第20話魔王様登場

「おい、山田。


 貴様は、わらわがインスタントの食事が嫌で

 貴様の手助けをしたと思っておったのか!?」


突然現れた少女に、上村は、目を丸くしている。


「おい、山田、この子は知り合いか?」


「え・・・と・・・

 先ほど話した知人です」


「お前、まさかっ!」


あらぬ疑いをかけられた山田は、必死に手を横に振った。


「ち、違います。

 上村さんが思っているような関係ではありませんっ!」


「そ、そうか、なら一体・・・」


「先ほども、申しましたが、この少女が、例の半グレの・・・」


そこまで言ったところで、ラプロスが口をはさんだ。


「おい、わらわを無視するな!」


「わかったから、ここに座れ、好きなものを頼んでいいから

 大人しくしてくれ」


「むぅ・・・まぁよい、遠慮はせぬぞ」


「ああ、構わないから、少し黙っていてくれよ」


「わかった」


ラプロスは、メニューの写真を見ると、次々に注文してゆく。


そんな姿を横目に、山田は、話を続ける。


「紹介が遅れましたが、彼女は、異世界の魔王ラプロス様です。」


「は・・・」


口を開けたまま、動きを止める上村。


当然の反応である。


しばらくして、上村がゆっくり口を開く。


「なぁ、お前の相談とは、この事か?」


「はい、別に頭がおかしくなったわけではありません。


 嘘みたいな話ですが、これは現実であり、事実なんです」


「ならば、それを証明することは出来るというのだな」


「はい、勿論です。


 ですが今は、食事に夢中なので、その後に証明します。


「なぁ、魔王様、いいよな?」


「ラプロスでよいぞ、

 それで、ここで魔法でも使えば良いのか?」


「いや、それは困る。


 食事を終えたら、場所を移そう」


「承知した」


その言葉に、上村も頷いた。


その後、ラプロスが食事を終えると

上村は、とある場所に連絡を入れた。


「私だ。


 悪いが、地下の練習場を開けておいてくれ」


それだけ伝えて電話を切った上村は

山田に伝える。


「署に向かうぞ」


確かに、人の目に触れることなくラプロスの力の照明もできるし

死体安置所に、いまだに放置されている例の死体にも

お目にかかれる。


一石二鳥だと思い、山田は、ラプロスと共に、署へと向かった。


署に到着すると、前回と違い、表から入ることはせず、

上村の案内で、裏口から入ると

そのまま階段を使い、地下の練習所へと向かった。


中に入ると、上村の指示通り、そこには誰の姿もない。


「うむ、ここで魔法を使えば良いのか?」


「ああ、頼む。


 だが、壁は壊さないでくれよ」


「面倒くさいことを言うのだな、ならば、的になるものでも準備せよ」


「そうだな、ちょっと待ってくれ」


山田は、人型の弾力のある人形を、少し離れたところに置いた。


「本当に、壁は壊さないでくれよ」


「うるさい奴じゃ、安心するがよい。


 それでは、ゆくぞ」


ラプロスが、右手を前に差し出すと、その先から炎が表れ

人形に向かってゆく。


その光景に、言葉を失う上村。


だが次の瞬間、人形に着火した炎が、想像以上に燃えあがった。


「お、おい!」


「心配するでない」


続いて、ラプロスの手の先から、氷の塊が飛び出し、

燃え上がっていた炎を、完全に消し去ったのだ。


「おい、これでよいな?」


「ああ、問題ない」


そう答えたのは、山田ではなく、上村だった。


上村は、ラプロスの前に立った。


「自己紹介がまだだったな、

 私は、この署の署長の上村だ」


「うむ、わらわは、魔王ラプロス。


 山田が言っていた通り、異世界の魔王じゃ。


 このような姿をしておるが、貴様ら人族より、年上じゃ」


『わはは』と笑うラプロスに、何とも言えない空気が漂った。


『コホンっ』と軽く咳払いをした後、上村は、山田に問いかける。


「それで、その魔王様を、私に紹介した理由は?」


「はい、その事ですが・・・」


山田は、今回の事件が、異世界人の可能性があることを告げ、

今、霊安室にある死体を、ラプロスに見せてもらいたいとのことだった。


確かに、異世界人がこの世界にいることは証明され

今回の犯人も、異世界人だとすれば、捜査は難しい。


そう判断した上村は、死体を見せることに許可をだした。


練習場を出た三人は、さらに地下へと進み、

霊安室に向かう途中にあった、管理室の前で止まる。


「悪いが、霊安室のカギを開けてくれ」


「あっ、はい」


突然の署長の登場に、管理室の職員は、慌てて霊安室に向かい

鍵を開けた。


中に入ると、白い布をかけられた死体があった。


最近似たような事件が多く、解剖に回せないため、仕方なく

この場に放置していたのだ。


「これが、例の奴か・・・」


無造作に布を剥ぎ取ったラプロスは、死体の首筋を見る。


「おい、この死体に血は、残っておったか?」


「か、確認します!」


ラプロスの問いに、職員は、慌ててカルテを取りに行く。


そして戻って来ると、カルテを確認する。


「検死解剖はまだですので、はっきりしたことは言えませんが

 現場には、血痕一つ無かったとの報告があります。」


「まぁ、そうだろうな」


「どういうことだ?」


「こ奴の血は、残っておらぬ。


 その証拠に・・・」


ラプロスが、死体の腕を切り落とす。


「お、おいっ!」


「うるさい、黙ってこれを見よ!」


言われた通り、切後を見ると、一滴も血が零れてこない。


「どういうことだ?」


「簡単なことだ、血は全部吸われたのだ」


「血を吸いつくす?

 犯人は、ヴァンパイアか?」


山田は、冗談で言ったつもりだったが

ラプロスが、驚いた表情を見せる。


「よくわかったな、犯人は、ヴァンパイアじゃ」


「えっ?」


「えっ?」


「えっ?」


「何を、驚いておる。


 貴様が言った通り、ヴァンパイアが犯人で間違いないぞ」


「なぁ、魔王・・・いや、ラプロス。


 犯人が、ヴァンパイアだとして、どうやって捕まえるのか?

 例えば、十字架とかニンニクとかか?」


「なんだ、それは?

 ヴァンパイアに、十字架など、効きはせぬぞ」


「えっ! 

 なら、どうするんだよ!」


「奴らの弱点は、日光じゃ。


 もっと詳しく説明するなら、日光の中に含まれる成分だ」


その言葉から、山田はあるものを思い出す。


「もしかして、紫外線か!」


「紫外線?

 なんだそれは?」


「太陽の光に含まれる成分だよ」


「ならば、可能性はあるのぅ」


「なぁ、それを証明できないか?」


山田の問いかけに、ラプロスが告げる。


「その紫外線とやらは、用意できるのか?」


「ああ、勿論だ。


 ちょっと待っていてくれ」


山田は、どこかに駆け出して行った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る