二 回収

 グリーゼ歴、二八一五年十一月十日。

 オリオン渦状腕深淵部、アッシル星系、惑星ナブール、ナブル砂漠、オアシスミルガ、モスク。



 渦巻銀河ガリアナには多くの星系がある。支配している生命体がヒューマノイドとしても哺乳類とは限らない。

 オリオン渦状腕ヘリオス星系は小惑星の飛来によって哺乳類が進化したが、獣脚類がヒューマノイドに収斂進化した場合もある。


「伯母さん・・・」

 シールド内のカムトの固化が解けた。

「伯母さんはよして!」

「じゃあ、Jと呼ぶ」

「いいよ」

「PDガヴィオンから連絡だ」

「何?」

「国民戦線を支援するベスチ星系の惑星コビアンの指導者が代った。

 国民戦線への支援を縮小する方針を述べてる。

 これで国民戦線は縮小するだろう」

 ナブールの国民戦線を支援するベスチ星系の惑星コビアンとオセアン、エウロネ。それら駐留軍がナブールから撤退する可能性がある。役立たずの国民軍はどうする。Jはチョ・マンヌを見た。

「おまけに、政府軍はあのざまだ・・・」

 カムトが政府軍の攻撃ヘリを示した。砂漠に墜落して燃えている。


『いったん、ここから退却する!』

 カムトの精神波が伝わると同時に、空中に、水空両用の円盤型特殊ステルス戦闘爆撃ヴィークル〈V2〉が多重位相反転シールドに包まれて現れ、モスクの前に着陸した。

「乗れ。DとKを回収する。ラプトも乗れ。親父に会わせる。

 そんな妙な顔をするな。

 ジイさん、バアさん、と呼んだら、二人ともJと同じ反応をするだろう」

 最初から悪い印象を与えたくないんだ、とカムトの感情がJに流れこんだ。

「良いも悪いもない、精神波で考えは筒抜けだよ。

 だけど、固化で精神思考を遮断するのは、いただけないよ」とJ。

 Jに同意して、PePeがJの左肩に乗った。


『クリプトビオシスが良くない印象を与えてるのはわかってる。

 だけど、遮断しないと、外乱がうるさい』

 カムトが、好奇心のかたまりのようなチョ・マンヌを精神波で示した。Jもラプトの奇妙な習性を認めてる。彼らは様々なことに興味を示して、それなりに理解するが、ヒューマの思考と記憶が二次元的あるいは三次元的と表現するなら、この惑星のラプトの思考は一次元の直線的で単純明瞭なため、好奇心の度合いはヒューマ以上に強く、精神思考の妨げになる。


〈V2〉が牽引ビームで、人型搭乗可動式採掘装備が入った金属球体ポッドと、武器の転送カプセルを機内に搭載した。トムソたちとJたちが搭乗すると、シートに座るまもなく〈V2〉が離陸した。

「このアッシル星系では、Jが指揮してくれ」


 カムトが伝えている間に〈V2〉が着陸し、隔壁が開いて斜路が下りた。

 すぐざまDとKが斜路を駆け登ってきた。チョ・トバイ・デ・ラプトスもいる。

 斜路が上がり、隔壁が閉じた。トバイとマンヌが抱きあって、互いの無事を喜んでいる。

 DとKは、カムトとガルとレグたちトムソを抱きしめている。二人ともPePeから、PDアクチノンがニオブのトムソ特殊部隊の出動を要請した事と、カムトたちの生い立ちを聞いている。

 Jの意識(耀子)はカムトとガルとレグの伯母だ。

 Jの両親Dの意識(省吾)とKの意識(理恵)は、彼らの祖父母だ。

 バレルは、Jの弟の宏治の育ての親、大隅悟郎教授の息子だ。

 大隅はDの意識の、省吾の友人だ。

 そして、大隅の友人アレクセイ・ラビシャン教授の子どもたちがアリーとミラとジョリーだ。このような年齢のずれは、クラリックのアーク・ルキエフからの攻撃を逃れるため、PDガヴィオンによって耀子と父省吾、母理恵の意識がヘリオス星系からグリーズ星系へ時空間スキップして、さらにアッシル星系惑星ナブールに時空間スキップした結果だ。



『静止衛星軌道上へ退却する。

 ルペソ将軍はどうやってスキップした?』

 カムトが精神波で訊いた。DとKも精神波を理解できる。

「PePe、説明してね」とJ。

「モーザが手助けしたよ~。モーザは時空間スキップできるんだ。

 将軍はニオブにもどって、モーザに精神共棲してスキップしたんだよ。

 今の意識はホイヘンスだよ。PDアクチノンからの情報だよ」とPePe。

「アーク・ルキエフじゃないのか」

 とカムトが言葉で訊いた。

「ホイヘンスの時期が印象深かったんだよ」とPePe。

「現在の姿は?」

「ラプトだ。ディノスの皇帝だったイメージはないよ。

 見た目は他のラプトと区別がつかない」とJ。


「離陸してくれ」とカムト。

「了解!」

〈V2〉の指揮官はミラ。パイロットはガルだ。

「また、このまま飛行する気?カムトたちはスキップしてモスクに現れたのに、なぜ、この艦はスキップしないの?スキップドライブがあるだろうに?」とJ。

「スキップ光を感づかれないためだ。

 我々トムソや転送カプセルやLが送った転送ポッドのスキップ光は微少で確認しにくい。それだけさ」とカムト。

「飛行しても、ルペソ将軍に見つかるだろう・・・」とD。

「心配ない。多重位相反転シールドを張ってる。ステルスだ」

〈V2〉は多重位相反転シールドに包まれて、オアシスミルガから静止衛星軌道上へ急速上昇した。

「そうなのか・・・とD。」

『知らないことだらけだ。PePe。情報はもっと早く教えてね・・・』

 JはバトルアーマーとバトルスーツのPDを介さずに精神波でPePeに伝えた。

『了解です、J』とPePe。

 バトルアーマーとバトルスーツのPDによって、このJとPePeの連絡もトムソたちに伝わってる。アーマーとスーツが無くても、トムソたちは精神波で連絡できるのだろう・・・。

『そうだ・・・』

 カムトがDとKと話しながら、精神波で伝えてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る