第35話 後始末と、あらたな問題のはじまり。

デルモント討伐を成功させ、一段落といきたいところだが

まだそうはいかない。


地面は赤く染まり、見たことの無い者たちの屍が転がっているのだ。


「おい、これどうするんだよ・・・」


山田の言葉に、ラプロスが答える。


「どうにかと言われても・・・

 この世界だと、確か、生ごみで出せばよいのだろ」


「こんなもの生ごみで出せるか!」


思わず突っ込む山田に対して、思案するラプロス。


そこに、息子と再会した後の落合が合流した。


したのだが・・・


「これは・・・」


あまりの惨状に言葉を失っていると

そこにピオーネが、歩み寄る。


「あんたが一番偉い人だったわね」


「ん、ああそうだが」


「それなら、これ、なんとかできるわよね」


ピオーネが指を差した先にあるのは、魔族の屍。


一体、二体程度なら、密かに葬ることは出来る。


だが、目の前にあるのは、手に余るほどの死体。


今は、厳戒態勢を敷いており、誰も近づくことは出来ないが

いつまでも、立ち入り禁止にしておくことは出来ない。


一刻も早く、この状況を改善しなくてはならないのだ。


「本当にどうすんだよこれ・・・」


そう呟きながら、勇者の塊を回収するグリッチ。


三者三様の動きを見せながら、思案していたところに

溜息をつきながら、ラプロスが口を開く。


「やはり、わらわが手を貸すしかないのかのぅ」


「お前、なんとか出来るのか?」


「当然じゃ、わらわに不可能などないわ・・・

 ただのぅ・・・」


「何が言いたい?」


「腹が減る」


「腹が減る?」


「うむ、魔力を使えば腹が減るのは当然じゃ。

 それで・・・」


見上げる先には、山田がいる。


「言いたいことはわかった。


 好きなものを奢ってやる。

 

 だから、頼む」


「それでこそ、山田じゃ。


 だが、この地面の汚れは、お主らで何とかするのだぞ」


「ああ、その程度なら問題ない」


山田は、ラプロスとの話を終えると

近くでピオーネと話をしていた落合の元へと向かった。


こうして、魔族の屍は、ラプロスが回収し、

赤く染まった地面は、警察、自衛隊、双方が掃除をして

痕跡を消すことに成功した。


だが、まだ終わりではない。


落合には、報告という義務が残っている。


ただ、魔族の襲来などと言っても、本来、誰も信じないだろう。


しかし、今回は、ビデオも撮っている。


だから、頭がおかしくなったとか思われることはないが

魔族のことを報告すれば、自然とラプロスたちのことも話さなければならない。


この後、警視庁に戻り、報告をしなければならない落合は、

数日、悩むことになった。


一方、抜け駆けする形で、異世界である日本へ飛んだデルモントについて

残りの三大貴族は、会議を行っていた。


「もしだ、もし、あ奴があちらの世界を手に入れていたなら

 我らの今後は、どうなるのだ?」


そう投げかけたのは、グルル辺境伯だ。


現在、人族と魔族の戦いは、休戦状態だと言っていい。


その理由は、人族側には、決め手となる勇者がいないこと。


魔族側も、戦いよりも力をつけることに全力を注いでいるからだ。


だが、その力となる異世界人の召還がうまくいっていない。


それに、輪をかけるようにデルモントの抜け駆け。


残された三人の貴族は、お互いに疑心暗鬼に陥り始めていた。


そのせいか、グルル辺境伯の問いかけに、誰も答えようとしない。


「おい、貴様らは、どう思っているのだ!?」


再度問いかけたグルル辺境伯に、ピコビッチ公爵が、口を開く。


「まぁまぁ、辺境伯殿、そう大きな声を出さなくても

 聞こえておる。


 我とて、どうしたものかと思っておるのだ。


 ただな、答えが出ぬのだ。


 なぁ、ヘンデルバーグ伯爵よ、お主は、何か意見はないのか?」



しばらくの沈黙の後、ヘンデルバーグ伯爵が、ゆっくりと口を開いた。


「ならば言おう。


 元々、我らは、魔王討伐に際して、同盟を組んだに過ぎぬ。


 魔王がいなくなった今、貴様らと手を組む必要は、もはやないに等しい。


 それに加え、デルモントの奴が、このような態度を取った以上、

 誰も信用ならん。


 今後は、自身の考えに従い、動くことにする」


それだけ述べると、ヘンデルバーグは、席を立った。


デルモントに続き、ヘンデルバーグが離脱し、

もう同盟と言えるものはなくなり、

残された二人は、お互いの顔を見合わせるしかなかった。


その後、屋敷に戻ったヘンデルバーグは、執事である【コーラス】を呼びつける。


「旦那様、お呼びでしょうか?」


「ああ、デルモントも奴が、向こうの世界に行ったというのは間違いなさそうだ」


「それでは・・・」


「うむ、我らも向かうとしよう。


 だが、当初の予定通り、目立つことは控えよ。


 あと、例のものは、完成しているか?」


「はい、ご要望通り、希望者全員の腕輪は、揃ってございます」


「ならば、すぐに支度をせよ!

 我らも異世界に参るぞ」



七日後、ヘンデルバーグ伯爵の領内から

全ての魔族が消えた。





 

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