第30話 イベントフラグ
「うちの操練場より格段に広いな」
「そうだね。ここでなら、派手に戦っても被害は少なそう」
目の前にはだだっ広い草原が広がっている。操練場と言われているが、要は霊機に乗って暴れても問題ない空間という意味でしかない。ドワイド家の操練場もそれなりに広かったが、王立機士学校として何百人もの機士を養成する機関の所有する操練場は桁違いに広かった。
その広大な操練場の片隅に、何十機ものザガルバンドが並べられており、その中の1機に目立つ金ぴかの機体があった。
持ち込み機体が置かれているということは、俺は新入生代表として選ばれたってわけか。リンデルの場合は、平民成り上がりを目指すやつの心を砕くという意味で選ばれたと後に発覚したが、俺は違う理由で選ばれたと思われる。
まぁ、俺の選ばれた理由は、機族の子息たちに機士学校の厳しさを教え込む絶好の獲物としてってところだろう。あれだけ派手な機体を持ち込んだわけだし、機士学校を舐めてると思われても仕方ない。
「これより名前の呼ばれた者は、霊機に乗り込むように!」
順番に名前と精霊の契約名・格・属性が読み上げられていく。呼ばれた者の大半が、有力機士の子息で、機体を持ち込んだ者たちだった。
「ルシェ・ドワイド! 契約名シア、精霊王位・無属性!」
「呼ばれたようだ。行こうか」
「はーい。さて、ルシェのすごさをみんなに知らしめないとねー。上級生たちを全機撃破とかしちゃおうか?」
「シアの強さもみんなに見せつけないといけないしな。それも面白いかもしれない。親善試合とはいえ、真剣勝負だしな」
「りょーかい。じゃあ、やっちゃいますかー」
「ああ、そうするとしよう」
俺たちは自らが持ち込んだ機体が置かれている場所に向かい、金色のザガルバンドを起動させると、誘導に従って上級生たちが待つ場所に移動していく。
上級生代表たちはすでに搭乗を終えて、搭乗にもたつく新入生を待ち構えていた。
「大したやつらいないね。今並んでる上級生たちも中位精霊との契約者が数人くらいで、あとは低位だけみたい。わたしたち舐められてる?」
「まぁ、新入生は機体を持ち込んできた者でも、霊機操縦なんてほとんどしたことないだろうし、操縦技術で圧倒できると思ってるんだろうさ」
「すでに実戦まで経験してるルシェにそう思ってるの? あいつら、頭大丈夫?」
シアがすでに上級生の契約精霊たちの実力を分析して、脅威度判定を終え、色分け表示してくれていた。大半が自分たちより格下という意味の白色表示になっている。
彼らには悪いが、エルとの決闘フラグを立てるため、とっとと倒させてもらうつもりだ。
「先輩たち、ちょっと提案があるんですが……。他の新入生たちが来るまで時間がかかりそうなので、俺と先にやりませんか? 有力機士の世間知らずな子息に活を入れたくて仕方ないんでしょ? そうですよね? 校長?」
外部拡声器を使い、観覧台にいる校長や講師役の機士たちにも聞こえるようにしておいた。今の俺の発言で先輩たちだけでなく、校長や講師たちも形相が変わった。俺が上級生だけでなく、校長や講師たちも舐めていると察したらしい。
「よかろう! そこまで言うならルシェ・ドワイドの提案を受け入れる! 上級生代表で我と思う者は前に出よ!」
「時間の都合もあるだろうし、上級生全員と俺とでやりましょうよ。10対1でも20対1でも構いませんよ」
「貴様! 舐めているのか!」
「いえ、先輩たちに敬意を表しての提案ですよ」
俺の発言で周囲の空気がピリつく。今の俺は完全に機士学校の上級生たちを馬鹿にしている痛い有力機士の馬鹿子息っぽさ全開だ。リンデルルートとは若干流れが違うが、ここでは自分に上級生たちのヘイトが向くように動くのが正解だ。
そうしておかないと、上下関係に厳しい体育会系のエルが、俺に対して決闘を申し込む理由ができない。
「ルシェ・ドワイド。その言葉に二言はないな?」
「ええ、問題ありません」
「ならば、やってみたまえ」
観覧台の校長は、待機している上級生たちに対し、交戦の許可を示す手信号を送った。準備を終えていた20機のザガルバンドが一気にこちらへ向かって駆け出してくる。
「ルシェ、来るよ」
「ああ、分かってる。みんな、俺の言葉に相当怒ってるらしいな」
「でも、問題はないよ。ドワイド家の従機士たちより雑魚だし」
ドワイド家の従機士たちは、最前線で
不用意に突っ込んできた1機の拳をかわすと、足を払って地面に転がす。背後から隙を突こうとしたもう1機の胸部に拳を打ち込み行動不能にすると、怯んだ別の機体に狙いを付けて飛び膝蹴りを胸部に食らわせる。
上級生たちはこっちの動きについてこれず、右往左往していた。
「嘘だろ!? 何だ! この動き!? ザガルバンドがこんな動きするわけないだろ!?」
「これが何百年ぶりに契約された精霊王位・無属性の力か? ヤバすぎだろ!」
