十五 開戦

 グリーゼ歴、二八一五年、十一月四日。

 オリオン渦状腕深淵部、リブライト星系、散開惑星リブラン。

 惑星ラグランジュポイント、戦艦〈オミネント〉。



 散開惑星リブランの公転宙域の惑星ラグランジュポイントに、茫漠とした漆黒の平面空間が現れた。その中央が波打ち、波紋とともに岩石群が現れた。それらはただちに宙域機雷に触れて粉々に砕け散った。残骸は、爆発しなかった宙域機雷のシールドと牽引ビームに捕捉されて拡散せずにその場に留まった。

 これで、戦闘機や戦艦が出現すれば、破壊された岩石の破片は宙域機雷へ飛散し、外縁の宙域機雷を誘爆する。そしてさらに茫漠とした漆黒の平面空間の外側には、戦闘機と戦艦に反応する、巡航ミサイル・スティングが待ち構えている。


 茫漠とした漆黒の平面空間に、百機に及ぶ、デロス帝国(惑星ダイナス)の立体アステロイド型戦闘機〈ダイナス・アスロン〉のアスロン編隊が現れた。全機がメテオライトの破片と宙域機雷のトラップにかかり、一瞬にして潰滅した。

 編隊後方から、スペースデブリと化したアスロン編隊を蹴散らして、ホイヘンス艦隊の旗艦、巨大な立体アステロイド型の〈ホイヘンス〉(二キロレルグほど)が現れた。

〈ホイヘンス〉の出現と同時に、巡航ミサイル・スティングがいっせいに〈ホイヘンス〉へ飛翔した。まさにその時、〈ホイヘンス〉の背後から、〈ホイヘンス〉の前面に五隻の副艦が出現して、飛翔したミサイルが炸裂した。〈ホイヘンス〉は破壊された副艦がじゃまで反撃できない。


 ユピテルとディアナが一体となった、ラプトの中性的なヒューマのアバターが、ブリッジの空間に現れた4D映像を説明する。

「〈オミネント〉がビームネットを張って、電磁パルス魚雷を放ちました。私たちのガジェット編隊は後退しています。危険はありません」

薄形立体カージオイド型戦闘機の〈リブラン・ガジェッド〉の編隊は〈オミネント〉の背後に後退している。

〈オミネント〉が、破壊した副艦と〈ホイヘンス〉に、広角で多数のビームネットを張っている。その間隙を縫って、〈オミネント〉からホイヘンス艦隊に放たれた多数の電磁パルス魚雷が炸裂している。


「五隻は副艦です。

〈ニフト〉級攻撃艦一隻(全長二百五十レルグ程)。

〈フォークナ〉級突撃攻撃艦四隻(百五十レルグ程)です。

 副艦五隻は巡航ミサイル・スティングで破壊し航行不能。

〈ホイヘンス〉は電磁パルス魚雷で航行不能です」


〈オミネント〉のビームネットが解除された。熊に群がるミツバチの群のように、ガジェッド編隊が、〈ホイヘンス〉へ大量の巡航ミサイル・スティングを放った。


〈ホイヘンス〉が、巡航ミサイル・スティングを被弾しながら後退した。

 その背後から、回収艦(全長一キロレルグ)が、〈ホイヘンス〉と破壊した副艦とアスロン編隊を牽引ビームで捕捉して、惑星ラグランジュポイントの茫漠とした漆黒の平面空間へ後退した。


「回収艦は〈スゥープナ〉級回収攻撃艦です。

 本艦からスティングを放ちました。艦隊とともに亜空間スキップして、オータホル城の亜空間転移ターミナルを破壊するでしょう」

 ディアナが説明すると同時に、旗艦〈ホイヘンス〉から幾つもの球体を発射して、巡航ミサイル・スティングにレーザーパルスを放った。巡航ミサイル・スティングはレーザーパルスを被弾して炸裂している。

〈オミネント〉とガジェッド編隊は、球体と〈ホイヘンス〉に大量のレーザーパルスと大量の巡航ミサイル・スティングを放った。


「あの球体はモーザです。〈ホイヘンス〉のAIユリアのサブユニットです。

 発射された全てのモーザを破壊しました。

 今後、モーザが現れ次第、破壊します。

 モーザは時空間スキップ可能です。要注意です。

 全てのスティングが炸裂したのはありません。数発が〈ホイヘンス〉とともにスキップしました。オータホル城の亜空間転移ターミナルを完全に破壊します。

 今後、皇帝ホイヘウスは、プロミナス城かオミネント城の亜空間転移ターミナルを使うでしょう」



 あまりに呆気ない結末だ。皇帝ホイヘウスを支配しているオイラー・ホイヘンスとアーク・ルキエフが、この程度のはずがない・・・。

「ディアナ。ユピテル。アーク・ルキエフが精神共棲したオイラー・ホイヘンスは、どこで何をして、いつこの星系に現れた?」とプロミナス。


「説明しましょう」

 ディアナとユピテルのアバターは説明した。


 太古の昔、渦巻銀河メシウスのアマラス星系惑星ロシモントから、精神生命体ニオブの五艦隊が渦巻銀河ガリアナに飛来し、ヘリオス艦隊とアクチノン艦隊がオリオン渦状腕に飛来した。

 グリーズ星系に飛来したアクチノン艦隊の精神生命体ニオブは主惑星グリーゼのヒューマに精神共棲してニューロイドを育成した。

 その後、主惑星グリーゼのニューロイドのヒューマは、アクチノン艦隊の副艦のレプリカ一隻を〈プロミナス〉として、デロス星系惑星ダイナスに居城していたリブラン王国のダイナス一世に与えた。

 ダイナス一世は博学で〈プロミナス〉を基本に、攻撃用球体型宇宙戦艦の〈オミネント〉、〈ディラック〉、〈リブロット〉、〈オータホル〉を建造し、〈プロミナス〉を旗艦とする艦隊を造った。

 しかし、時代の変遷とともに、好戦的なディノスが隆盛し、覇権と〈プロミナス〉はディノスに奪われた。

 現在から三十年ほど前。皇帝ダリウス十三世に代って皇帝ホイヘウスが即位した。

 その後、ヘリオス星系からホイヘンス艦隊が惑星ダイナスに亜空間スキップして、ニオブのクラリックのアーク・ルキエフのネオロイドのオイラー・ホイヘンスが、皇帝ホイヘウスに半意識内進入と半精神共棲した。

 その結家、本来の皇帝ホイヘウスの精神と意識に、アーク・ルキエフとホイヘンスの精神と意識が混在したが、皇帝ホイヘウスはそのことに気づいていない。変化した自分をそのまま受け入れて、軍事計画の一環として、二十年近く、グリーズ星系とモンターナ星系に、メテオライトを投入してる。



「皇帝ホイヘウスがホイヘンスか?〈オータホル〉が旗艦じゃないのか?」とカムトン。

「旗艦は〈プロミナス〉。〈オータホル〉は、ディノスを騙すダミーだったの。

 さて、次の攻撃に備えましょう。モーザを警戒してね」

 ユピテルとディアナのアバターの説明に、プロミナスは驚きを隠せなかった。

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