第12話「偽りの天使」

 第十二話「偽りの天使」


 ルシファーとリィンは絵画から抜け出した化物達を捕まえる為に行動していた。

 肝心の絵画を描いた画家はユニコーンに一突きされ死んでしまった。


「お前の不思議な力で生き返らせる事は出来ないのか?」


「僕のいた世界なら可能だろうけどあいにくこの世界には地獄が無くてね。魂の在処が分からないと無理だ。肉体なら治せるが」


 リィンの問いにルシファーが答える。

 リィンは初対面だが人一人の命をなんとも思ってないルシファーには思う所があった。

 今やってる化物退治も善意からではなく単なる興味本位からだろう。

 しかしリィンはこのルシファーに逆らう事は出来ない。

 だからここは沈黙を貫くことをした。


「さて次は地獄の番犬だが、あの子は僕のペット同然でね。地獄で檻に入れられる前、番人をしてた頃はよく遊んでやったものさ」


「じゃああそこで牙を剥いてる三つ首の獣はお前と遊んで欲しいだけなのか?」


 リィンが指を指した先には三つ首の獣、ケルベロスがいた。

 足下には地獄の炎が広がっていて溶岩の如く周囲を溶かしている。

 その獰猛な唸り声はどう聞いても主人とじゃれあう様な雰囲気ではなかった。


「おいおいケロちゃん、昔あんなに遊んでやったろ?忘れたのか?」


 ケルベロスに手を差し伸べるルシファーだがそれに噛みつこうとするケルベロス。

 地獄の番犬は目の前の対象を噛みちぎる以外に興味はなかった。


「どうする、オーナー。こんな巨大で獰猛な獣に勝ち目はないぞ」


 リィンがユニコーンにまたがりながらいう。

 今でもそこから逃げ出したいと言い出したそうな雰囲気だ。


「いいや、がぜん気に入ったね。子犬の躾けは久々だ」


 ルシファーに向かってケルベロスが飛び掛かって来る。

 しかしルシファーは紙一重でそれを避け、ケルベロスの首の内一つを引きちぎった。


「おおこれではオルトロスと見分けがつかないな。もう一つちぎっておこう」


 ケルベロスが悲鳴を上げる。

 しかしルシファーはそれを喜ぶかのように笑みを浮かべていた。

 そして怯えるケルベロスを前にその首を引きちぎった。


「も~もたろさん、ももたろさん。犬猿雉を引き連れて~♪」


 ルシファーが東洋の童謡を歌いながらリィンの前に意気消沈した首一つのケルベロスを引きずっている。

 出血こそ止めた物の、自慢の三つ首が一つになり、ケルベロスはルシファーに服従する他なかった。


「じゃあ次は天使か」


「・・・・・・」


 ルシファーの凶行にリィンはただ黙っているしかなかった。



 ―聖人の塔


 ここは聖人の塔、聖人を目指して数多の賢人達がその頂上を目指す物凄く高い塔である。

 頂上は雲の上でこの時代の人間が到底建造できない代物である。

 ルシファー達は登ってる途中でばてて中間地点で休んだ。


「おい見ろ、人がゴミの様だ」


「相変わらずだな。お前の暴言はどうにかならないのか」


 ルシファーはケルベロスに、リィンはユニコーンに乗りながら地上を見下ろしている。

 その様子はまさに天界から下界を見下ろす天使であった。

 そして目の前には翼を持った天使がいた。


「おお、久々の天使だ。現代では散々殺したっけなぁ」


 ルシファーがどうしようもない過去を思い起こしている。

 そして天使であろう白い布を纏った男は銀色の刻印が刻まれた短剣を手にルシファーに斬りかかって来た。

 それをルシファーは難なくかわしていく。

 そして足をひっかけ相手を転ばすと額に指先をやり、マインドコントロールの準備に入った。


「おいおい、こっちの事情も聞かずに攻撃か?天使の癖に思慮が足りないな」


「黙れ、悪魔め!私は神に仕える兵士だ!」


「いや、お前は天使ですらない。絵に書かれた紛い物さ」


「ど、どういう事だ!?」


 ルシファーに真実を聞かされ動揺する天使。

 その天使は自分の事を思い出そうとするが何も思い出せなかった。


「神よ!私は何者なのですか!」


 天に祈りを捧げる天使。

 しかし天は何も答えない。


「神よ!どうして何もおっしゃってくれないのです!」


「それはここが異世界だからだよ。ここの女神は酒飲みのあばずれだしな」


「なんだって!?」


 驚愕する絵の天使。

 そもそも現代でも神はいないので応じる事はなかったろうが。


「そうだな、君に名前を付けてやろう。虚偽という意味のフォルスなんてどうかな?」


 絵画に書かれた偽りの天使に相応しい名前である。

 天使の男は現状に苦悩しながらもその名を受け入れた。

 神に見放された事と、自身が絵の存在と言う現実を受け入れまいっていたからでもある。

 おかげでルシファーのマインドコントロールに耐性のある天使があっさりそれを受け入れた。


「まさか堕天使が自分の名付け親になるとは……」


「名無しの天使よりマシだろ?フォルス」


「おい、気安く呼ぶな」


 マインドコントロールは完了し、フォルスはルシファーの部下になった。

 横からこの光景を見ていたリィンは、堅物の天使とお調子者のルシファーの二人を見てお似合いのコンビだと思った。




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