第26話

「あーそんなこともあったなー」「今は何も未練はないです。というか過去付き合った人に何も思ってないです」

その神経質で打算的な女は久しぶりに会って、過去の話をするとそう言った。


最初彼女と会ったのは、ちょうど秋村が執着している元カノと復縁し破談になる1ヶ月前だった。そんな彼女と再会したいと思ったのは、他ならぬ当時の心境に変化があったのか聞いてみたいからだった。

初めて会ったとき彼女は、同棲していた外科の若い医者に振られて、その男は他の女性に乗り換えて結婚してしまった後で、そのことを引きずっていた。

秋村はちょうど元カノを引きずっていて、新しい出会いがなんとか見つからないかと探していたので、その話に共感しつつも、むしろ元カノと比べて見劣りする彼女にがっかりしていたものだった。

このまま自分は元カノを引きずって、比べてしまい、新しい良い出会いがないんじゃないかと恐れていた。それはその後予想通りとなり、2年以上秋村は苦しむことになった。


「今でも好きですよ」「忘れられないですよーどうしたら忘れられるんですかね」

当時は彼女はそう言っていた。

それでも好きなのか、人間の認知バイアスとは本当に愚かなものだ、と秋村は思った。第三者の秋村から見れば、同棲でうまく利用された挙句に、より条件のいい相手に乗り換えられた、つまりはやり捨てられたに過ぎない状況なのに、今でも好きで忘れられない、なんて。


再会した彼女は、当時よりさらに神経質で打算的になっており、30代半ばが近づくのに結婚できない自分を、「結婚できないんじゃなくて結婚してないだけ」と言い訳で固めていた。

「アプリも同じやり取り繰り返すの面倒くさくなって、やってないんです」

言い訳だ、と秋村は思った。

需要がある女なら、たくさんアプローチしてくる男から選り好みしてダメ出しを繰り返せる立場なのだから、男よりずっとアプリはやりやすいのに、辞めたのは、もう自分の理想に叶う男があまりマッチしなくなって、やっても楽しくないから「できない」のだ。

つまり彼女は妥協して相手のレベルを下げなければいけないのに、下げられず、それを認めたくなくて、言い訳を作って婚活をいったん辞めたのだ。


しかしそれをいえば秋村だって思うにいかない人生を言い訳で自己防衛することもよくある。


先程の戦略通りに、本命でも即れる相手でもない彼女とは、これでもう2度と会うことはない、ただ悪趣味には、彼女がどんな末路を辿るのかは見てみたいものだとは、秋村は思った。


そしてその女と会ったあと、前に初回でゲットできた女と会ってホテルへ行った。

セックス自体は気持ち良かったが、果てたあと目の前の女が不細工に見え急に虚しくなるのであった。

秋村が執着していた女や他の容姿の可愛い女たちとヤった後は、そのような虚しさは感じなかった。

むしろ行為後は、何かフワフワとした不思議な、今までの人生がまとまって感じられるような、名状し難い感覚に包まれ、妙にラーメンのようなカロリーの高い食べものを食べたくなって、彼女を送り返した後にコンビニにふらふらと行ってラーメンを買って、家で食べることが多かったものだ。

おそらくあのときが、自分の人生のピークだったなと、秋村は残念な気持ちで思った。

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