【短編】ナノカマガツヒ
白鳥ましろ
始まりは月曜日
月曜日に産まれて。
火曜日にカミサマになりました。
水曜日に恋に落ち。
木曜日に人間は私を見捨てました。
金曜日には疎まれて。
土曜日には土の下。土の下。ツチノ……。
*
駅の階段を駆け下りる。
先ほどから、天井の案内板に何やら文字が表示されているが、構内を埋め尽くす人混みのせいで、なんと書かれているのか判別出来ない。
やっとの思いで改札をくぐると、切符売り場の前で老婆が倒れていた。
怪我だろうか?
あるいは持病?
そして、老婆の前を幾重にも人影が通ったが、誰も彼女を助けようとしない。
まるで、構内に溢れる影が、人のものではなく、人の形をした何かになってしまったようだ。
このままでは、このお婆さんが危ない。
慌てて、彼女の方へ駆け寄ろうとする。
だが、その刹那。
目に止まったのは構内に設置された時計。
短針は、今が丁度、三時であることを示していた。
――まずい。バイトに遅れる。
今日の三時半からはバイトのシフトが入っている。
ここで、時間を費やしてしまっては、シフトに間に合わない。だからといって、老婆を見捨てる訳には……。
自問自答を繰り返しているうちに、老婆の元へ、係員だと思われる人々が集まってきた。
これなら、ひとまず安心だ。
クルリと体をひるがえし、出口へとむかう。
出口へと向かう途中。
人混みの中に、奇妙な存在を見つけた。
それは人の形をしている。
一見すれば、何の変哲もない一人の男性だ。栗色の髪の毛。浅葱色の振袖。
そして、その男は、目を閉じたまま人混みの中に立ち留まっていた。
これだけでも少し不気味だが、一番特異だったのは、彼の存在そのもの。
ここまで奇妙な特徴を兼ね備えているというのに、誰も彼の方を見ない。
一瞥すらしない。
――あぁ、そうか。そういうことか。
この事実に対し驚くことは何も無かった。
見えるはずがない存在を感知してしまうことは、今回が初めてでは無い。
私には、いわゆる怪異と呼ばれる存在を感じ取る力があった。
とはいえ、あくまで感じ取るだけ。
目視してしまうのは今回が初めてだ。
しかし、取るべき対応はいつもと変わらない。そのまま、見えないフリをして男性の隣を素通りする。
何事もなく、彼の隣を通過できると思ったその時。男性がゆっくりと口角を上げる。
『罪を……ヒトツ数えましょう』
耳元から囁く声。
そう、耳元でだ。
男性と私の間には、それなりの距離が保たれているにもかかわらず。
思わず、足を止め振り返るが、男性の姿は無い。代わりに、メールが届いたことを知らせる通知音がポケットから響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます