第16話

連中は魔力についてほとんど知らないに等しかった。だから俺は兄さんを自分の手でも探し出すために、条件として一年に一度人間を差し出すよう要求した。奴らは知らないが、この星に住む者のみが持つε細胞を持つ者を要求した。少しでも兄さんに近づけるよう、会えるように。だけど、ε細胞を持つものは皆、兄さんについて何も知らなかった。ただ一つ共通点として、皆幼少期に同じ組織に監禁されていた。


それが反上層部の組織だった。奴らはこの星に順応するため兄さんの細胞を子供に移植して実験をしていたのだった。

この星に俺の力を持ってしてでも長くは住めないと分かっていたのだろう。だけど、、それを知った時にはもう遅かった。兄さんを苦しめた奴らに手を貸していたと知った時は死んでも死に切れない気持ちで苦しくて辛くて‥


俺は、自分諸共奴らも殺してやろうと思った。そんな矢先、兄さんを見つけた。すぐに上層部と掛け合い、なんとか差し出すよう言うと、怖いほどすんなりそれを受け入れた。


兄さんと会った時には感動と嬉しさでどうにかなりそうだったが、兄さんは俺のことを何一つ覚えていないので苦しかった。だけど、俺のことを思い出してしまえば、苦しい事も思い出させるのかもしれないとなるべく、他人のように干渉せずにいた。


上層部の本当の企みを知るまでは。


魔物を倒し、上層部の所へ定例会議に向かった。そこで聞いてしまった。


兄が上層部の傀儡とされている事を。


奴らは兄さんを実験体とした張本人なのにも関わらず、さも兄さんを地獄から助けたように演出し、保護した。本当は兄さんの体を調べ終えただけだというのに。そこで兄さんを利用して俺を殺して、その後兄さんを生贄として魔力の扉を開き人間たちのためだけのユートピアを、作ろうとしていた。

奴らは魔力についてほとんど知らないのではない。知らないふりをしていただけだった。兄さんは、偶然攫われたんじゃなかった。そもそも、街が襲撃されたあの日、奴らは兄さんを攫うために街を襲撃した。俺たちの住む街は元々皆、魔法が使えたのだが兄さんだけ使えなかった。だけどそれを咎める者もいなく、それぞれがそれぞれの役割を果たして支え合っていた。そう思っていたのは俺だけだった。兄さんは魔法が使えなかったんじゃない。兄さんは魔力の扉を開くことのできる唯一の鍵だったのだ。そして俺はそれを守護する門番。俺たちが周りに支えられたのはその魔力の扉を守るためだったのだ。


魔力の扉は、開けた者の願いを叶える代わりに他の惑星を全て滅ぼすとして恐れられ、それを守護する者として俺たちは生きていた。ただ、何千年もの間、その鍵となる者が生まれなかったために安全に過ごせていただけだったのだ。


父さんは戦死したんじゃない。父さんは兄さんを守るために人間に殺された。兄さんが攫われそうになったところを‥

母さんが兄さんに俺を守れと言ったのは、俺が成長したら兄さんを守護することができる程の魔力を持つ唯一の存在だからだろう。


もし、兄さんが鍵としての役割を果たしてしまったら兄さんは永遠に魔力の扉から出られなくなる。死ぬ事もできず、一生暗闇の中でひとりぼっちで‥そんな事だけはさせたくない。1人で、孤独で生きるのは俺だけで十分なんだ。これ以上兄さんを不幸には、1人にはしたくなかった。



だって俺は狂おしいほどに、兄さんを愛しているから。兄さんとしてではなく、イエルただ1人の存在を。

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