18.粉砕ロッドを頭上にかざせば、山猫も恐れて尻尾を巻く

<Anna's view>


 ついに迎えた試演会の日、チームごとに少しずつ時間をズラして人造迷宮に入ることになっているんだけど、ボクらの順番はちょうど真ん中くらいだった。


 「よ、よし! みんな、行くよ!!」

 「「了解!」」


 (いつの間にか)リーダー役になったボクの掛け声に、チームメイトのふたりも応じて、隊列フォーメーションを組んで迷宮に突入。それから30分あまりが経過している。

 今の状況は……。


 「圧倒的じゃないか、我がチームは♪」


 アザリア先輩が、どこかで聞いたような台詞を楽し気に漏らすほど余裕があった。


 (貴女、ひょっとして現代日本ぼくのこきょうからの転生者とかじゃないよね?)


 まさかなぁと、そんな疑惑も抱きつつ、ボクは周囲に気を配る。


 (──まぁ、そう言いたくなる気持ちもわかるんだけどね)


 先頭・ボク、少し離れてセイラ、そのすぐ後ろに先輩というフォーメーションで、先輩に《敵感知エミネス》の魔法を使ってもらいつつ、静かに前進。

 かなり遠くから敵を発見し、まずはボクが《痺雷ヴォル・テック》を込めた投げ矢ダーツを投げて相手(野犬や山猫の姿をした人工生命体)を麻痺させ、セイラの攻撃魔法・衝撃破スピネルでトドメ──というパターンで、これまで10体以上の敵を葬ってきたんだ。


 ダーツも全部回収できてるし、敵も1~2体だから、特にてこずることなく進めている。

 けどなぁ……。


 「アザリア先輩、故事に「ピンチはチャンス、チャンスはピンチに通ず」と言いますわ。油断せず、感知魔法を使ってくださいまし」


 たとえ年長者相手でも、ピシャリと正論を言ってくれるセイラの実直さが頼もしい。


 「あはは、心配症だなぁ、セイラちゃんは。まだ先は長いんだし、集中しっぱなしだともたないよ?」


 先輩の言うことにも一理はあるんだけど(順調に進んでも、おおよそ3時間ちょっとかかるらしいからね)、だからといって無警戒に隙をさらしてもいいワケじゃない。


 (日常性睡眠過多症の発作が起きてないみたいなのは、幸いだけど……)


 くだんの病気は、強いストレスや感情の励起で発作──急な眠気&脱力が起きやすいらしいから、アザリア先輩にはできるだけプレッシャーがかかりにくくしている。それが裏目に出て緊張感が欠けてるのかもしれない。


 「──っと、みんな静かに。そこの角を曲がったすぐ先に扉がある。たぶん中は部屋になってて、敵が複数いると思う」


 “玄室”に入ると敵と遭遇エンカウントなんて、まるっきり古典RPGみたいだ──という感想は心の奥に留めつつ、ボクは注意を促した。


 「そろそろ遭遇する敵の数が増えてもおかしくないし、もし3体以上の敵がいた場合は、アザリア先輩は即座に《集中歌ゴスペル》使ってください。セイラも、ボクがダーツ投げた以外の敵を先に攻撃してほしい」


 迷宮に入る前に決めてあった戦術を再確認する。


 「オッケー、ま~~かせて♪」

 「承知していますわ」


 仲間ふたりからYESの応えを聞いてから、ボクは足音を忍ばせて扉に近づき……蹴破るように勢いよくドアを開けて中に踏み込む!


 (敵は──いる。数は──4。なら……)


 「《閃光ヘリオス》!」


 学院長直伝の光魔法で敵の動きを止める。

 自分達の視界も真っ白になるのが難点だけど、それは一瞬だけで、特に後を引くわけじゃない。

 一方、まともに目にした敵はしばらく“盲目”状態になり、かつ数秒間動きが止まるはずなんだけど……。


 (よっしゃ、3体に効いてる!)


 反対側を向いていた残る1体(これまでに遭ったのより大きい、野犬というか狼?)には、《痺雷》付与ダーツを、念のため2発投げて当てる。


 相手の動きが止まったのを確認してすぐさま走り寄り、ステップインからの蹴り、いわゆるサッカーボールキックで頭を蹴り上げ、のけぞった頭部に、腰から引き抜いた鉄棒(運動器具じゃなくて、長さ50センチくらいの太い鉄製の棒)を振り下ろす。


 グシャッというイヤな手応えとともに狼モドキの頭蓋骨(?)が陥没し、動かなくなり──ほどなくその姿が霧散する。


 ならば次、と盲目状態になってるはずの3体──野犬2+山猫1の方に向き直ると……。


 「《双・衝撃破スピネリア》!」


 セイラが素早く振り上げ、振り下ろした左右の手から、魔力による衝撃波がふたつ発生して、硬直中の野犬モドキ2体を吹き飛ばしていた。


 これで、残りは山猫モドキ1体! 

 とはいえ、ここまでで十秒くらいはかかったせいか、相手も立ち直って体勢を整え、油断なくこちら、主にボクの方を窺っている。


 「うわ、目が、目がぁぁぁ~……って、あ、もう始まってる!? え、え~と……そうだ!」


 某大佐みたいな悲鳴をあげていた(ホントに転生者じゃないよね?)アザリア先輩も、正気(?)に戻ったらしく、ようやく《集中歌》を詠唱(歌唱?)し始めた。


 昨日までの練習時と同様、自分に淡い魔力の“幕”がかかっているのを確認してから、ボクは山猫モドキとの距離を保ちつつ、左右の手に握ったダーツを投げる。

 正面からなんで、かわされることも込みでの行動アクションだったけど、《集中歌》のおかげか幸いにして2発目がカスったらしく、軽く麻痺って動きが一気にぎこちなくなった。


 「セイラ!」

 「はい、《衝撃破》!」


 セイラ攻撃魔法で吹き飛ばされた山猫モドキに駆け寄り、念のために頭に鉄棒を振り下ろす。

 未だ慣れない手応えとともに敵の身体が弛緩し──完全に動きが止まったかと思うと、スーッと煙のように消えていった。


 「こういうのを見ると、敵が疑似生命体だってのを実感するなぁ」

 「よいではありませんか。なまじ死体が残ると、変な罪悪感を感じてしまうかもしれませんわよ?」


 うん、セイラの言う通りだね。非人型の“敵”を撲殺した手応えだけでも、けっこう嫌な気分なのに、異世界ファンタジー物にありがちな「倒した獲物の解体」とかまでさせられようものなら、確実に心が折れるよ。


 「♪ラララーララ~……あ、もう終わったの? おつかれ~」


 歌うのを止めたアザリア先輩が、のんきな声でこちらをねぎらってくれる。


 セイラと顔を見合わせて苦笑しつつ、ひとまず此処で小休止することにする。4体相手の戦いは初めてで、けっこう精神的に疲労したからね。


 (とりあえず、上手く戦術がハマれば、4体までなら無理なく勝てることは、実証されたか)


 5体以上敵がまとめて出なければ、なんとかなりそうだな──と安堵していたボクだけど……。


 残念ながら“敵”は迷宮内の疑似モンスターだけではないことを、しばらく後に思い知るのだった。

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