス艦隊と惑星ダイナスの亜空間転移ターミナルを攻撃すると同時に、散開惑星全宙域の防衛態勢を維持しなければならない。



「皇帝の艦隊と亜空間転移ターミナルを破壊しても、モーザは時空間スキップする。モーザの動きをどうやって知る?」とプロミナス。

「物体が時空間スキップする時、チェレンコフ光(亜空間スキップ光)と同様に、スキップ光(時空間スキップ光)が現れます。

 今、PePeの識別情報をディアナへ送りました。

 PePeは、すべての映像と座標でグリーンに蛍光します。PePeがリブラン宙域に出現しても、モーザではないと識別できます。ディアナがPePeを攻撃することはありません。

 モーザのスキップ光と波動残渣を4D映像に捕捉して5D座標追跡し、リブラン宙域の4D映像に現れるスキップ光を、メテオライト攻撃してください。

 それで出現したモーザは、ボンッ!」

 PDは目の前で両手を一つに握り、一瞬に開いた。そして、つけ加えた。

「これは、時空間スキップに限らず、亜空間スキップする物体にも可能です。

 ディアナ。ダイナスを時空間転移伝播探査して4D映像と5D座標を表示してください」


「すでに、探査しています」とディアナ。

「今から攻撃していいのか?」とプロミナス。

「攻撃してください。

 常に、皇帝が亜空間転移伝播探査しています。リブライト星系の全亜空間転移ターミナルを、絶対に開かないでください」

「了解した。

 ディアナ。攻撃だ。

 皇帝のホイヘンス艦隊とオータホル艦隊と、デロス星系の全亜空間転移ターミナルへ、魚雷とヘッジホッグをスキップして破壊してくれ」

 プロミナスはおちついて指示した。


「プロミナス様。〈オータホル〉のユピテルのオリジナルは破壊できません。シンクロしている私が消滅します」とディアナ。

「わかった。ユピテルのオリジナルを除き、全て破壊してくれ」とプロミナス。

「了解しました」とディアナ。

 ブリッジの空間に現れている5D座標の原点に青白いスキップ光が現れて、同時に、惑星ダイナスにスキップ光と破壊を示す赤い蛍光が明滅した。

「攻撃、完了。

 即時反撃、無し。

 こちらの攻撃を予想していなかったようです。

 散開惑星リブランとリブライト星系の全宙域に、モーザは出現していません。

 宙域の情報収集衛星防衛システム、正常に稼動。

 攻撃と警戒態勢を続行します」

「ありがとう。ディアナ」とプロミナス。



「アクチノン艦隊の『指揮官J』はどんなヒューマだ?」

 カムトンはPDを見ている。

「ニオブのニューロイドです。見た目は子どもです」

 PDは説明を続ける。

 渦巻銀河メシウスのアマラス星系惑星ロシモントから、ここ渦巻銀河ガリアナに、ニオブの五艦隊が飛来した。

 ヘリオス星系惑星ガイアに飛来したヘリオス艦隊の、司令官にして大司令戦艦〈ガヴィオン〉艦長ヨーナ(アーマー階級のジェネラル位、ヘクトスター系列の精神エネルギーマス総帥)の直系ニューロイドが、アクチノン艦隊の『指揮官J』だ。


「へリオス艦隊司令官のニューロイドが、なぜ、グリーズ星系のアクチノン艦隊の指揮官なんだ?」とカムトン。

 ここ散開惑星リブランは、渦巻銀河ガリアナのオリオン渦状腕のリブライト星系に属している。同じオリオン渦状腕にあるヘリオス星系の惑星ガイアは六百光年の彼方だ。

 へリオス艦隊司令官がアクチノン艦隊の指揮官なのなぜだ?

 もしかして、指揮官はへリオス艦隊司令官のニューロイドであり、アクチノン艦隊司令官の精神と意識が精神共棲したニューロイドでもあるのか?


「カムトン行政官の考えるとおりです。

 共同戦線の全戦略は、『指揮官J』通称『J』の考えです」

 そう説明するPDのアバターの隣りに、大きな目をした薄茶の巻き毛のかわいいヒューマの女の子が現れた。プロミナスとカムトンとディアナに挨拶し、

「ここでの交渉は、あなたたちとあたしとの機密事項だよ。

 デロス帝国はもちろん、グリーゼ国家連邦共和国政府もグリーゼ国家連邦共和国防衛軍も信頼できないよ。だから、みんなに伝えたらいけないよ。

 そしたら、行動開始だよ~」

 と伝え、PDのアバターとともに消えた。


「あの方が『指揮官J』です」

 ディアナは微笑んでいる。

「・・・」

 Jの姿に、プロミナスとカムトンは言葉を無くした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る