第23話 闇の力

「オンジンさん!」

「アオイさん、ヒスイさん。無事でしたか!」


 オンジン達の商隊の面々とは宿に向かう途中で行き合った。


「ガムがこちらに向かってくる兵士達を察知してくれまして、逃げ出したところです。ただ、追われてます。」

「ガム、良くやった!」


 アオイは嬉しそうにガムへ声をかけた。


「いえ、アオイさんに魔素のコントロールを教えてもらってなかったら危なかったです。」

「あとは任せて。」

「アオイ、10人くらいです。1人魔剣持ちがいる!」

「魔素を抑えている。あいつは強いよ。」

「アオイ、気をつけてくださいね。」


(オンジンさん達は泳がされたのかな。オンジンさん達を庇いながらの戦闘はこちらに部が悪いと思ったのでしょうけど!)


 ヒスイは矢切を抜くと鉄を纏わせ、鞭のように振るった。次々と兵士達が倒れていき、程なく兵士は皆、その場に蹲っていた。


(よし!あと1人。)


 アオイは残りの1人である黒い鎧を身につけ、魔剣を持った剣士と対峙していた。


「邪悪な魔素をまとっているね。あんた、何物なの?」

「おまえがアオイか?」

「へえ、私を知ってるんだ。」

「闇の子よ。貴様は邪魔なのだ。」


 その剣士の魔剣から放たれた一撃は鋭かった。剣撃から放たれた闇の魔素はアオイのレジストに弾かれたが、後ろの壁を脆く砕いていた。


「私が知る限り、闇の魔剣は3本ある。魔素喰、腐敗毒、闇切だ。おまえの剣は腐敗毒だな?オリジナルだ。」

「そうだ。おまえのその闇の魔剣は宝の持ち腐れであろう。私がもらい受けよう。」


 剣士は上段からアオイへ切り掛かった。アオイは虹丸を抜き、剣士の剣を受けるがその一撃は重たかった。アオイは虹丸で重たい斬撃を受け流しながら右手に魔素を集めて光の玉とし、剣士の乱打を潜り抜けて、その腹に叩きこんだ。

 だが、


「良い鎧を着ているね。でも反吐が出る…。邪悪な気だ。」


 アオイが叩き込んだ魔素は剣士にダメージを与えてはいたが、鎧に多くを掻き消されていた。


「さすがに魔素をよく使いこなす。」


 打撃によって片膝をついた剣士は、よろめきながら立ち上がると魔剣に魔素を込めはじめた。


「ヒスイ、あれはやばい。皆んなを遠くへ!」

「アオイ!」

「早く。」


 アオイは虹丸を鞘に戻すと居合の形を取り、魔素を込めた。


「皆さん、早く。ここから離れてください!」


 ヒスイが叫び、皆を誘導するとオンジン達が慌てて駆け出した。

 剣士は魔剣に充分な魔素が溜まると一気に振り抜いた。オドロオドロしい気配が魔剣から発せられ、闇の妖気がアオイを襲う。


「でやー!」


 アオイも気合いを込めて虹丸を鞘から振り抜く。光の濁流が幾重もの刃となって剣士の放った闇の妖気と衝突した。魔素のぶつかり合いは周囲に散り、建物を砕いていった。


「アオイ!」


 ヒスイは魔素を練り、砕け飛ぶ建物の破片に練り込むとゴーレムを作り出し、剣士を襲わせた。だが、ゴーレムの一撃は剣士に届くことなく、妖気を浴びて砕け散った。


「!!」


 アオイはそこに剣士の隙を見出した。魔素をもう一本の刀に込めると鞘から抜き、魔素の刃を叩きつけた。それは光の濁流に比べるととても弱い力だったが剣士の身体に届き、その手首に傷を与えていた。


「これほどとは!ここまでか!私はベガス!アオイ、次はお前の命をもらい受ける!」


 剣士は身をひるがえすと夜の町へ消えていった。


「今のアオイの攻撃は闇の力…。」


 ヒスイはアオイが放った斬撃を見てつぶやいていた。 

  

                 

 ◇

 

                   「オンジンさん達、大丈夫?」

「アオイさんもヒスイさんも強いんですね。いや、強いとは思っていたけど、これほどとは。」


 それからオンジンはこそっとアオイに耳うちした。


「アオイさん、D級って嘘ですよね。」


 アオイは曖昧な笑顔を見せ、オンジンの側を離れるとヒスイの隣に座った。


「それ、闇の魔剣だったんですね。」

「うん。」

「3年前にスガル平地で呪いを打ち消した戦士はアオイですね?」

「うん。」

「そうですか…。」

「ヒスイ、私の事を恨んでいるよね?」

「恨む?」

「理由はわからないがスガル平地で闇の魔素をヒスイに譲渡したのは私だ。ヒスイに魔大陸の解放を宿命付けたのも私だ。ヒスイには平穏に生きていく選択肢があったはずなのにそれを私は奪った。恨まないはずがないじゃないか!」

「アオイ、2度とそういうことを言わないでください。」


 ヒスイの目からは涙が溢れていた。


「スガル平地で見た光景は美しかった。粒子が乱舞する度に呪いが掻き消えていく。あの戦士は私の憧れだったんです。あの時から私は強くなりたいと思うようになったんです。ただの小娘として生きていく人生をアオイは変えてくれたんだ!!」


 ヒスイは叫ぶように言うと抱えていた膝に頭を埋めた。


「アオイにはたくさんのものを貰ったんです。感謝してます。」


 アオイはヒスイの頭に手を置くと、


「ありがとう、ヒスイ。」


 呟くように言った。


「ぴー。」


 頭上から鳴き声が聞こえ、1匹の電信鳩が舞い降りてきた。

 アオイはその首元に結ばれていた手紙を外して中を開いた。


「王都での襲撃はバールミン領の騎士。魔団の影あり。注意せよ。領都にて情報部に接触のこと。」


 アオイは空を見上げた。


「アマノさん、ちょっと遅いよ!」


▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️


お読みいただきありがとうございます!アオイとヒスイをこれからもよろしくお願いします。

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