第5話 ママは誰がいい?
《前書き》
ちょいと短めです。(言うて2500字くらいはありますが)
――――――――――――――――――――――――――――
あれから、一夜明けた翌日の朝。朝食を済ませた二人は、防音室でこれからの作戦会議を行っていた。
「私、お父さんの力は借りないから」
瑠璃葉はやはり、洸をクビにしたことを怒っているようだった。頬っぺを膨らませてぷんすこしている。
「取り敢えず、瑠璃葉ちゃんはFly Futureからデビューするつもりはないんだよね?」
「うん。というか、私は企業からデビューするつもりはないよ」
「えっ、でも……」
個人勢で数字を伸ばしていくのは難しい。そんなことを言おうとしたところで、洸はハッとした。
もし瑠璃葉が企業でデビューして、布武坂楽市のことを発表したら、他の箱内の子(同じ事務所のタレント)に迷惑が掛かってしまうのは間違いなかった。
きっと、彼女はそれを危惧して個人勢として闘っていこうと決めたのだろう。
それに――、
「個人勢だと、企業のVtuberと違ってラインがないから、下ネタいっぱい吐けるからね!」
「おい!!」
といった具合になんとも彼女らしい理由も含んでいた。
「個人勢で行くとなると、先ずは
「うん、そう言うことになるね」
瑠璃葉が今言った『ママ』というのは、実の母親のことではなく、Vtuberのキャラクターデザインを手掛ける人のこと。つまり、イラストレーターのことを指している。
「その後はパパもだよね。願わくば、3Dにもなれたらなぁ~(ボソッ」
『パパ』というのも、実父ではなく、Vtuberの2D,3Dのモデルを手掛ける人のことだ。因みに、2Dモデルは通常形態のためどのVtuberにも存在するが、3Dモデルとなると、その数はかなり減る。理由は簡単で身体に合わせてアバターが立体で動くためお金がかかる。それに、そもそも3Dモデルはスタジオライブをするために造られるものなので、スタジオを抑えられるような大企業でもないと用意するのは難しい。それこそ、Fly futureのような……(これ以上は掘り下げない)。
(まあ、個人勢でもクラウドファンディングを使って、3Dモデルを手に入れてる人もいるし)
実際に3Dモデルで、縦型shortで踊ってみた動画をアップしているVtuberも多い。瑠璃葉に人気が出ればそれも全然可能だ。でも、それはもう少し未来のことになりそうなので一旦置いておいて、今はそれよりも――、
「出来れば、ぴかっそ先生を私のママにしたいんだけど……やっぱ、流石に無理だよね」
瑠璃葉がこちらを探るようにそう言ってきた。実は洸にも彼女がそう言ってくることはなんとなく想像は出来ていた。彼女が最推しである
しかし、それはほぼ不可能に近い。
ぴかっそと呼ばれるイラストレーターは、あのリーク事件により、Vtuber本人の自業自得という形で、自分の生み出したキャラクター――子供がいきなり消される事態に陥ったのだ。洸とは絶対に話したがらないはずだ。おそらく、Discordを掛けても出てくれないだろう。
仮に瑠璃葉がDMを送ってイラストを手掛けてもらっても、いつかは布武坂楽市と一緒にいることを公表する身なのだ。ぴかっそにそのことを黙って自分のイラストを描いてもらうのは、彼女の良心も認められることではないだろう。
そんな考えが頭に浮かんできた洸は苦い表情をした。それを見て、瑠璃葉もハッと上記のことに気付き、申し訳なさで一瞬、口を噤んだ。しかし、彼女は自分が少し暗くしてしまった空気をまた明るくするために、すぐに口を開き、話題を切り替えた。
「てか、そもそも洸くん。パソコン、持ってくるの忘れちゃってるのか」
「いや、勝手に拉致してここまで連れてこられたんですけど!!」
瑠璃葉のボケにすかさず洸もツッコんだ。
「おかげで、洸はパソコンどころか、着替えもアメニティグッズも何も持ってこれてないよ」
辛うじて、なんとか自宅の鍵とスマホと財布だけは、ポケットに入れて持ってこれたが。
「今着てる下着とかパジャマはうちのボディーガードのおさがりなんでしょ。えっち♡」
「どこが!?」
「ちなみに私があげた歯ブラシあるでしょ。あれも、私のおさがりだよ」
「汚いし不衛生」
「冗談だよwwwでも、本当だったら、私と間接キス出来たんだよ」
「流石に冗談でないと困る。歯ブラシの間接キスは誰も嬉しくない」
「それが幼馴染美少女ヒロインに対する態度か!!」
「自分で美少女言っちゃってるよこの人。事実だけど」
「ぐへへ。洸くんに容姿、褒められちゃった♡」
「笑い方、気持ち悪かったので前言撤回」
「え~(泣)」
そんなこんなで、お互い、またテンションが戻ってきて、先程のことは忘れた頃だった。
――プルルルル。
洸のスマホの着信音が鳴り響いた。
「誰から?」
ポケットから取り出す最中に瑠璃葉にそう訊かれ、画面を確認したが……。
「知らない番号……」
不安と疑問が入り混じったような声で洸は言った。それもそのはず。今の彼に電話を掛けてくるような人物なんているだろうか。彼のこの電話番号を知ってるのはFly Futureの関係者くらい。社長を始め、事務所の同期やマネジャーくらい。しかし、彼らとはあのリーク事件以降、一切連絡を取っていない。間違い電話の可能性が高い。それでも――、
「出るの?」
「……一応ね」
洸の勘が出た方が良いと言っている気がした。彼は他の人間に比べて、自分の勘だけには自信があった。それもそのはず。彼の勘は結構当たるのだ。
とは言え、詐欺系の電話の可能性もあるので、恐る恐る電話に出た。
「……もしもし~」
『おっ、繋がった!!もしもし~』
聞き覚えのある綺麗な女性の声だった。
「えっ……」
『おひさ~らくっち。元気にして~はないよね……。正直、ウチも連絡するの迷ったんだけどね。でも、やっぱ、話しがしたくてさ』
そして、この如何にもTheギャルみたいな喋り方をする人は――、
「……
『そうだよ~。らくっちと最後話したのはもう一年近く前?』
そう。布武坂楽市の生みの親。イラストレーターのぴかっそ本人だった。
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