第4話 ヴァイオレットの立ち位置

 そういった諸々もろもろの事情があって、魔力持ちであることは公開されていないわけだけど。


「でも、微妙びみょうじゃない?」


 ヴァイオレットの立ち位置って。

 結局好かれているわけでもないし、そもそも本当のことを言ってしまえば避けられるのは必至ひっしだし。

 なのに、どういう手段を使ってでも国に残らないといけない。


「人生詰んでるってー」


 伯母様も、何度か真実を伝えてきたらしいけれど。結局、誰も相手にしてくれなかったって言ってた。

 だから私はもう、伝えることすらあきらめてるけど。


「……きっとそうやってきたから、今こうなっちゃってるんだもんね」


 初期の頃から、きっとずっとそうだったんだと思う。

 本当は、この国には魔力持ちが必要なんだって。どんなに言葉にしても、誰も信じてはくれなかったから。

 だからきっと、歴代の魔力持ちは段々と諦めて。


「で、私はもう役目を放棄ほうきしようとしてる、と」


 でも、それも仕方がないじゃない。

 だって、別に好かれているわけでもなければ、大切にされているわけでもない。

 むしろ国王である父親は、積極的に私を国外に出してしまおうとしている中。誰が国のために身を捧げようと思うの?

 いくら私が王女だからって、国のトップである国王がそう判断するのなら、もういいんじゃない?


「守られてる自覚なんて、ない人たちなんだし」


 そう、守られているんだ。

 確かに騎士たちは、目に見える部分はまもってくれている。それは間違いない。

 けど実は、この国にははるか昔に隣国マギカーエ王国から、王女を一人迎え入れたという記録がある。それも、王妃として。

 その理由は、和平のためでもあったけれど。同時に、この国を魔法の壁で守るためでもあった。


「知らないんだもんね」


 というか、認めたくないと言ったほうがきっと正しい。だって伯母様が何度そのことを伝えても、嘘だと決めつけられていたらしいから。

 でも実際、私はこの国にいる間ずっと、魔力をどこかに吸われている感覚がある。

 そしてそれは私と伯母様だけに見えている、国を丸ごとおおうような、透明なドーム型の壁を維持いじするのに使われているらしい。

 前世を思い出すより前から見えていたから、アレは全員に見えてるものだと思って、疑問すら持たなかったけれど。ある時伯母様から真実を聞いて、誰にも話さなかった自分をめてあげたくなった。

 だってそんなことを口にしていたら、その時点で変人扱いされていただろうから。危ない危ない。


「伯母様は、国のために必ず残りなさいって言うけど……」


 それはつまり、国の外に出される可能性が高いと言っているようなもの。

 伯母様自身がどうだったのかは知らないけれど、少なくとも私をこの国から遠ざけようとしていることは確かなんだろう。

 だから、わざわざ私に「必ず残りなさい」なんて言ってくるんだろうし。


「言いたいことは、分かるんだけどさ。誰にも必要とされていないのなら、もうよくない?」


 王女として生まれて、何不自由なく暮らしてきた恩返しを国にしなさいと。そういうことでしょう?

 確かにそれは、正しいことなのかもしれない。国のために生きるのが王族の役目だと言われてしまえば、ぐうのも出ない。

 けど私は、もう諦めてもいいと思ってる。


「本当に必要だったら、またいつか生まれてくるし」


 王族にのみ魔力持ちが生まれてくるのは、マギカーエ王国から嫁いでくれたいにしえの王妃の魔法らしいけど。それならきっと、必要になればまた生まれてくるはず。

 だったらいっそ、誰からも愛される魔力持ちに、その役目をになってもらえばいいじゃない。

 こんな、嫌われてないけど好かれてもいない、みたいな。微妙な立ち位置の王女じゃなくてさ。


「少なくとも、伯母様が生きている限りは大丈夫なんだから」


 原理なんて全然分からないけれど、なぜか魔力持ちは一人で十分みたいだし。

 だったら、王太子である兄の子供か孫に、期待しておけばいい。

 そうすれば、魔物からの攻撃や侵入を防いでくれるだろうから。


「誰かを不幸にしてまで、私が国に残る必要なんてないでしょ」


 プルプラの幸せを奪うなんて、私はしたくない。

 家族の中で唯一、私に屈託くったくのない笑顔を見せてくれる妹には。幸せになる権利が、あるはずだから。





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