【本編完結済み】冤罪をかけられ大炎上し、個人情報まで特定された絶望寸前の人気Vtuber。自分のガチオタだったVtuber志望の金持ち美少女に匿われる!!【現在、同棲中】

ハッピーサンタ

第一章

第1話 元人気Vtuber、見知らぬ美少女に強制連行される!!

 桜も綺麗に咲き誇る四月某日。この日、見事に水嶋みずしまほのかは第二の人生もバットエンドで幕を閉じることとなった。


 ~~

【某ネット記事】

 2Dまたは3Dのアバターを使って動画投稿や配信活動を行うバーチャルYouTuber。略してVtuber。

 そんなVtuberの代表とも言えるのが、アイドルVtuber事務所Fly Future一期生である『布武坂ふぶざか 楽市らくいち』である。当時、個人勢から新設事務所に移籍した彼は、デビュー当初からとてつもない歌唱力にゲームセンス、そして持ち前のトーク力で注目を集め、一気に人気Vtuberの地位へと上り詰めた。その実力はデビュー一年にしてチャンネル登録者数70万人を達成していることからも一目瞭然であろう。


 新設立事務所からのデビューにして、ファンの獲得しずらい男性Vtuberという足枷も諸ともしない彼のカリスマ性は、界隈内外からも瞬く間に注目されることとなった。

 そんな彼が、まさか過去に暴力事件を起こし、家族から縁を切られ、高校も退学処分にされていたというのはあまりにも驚きが隠せない。

 この悲しいニュースは、某暴露系Youtuberをきっかけに瞬く間に拡散され、Twitterの日本のトレンド一位という不名誉を見事に勝ち取った。

 この件を受けて、Fly Futureは布武坂楽市の活動継続を困難とみて、本日付で契約を解消したという。

 尚、彼のチャンネルのメンバーシップ、並びにこれまでのアーカイブについては……(以下略)。

 ~~


「どいつもこいつも、勝手なことばっか言いやがって」


 布武坂楽市改め、洸は思い切り溜息を吐く。まったくこんなデマにやられてしまうとは。リアルで社会的な死を迎え、逃げてきたこのバーチャルの世界でも終わりを迎えてしまった……。


(まったく俺の人生って、いったい何だったんだよ)


 デマと言っても、ほんとのことを拡大解釈したものだ。証拠付きで暴露系Youtuberが垂れ流してる。弁明しようにも何も出来ない。おまけに事務所からも見捨てられている。

 ……しかし、こんなのを誰がリークしたのか、洸には見当も付かない。


「でも今は犯人探ししてる暇もないよな……」


 そう、なんせ自分の個人情報が経歴を含め、出回ったのだ。ということはつまり、が特定されるのも時間の問題というわけだ。

 厄介ファンや週刊誌もいずれここに押し寄せてくるに違いない。取り敢えず、今はここを離れて逃げることが先決だ。しかし、そうは言っても……。


「何処に行けばいいんだよ」


 もちろん、ネカフェを渡り歩いて身を潜めるのも手としてはある。洸はつい先日まで、人気Vtuberとしてたんまり稼いでたので、この手を使っても当面は金銭面での心配はない。しかし、これだとずっと外に居続けることになるので気が休まらない。


「はあ……リアルに信用できる奴なんていねえんだよな」


 だから洸はバーチャルに、ネットの世界に身を移すことにした。そして、今このありさまだ。

 最初のうちだけは楽しかったな。個人勢から新設事務所のVtuberとして同期たちとも仲良くやっていた。でも、洸――布武坂楽市だけが伸び続けて、世間からも注目されるようになってから、彼らとは思い切り距離が開いてしまった。実際、洸がこうした状況に陥っても、誰も連絡すらしてくれない。

 そして、今まで自分のファンでいてくれた人や称賛してくれた人も、今や自分を叩きまくってるといった状況にある。結局、リアルでも、ネットでも、人間という生き物には変わりないのだ。


(……もう何処にも俺の居場所なんてない)


 なら――、


「この世から逃げるしかないのか……」


 洸はカーテンの隙間から外の様子を覗き込む。

 平日の昼間。ほとんどの人間は学校か会社にいる時間帯。おかげで人通りも少なく、有り難いことに見たところ、今は誰もいなさそうだ。

 一応、ベランダにも出てから、下を確認してみたが人はいないようだった。

 洸がいるこの部屋は。ここから飛び降りれば、間違いなく


 洸は迷わずベランダの鉄製のフェンスに左足を引っ掛けた。そして、もう片方を外側へ投げ出そうとした、その時だった――。


 ――ピンポーン。


 部屋のチャイムが鳴り響いた。


 ――ピンポーン。


 開けっ放しでベランダに出たからわかる。隣の部屋でもない。間違いなくこの部屋のチャイムが鳴っている。


 ――ピンポーン。


(……しつこいな)