「金色の目立つ機体だ! よく見てれば、かわせない攻撃じゃないぞ!」
「慌てるな! 囲め! 囲め! まだこっちには17機もいるんだ!」
悪いが前座でしかない上級生たちと時間をかけて遊んでる暇はない。とっとと片付けさせてもらう。
上級生たちの乗るザガルバンドが、囲いを縮めるように俺をめがけて近づいてくる。あと少しで捕まるというところまで来た時、前方の機体を踏み台にして囲いを脱するように飛び上がった。
「オレを踏み台にして飛んだ!? ザガルバンドだぞ!? あんなに身軽に飛べるわけがない! ぐぅーっ!」
俺に踏み台にされた機体はバランスを崩し、捕まえようと迫っていた仲間の機体と派手に接触して転倒する。転倒に巻き込まれ数機のザガルバンドが尻もちを突いた。
「先輩方、戦場で尻もちを突いたら命はありませんよ」
俺は立ち上がろうとしていた上級生のザガルバンドの頭部を次々に蹴り飛ばして視界を奪った。
「それに視界を失ったら、どうします? 俺の場所が分かりますか?」
頭部を失った上級生の機体はかろうじて立ち上がったが、視界が失われているため、近くの味方を俺と誤認し始めた。
「う、うわぁああ! 視界が! モニターが壊れた! 近寄るな! 近寄るな!」
「おい! オレは味方だ! しっかりしろ―――。うぐわぁああああっ!」
「お、おい! どうなってる! あいつはどこだ! 報告しろ! クソっ! クソっ! 視界がっ!」
「後ろだ! 後ろ! お前の機体の後ろに! あぁ……やられた」
「そ、そこか! 喰らえ!」
「馬鹿! オレだ! オレ! ガハッ!」
上級生たちは、数の多さが仇となって、視界を奪われ混乱した者と正常の者たちで同士討ちが始まり、その隙を突いた俺の攻撃を受けて次々に機能停止に追い込まれていく。
あっという間に最後の1機になり、喚きながら突っ込んできたのをかわし足を払って転倒させると、そのまま踏みつける。
上級生20機のザガルバンドは10分も持たず、俺によって壊滅させられることになった。
「よし、前座終了っと」
「やっぱり大したやつはいなかったね」
「機士候補生だしな。この機士学校に俺の相手になるやつはいないみたいだ」
今の発言は外部拡声器を通してあり、観覧台で観戦しているエルにも聞こえたようで、こっちを睨みつけてきていた。
相当怒ってるらしい。上下関係に厳しく真正直な性格のエルからしたら、今の俺は機士学校の秩序を乱す害悪に見えてるんだろう。さぁ、俺に決闘を挑んで来い。
エルが校長と話し合っている様子を眺めていると、ようやく搭乗を終えた新入生たちが操練場に姿を現した。
「これ全部、あいつがやったのかよ」
「誰だよ。精霊の力のおかげだって言ったやつ。どう見ても操縦の腕がないとやれないだろ。こんなの」
集まってきた新入生たちの方へ機体を向ける。新入生たちは、俺の視線に入らないよう蜘蛛の子を散らすようにばらけた。
「ひぃ! こっち見てるぞ!」
「ル、ルシェ君! き、君はすごいね。僕なんかとは大違いだよ。うん、全然違うね」
「僕らはもう出番なさそうだし、戻ろうか」
「ひぐぅ! こ、殺さないで! お願いします! 何でもしますからぁ!」
じりじりと後ずさる者、恐怖で機体のバランスを崩して尻もちを突く者、視界に入らないよう立ち回る者といろいろいるが、新入生たちはそれぞれが俺に恐怖を感じている様子だった。
ヘイトを集めるためとはいえ、ちょっとやりすぎたかもしれない。後で同期たちとの交流はちゃんとしておかないといけないな。
「ルシェ・ドワイド! 君はこの機士学校の秩序を乱す存在です! 実力で勝っていようが上級生は敬うべき存在。それを侮辱にも似た行為で晒し者にするのは許せません! このエル・オージェンタムが決闘を申し込ませてもらいます!」
ビビり散らかす同期たちを見ていたら、観覧台で拡声器を手にしたエルが決闘を申し込んできた。
よし! イベントフラグ回収を1つ発動させたぞ! これでエルに勝てば、ソラのイベントが発動するはずだ!
「決闘、受けて立ちますよ。機士学校の首席機士様の実力を見させてもらいます」
「その生意気な口をすぐにでも塞がせてもらいます!」
憤怒の表情を浮かべたエルが、近くに駐機してあったザガルバンドに乗り込む。起動をすると、すぐに立ち上がって訓練用の剣を2振り持ち、操練場に出てきた。
起動の早さは、さすが首席機士様ってところか。
エルは精霊王位・地属性のハムスターっぽい精霊と契約してたはずだ。
ヒロインとしての虹の宝珠作成要員だけでなく、高耐久の専用機体に乗ると、地属性の精霊特性を生かし、メインタンクとして前衛を任せられるキャラに育つ。
超難関のハーレムENDをクリアするには絶対に彼女の力が必要だった。つまり負けられない戦いである。
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