第4話「服飾」
第四話「服飾」
従業員の美少女エルフも揃えたし、酒も最高のラムとカクテルのモヒートがある。
店も小さいが改装すれば現代のナイトクラブの様な立派な物とまではいかないが多少年代物になるがそれなりの物はできる。
後はこの焼け焦げた服だが……
「おい、前オーナー、この辺に服を作ってくれる店は無いか?」
「服ですか?それなら作るより買った方が安いし早く済みますが……」
前オーナーである元老店主はルシファーに恐る恐る言う。
「この服は特別なデザインでね。オーダーメイドで作りたいんだよ。それに従業員の服も相談したいしね」
「それでしたらとっておきの店がありますからご案内しましょう」
「分かった。じゃあリィン、君も来るんだ」
「私も行くのか?」
今迄蚊帳の外に置かれていたエルフの少女リィンは突然名前を呼ばれてびっくりしていた。
これまでこの酒場で起こっていた数々の異様な光景を目の当たりにして気が動転していたのもある。
「ああ、従業員の服も選ぶからな」
「わ、分かった」
「よし行こう。このままでは風邪を引いてしまう」
堕天使が風邪を引くのか?という点に置いては冗談か何かとは思うが不用意に笑いでもしたら酷い目に遭うと配下の悪魔であるカースは分かっていた。
だからこの場は沈黙を貫いていた。
「おい笑えよ、ルシファー・ジョークだぞ」
巨漢の悪魔二人とカース達はハハハと苦笑いした。
従業員のエルフの少女達もリィンも続いて笑う。
いずれもルシファーの機嫌を損ねたらどうなるか知っていたらの行動だった。
「まあいい、店の改装の方はカース、お前に任せるぞ。なるべく現代風に仕上げるんだ」
「分かりました、ルシファー様」
深々とお辞儀をするカース。
ルシファーが小瓶にして持ち歩いているのは数は少ないが少数精鋭の忠実な悪魔ばかりだ。
現代ならば無数の悪魔を手足の様にこき使えるのにと歯がゆく感じるルシファーであった。
―服飾店入り口前
「ここがこの街一の服飾店になります。貧乏人の儂は入れないのでここで……」
「そうか、下がっていいぞ」
ルシファーは前オーナーである老人をその場に待たせると店に入った。
ルシファー達が店に入るや否や豪華なローブを着た店主であろう偉そうな男が入店を拒みに来た。
「おいおい、ここは乞食が勝手に入っていい場所じゃ―」
「僕は乞食じゃない、魔王だ」
ルシファーは自分を制止しに来た男の額に指を当てると目を赤く光らした。
ルシファーの瞳を見た服飾店の店主は意識を朦朧としフラフラしていた。
ルシファーはというとこの店主の記憶を、正確には弱みを探っていた。
そして数秒後、ルシファーの顔がニヤリと不気味な笑顔を作る。
「昨夜はカサンドラとお楽しみだったようだね。奥さんが可哀想だ」
「ど、どうしてそれを!?」
「魔王様には全てお見通しなのさ」
「と、とにかく金ならやる!だから妻には内密に―」
「金より服が欲しい、特別なデザインのね。金は払う、それと作業部屋を貸して貰おうか」
店主はルシファー達を言われるがまま作業部屋に案内した。
そこには服をデザインするあらゆる設備と道具が揃っていた。
そして多才なルシファーには敏腕服飾デザイナーとしての経験もあった。
現代のパリで指折りのデザイナーのアシスタントという名のゴースト(代わりに全部やる)を務めた事もある。
そしてルシファーが作業机につき数時間後―
「とりあえず男性従業員用のブラックスーツ一式と女性店員用のセクシーな黒ビキニ、それと僕のジャケットとシャツとパンツ(ズボンの方)のデザインはできた。これをなるべく早く頼む」
「こ、こんな斬新なデザインは初めて見たよ!感動した!どうだい、よければこの店で……」
「断る。人に使われるのは嫌いでね」
「わ、わかったよ。じゃあそれが出来るまで代わりの服を用意しよう。お嬢さんも、さあ」
「ところでオーナー、私達が着る予定の服だが際どすぎないか?」