 ――ピンポーン。


(……人が死のうとしてる時に)


 ――ピンポーン。


 荷物を頼んだ覚えはない。まさか、もうこの場所を特定した厄介ファンの奴らか、はたまた変なマスコミでもやってきたのか。


 ――ピンポーン。


(……どうやらこれは一旦、追い返すしかなさそうだな)


 流石にこの状況で自殺するのは、人生最期の場面として如何なものか。

 洸は両足をベランダに戻すと、力の抜けてしまった体で、ほとほとと玄関まで歩く。


 ――ピンポーン。


 こうしている間にもチャイムの音は鳴り響き続けている。

 玄関まで来た洸は、靴を履くと、ゆっくりとドアを開いた――。


「こんにちは」


 鈴の音のような透き通った綺麗な声が扉の外側から部屋の中へと響き渡る。

 洸はそれに呼応するかのように、俯いていた顔を上げた。


(えっ、可愛い……)


 真正面に立つ自分とは真逆のキラキラとしたオーラを放つ可憐な少女。洸は無意識のうちに、その姿に惹きこまれていた。

 肩にかかるくらいのショートヘアーの明るい茶髪。色白の綺麗な肌。琥珀色の瞳に、綺麗な鼻筋。ぷるっとした桃色の唇。まさに整った顔立ちだ。

 身長は女性の平均150㎝ちょいといったところで、スタイル抜群であることは一目見てわかる。ライトグレーのメッシュニットにライトブルーのチュールスカート。春コーデに合わせた黒のローファーと鞄。エレガントな雰囲気を演出したコーデだが、その分落ち着いており、彼女の美しさを十分に引き立てている。


「あ、あの……流石にそんなにまじまじと見られると、いくら洸くんとは言え恥ずかしいんだけど……」


「えっ、ああ、ごめん……」


 洸は動揺しながらもしっかりと謝る。いくら目の前に美少女がいたとは言え、流石に引くレベルで見過ぎてしまった。


「まあ、洸くんだからいいけど……」


 目の前の美少女は恥ずかしそうに顔を赤く染めながら、短い横髪をくるくるといじった。そんな彼女の姿を見て洸はまた可愛さで殺されそうになる。


(微笑みを向けてくれながら、下の名前で呼んでくれるなんて天使じゃん!!)


 はたから見れば、付き合いたてのカップルのような二人。

 童貞には耐えきれない程の今のこの甘い雰囲気は、お互いの信頼関係がないと決して出すことはできない。

 そんな二人の関係性とは――、


(……って、この人誰!?てか、なんで俺の名前知ってんの!?)


 そう、全くの初対面……のはずである。

 しかし、彼女は洸の疑問を余所に、尚も親しげに話しかけてくる。そのため、洸は「あれ?俺の記憶違いで、この人と何処かで会ったことあるのか?」という気持ちになり、口を開くことが出来なかった。

 そんな洸の戸惑いを諸ともせず、一方的に彼への好意を伝える彼女。その勢いは、かつて名高いトーク力で、Vtuber界を統べってきた男に話す隙すら与えさせなかった。


「洸くんの好きなチョコバナナ作ったよ」

「洸くんの好きな巨乳黒髪ロングの同人誌も用意したよ」

「洸くんのためだけに勝負下着履いてきたよ♡」


(……ってか、なんで俺の好きな食い物も性癖もバレてんだ!?)


 おまけにハートマーク付きで、自分のために勝負下着を履いてきたとまでおっしゃられている。一体、これから彼女はナニをおっぱじめようとしているのか……。


(痴女かよ、この人……)


 とにかく、洸の脳内での状況の整理が追い付かない。


(おまけに話も入ってこないし……)


 だからか、彼女のこんな発言にもついつい頷いてしまっていた。


「これから私の家に来るよね?!!」


 気がつけば、洸は彼女に腕をグイっと引っ張られて外へと連れ出されていた。


「ちょ、ちょっとおぉぉぉぉ!!!!」


 つい先程まで死のうとしていた洸は、気づけばそんなことを考える暇もなくなっていた。

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