文字通り際どいセクシーな黒ビキニのデザイン画を見て怪訝そうな顔をするリィン。
自分だけでなく妹分の他のエルフ少女達も着るのだ、慎重になるのも仕方が無い。
「心配するな、あの酒場は寒さとは無縁の冷暖房完備(魔術による物)の仕様になる予定だ」
「私は寒さや暑さの事でなくあの破廉恥な服装について言ってるんだが?」
からかわれたと感じたリィンは少し声を荒げてそう言った。
しかしルシファーは冷静沈着でそのポーカーフェイスを崩さない。
「契約破棄で皆死ぬよりはマシだろう?」
「う……」
命を盾に取られては何も言い返せないリィン。
しかも自分だけじゃない、皆の命がかかってるのだ。
際どい服位我慢して着るしかない。
「あの~、仮のお召し物がご用意出来ましたが……」
「おお、ご苦労」
ルシファーは中世風の黒いシャツに黒いロングコートを羽織っていた。
ひらひらしていて実にうっとおしいが仕方が無い。
「私がこんな可愛い服着ても良いのか?」
一方リィンはと言うとフリフリの付いたお人形の様なピンクのロングスカートのドレスを身に纏っていた。
その美しい銀髪もあってかドレス姿が実に映えていた。
「お似合いですよ、お二方。まるで恋人同士の様だ」
「そんな……」
お世辞込みで二人を褒め称える店主。
頬を赤らめてうつむき恥ずかしがるリィン。
一方でルシファーはと言うと澄ました顔で昔の、現代の事を考えていた。
ニヒルなナイスガイなルシファーには男も女も寄ってきてそして抱いた事も当然ある。
その愛は相手側の一方的な物でありルシファーが愛を感じる事は無かった。
父の愛に裏切られたルシファーにとって愛とは最も憎むべき感情だったのだ。
「そんな事はどうでもいい。それより服の方をちゃんと用意してくれよ」
「わ、わかりました……」
冷めた口調で店主に言い放つルシファーを前に怯えた店主はお世辞を思いつく間もなく答えた。
その時である―
「おらぁ!金を出せ!!」
刃物を持った盗賊、もとい強盗が現れた。
人数は三名程でルシファーなら指一本で無力化できる相手である。
「僕は今機嫌が悪いんだ」
ルシファーの目が耳鳴りの様な音と共に赤く光る。
ルシファーが相手の一人に手をかざしそれをゆっくりと握っていく。
盗賊の男の全身の骨がミシミシと音を立て砕けていく。
盗賊はその激痛に耐えられず気絶して倒れた。
「次は君の番だ」
「ひっ!?」
怯えた盗賊の目から耳から全身の穴と言う穴からから煙が噴き出している。
体液や血液は沸騰し目と耳の穴の周囲は焼け焦げている。
文字通り死体の焼けた嫌な臭いが周囲を漂っていた。
「さあ、最後は君だ」
ルシファーが最後に残った盗賊に手を向けたその時である。
リィンが両手を広げ盗賊とルシファーの前に立ち塞がった。
別にこの盗賊を守りたかったわけではない。
このルシファーと言うなんの感情の服飾も纏っていない憎悪の塊にこれ以上モンスターになって欲しくないだけだ。
「なんの真似だ、リィン」
ルシファーが普段の陽気な声でなく恐ろしい低いトーンの声で言う。
リィンは今すぐにでもここから離れたかった。
恐怖と言う名の楔に磔にされていて動けない気分だった。
しかし一度前に出た以上引くことは出来ない。
リィンは冷や汗をかきながらルシファーに告げた。
「い、異世界の魔王様なんでしょ、みっともない。こんな小物放っておきなさいよ」
「ほう……エルフ如きが。まあいい、今日はそのドレス姿に免じて許してやろう」
「あ、ありがとう」
「礼はいい。それよりそこのお前」
「は、はい!」
逃げようとしていた最後の盗賊をルシファーが呼び止める。
その声は少し陽気な感情が混ざっていて普段の冷静さを取り戻していた。
「この街にある全ての酒場の事を教えろ。知ってる事全部だ」
「よ、喜んで!」
ルシファーは黒のオーバーコートに付いた血を払うと盗賊の言葉に耳を傾けた。
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